6話《笑み》
優しい笑みを浮かべながら椎葉は二人の方を見ていた。そう言われて歌恋とルミは互いにじっと顔を見合わせると、先にルミが顔を真っ赤にし、歌恋はぎゅっとルミのことを抱きしめた。
「まぁ、もう姉妹みたいなものでね。羨ましいか?」
「微笑ましいよ。それに、春宮さんがそんな風に表情がコロコロ変わるのは新鮮でとてもいいよ」
「確かに。ルミって人見知りだからね」
「だからかな。普段とは違ってとても魅力的に感じるよ」
「へ!?」
「おやおや。椎葉は、ルミみたいな子が好みなのかな?」
「ふふ。さぁ?」
「何!うちの可愛い娘はやらんぞ!」
「先輩!それだと私が先輩の娘みたいですよ!」
「あぁそっか。そうなったら、先輩は私の息子?」
再び二人で会話をし始め、歌恋がボケてルミがツッコンで。ある意味茶番のようで、特に面白みもないやり取り。だけど、二人はどこか楽しそうだった。
「そうだ椎葉」
「んっ、なんだい?」
「明日暇だったりする?」
「特に予定はないけど」
「それは良かった」
少し強めにテーブルを叩き、歌恋は身を乗り出して椎葉にグッと顔を近づけた。
「神薙さん、近い……」
「えっ、あぁごめん」
なんでもない男女にしては近すぎる距離に椎葉はほんのり顔を赤くして顔をそらす。だが、歌恋は特に恥じらう様子はなく、そのまま先ほどまでいた位置まで体を戻した。
「そ、それで何かな?」
「明日、ルミが私が弓を引いてるところの写真を取りにくるの」
「へぇ。神薙さんの絵を描くのかい?」
ルミは小さくうなずいて返事を返すと、椎葉は興味深そうな声を出し、少しだけ考えていた。
「そうだね、僕も神薙さんの弓には興味あるかな。なんたって、前部長だし」
「そんなに大したことないよ。予選落ちするぐらいの実力なのに、なんで部長なんて」
「だったら多分、神薙さんの人柄だよ。実力じゃなくて、神薙さんの人柄に惹かれて、みんなが部長に選んだんだよ」
なんの冗談でもなく、椎葉はきっと本当にそう思って言ったのだろう。そう思うと、なんだか恥ずかしくなって、柄にもなく歌恋は顔をうつ向かせて「そうかな」と呟いた。
「それに、噂で神薙さんの弓を引く姿は綺麗だって聞いたからね。春宮さんもそれを聞いたんじゃないかな」
歌恋はちらっとルミを見ると、彼女は一瞬あわあわするが、コクコクと激しく頷く。なんだか気恥ずかしくなって、歌恋はヘラっと笑って「ありがとう」と口にした。
そんな様子を、椎名はじっと見つめたあと、席を立ち始めた。
「僕はそろそろ戻るよ。お邪魔して申し訳ないね、楽しかったよ」
「え、もう行くの?せっかくならイルカショー一緒に観に行こうよ」
「お誘いは嬉しいけど、せっかくのお出かけの邪魔できないよ」
苦笑いを浮かべながら、椎葉は「楽しかったよ」と口にしながら軽く手を降り、人混みに紛れながらその場を後にした。
「残念だね」
「そうですね」
二人は残念に思いながら、止まっていた食事を再開した。