5話《三人の昼食》
「椎葉」
にっこりと笑みを浮かべながら、椎葉は二人の側にやってきた。
「やぁ、奇遇だね。二人も水族館に?」
「うん。夕月先輩にチケットをもらってね。そういう椎葉は?」
「絵の取材でね」
手にしたカメラを見せながら、多くは語らずにそう答えた。ルミは少し戸惑いながら。歌恋の手に触れて、ぎゅっと強く握った。
「ねぇ椎葉。お昼がまだなら一緒にどう?」
「ご一緒していいのかい?」
「私はいいけど……ルミはどう?」
顔を覗き込み、彼女の意思を聞いた。正直、歌恋は少しだけ後悔していた。こっちから誘ったのはいいものの、知らない仲ではないとはいえ、椎葉は男性。ルミは異性が苦手なため、彼女が嫌なら断るしかない。
「だ、大丈夫です」
「無理しなくていいよ? ルミが無理なら……」
「へ、平気です! 大丈夫です」
少し緊張してはいるようだが、彼女が大丈夫ならということで、二人は椎葉と一緒に食事をとることにした。
*
フードコーナーには結構な人の数があった。お昼も近いということもあり、他のお客さんも席について昼食をとっている。
「ふわぁ〜……!」
「ルミはオムライス?」
「はい。歌恋先輩はカレーですか?」
「そうそう。椎葉はハンバーグかぁ」
「子供っぽいかな?」
「いやいや全然」
それぞれバラバラのものを注文して、口に運んでいく。幸せそうにオムライスを食べるルミを見て、思わず歌恋は笑みを浮かべた。
カシャッ
不意に聞こえた無機質な機械音に歌恋は顔をあげた。そして、その音がした方に目を向けると、カメラを手にしている椎葉の姿があった。
「盗撮だよ」
「ついね。こんな春宮さん見たことなかったから」
ルミは食事に夢中になってるようでシャッター音には気づいていなかった。実際、音もそんなに大きいものではなかった。
「見せて」
「いいよ」
正直、一瞬歌恋の心臓が跳ね上がった。もしかしたら、ストーカーが写真を撮ったのではないかと。
「おぉー、よく撮れてる。写真の才能もあったんだ」
「そんなことないよ」
「……これ頂戴」
「ダメだよ。代わりっていうのも変だけど、二人が並んでる写真を撮ってあげようか?」
「えっ、いいの?」
「お昼を誘ってくれたお礼だよ」
優しい笑みを浮かべて、椎葉はルミの方にレンズを向ける。
「ルミ、顔あげて」
「ふぇ!? な、なんですか!?」
「じゃあ撮るね」
状況を理解してないルミはただ慌てるだけ。歌恋はルミの肩を寄せてカメラに向かってピースをする。
シャッター音がなると、歌恋はどんな風に撮れたか気になって椎葉の元に駆け寄る。
「できたら渡すね」
「楽しみにしてるよ」
「酷いです……」
ムッと頬を膨らませて拗ねるルミ。一人だけ状況がわからないまま写真を取られて、ものすごく不満を抱いてるようだった。
「ごめんってルミ。機嫌なおして」
「頭撫でたって、許してあげませんよ!」
「……随分、仲良いね」
ふと、二人の様子を見ていた椎葉が言葉を零した。