4話《幻想に目を輝かせて》
「ふわぁ〜……!」
水族館の中は雰囲気作りのために、どこも暗かった。特に深海魚のコーナーが一番薄暗かったが、カラフルな光が水槽を照らし、なんとも幻想的だった。
「キラキラしてるなぁ……」
大きなガラス張りの水槽に張り付くように中の魚たちに目をやるルミ。隣で同じようにガラスに張り付く子供と見比べても、パッとみ高校生には見えない。
休憩用に用意されているのだろうと思いながら座った椅子から、大はしゃぎするルミを姿を目にして、歌恋は楽しそうに笑みをこぼした。
「先輩、鮫がいますよ!」
「そうだね。ガラス突き破って出てきたりしないかなぁ?」
「えっ、なんでそんな怖いこというんですか!?」
あわあわし出すルミをみると、又しても笑みが溢れる。
すとんっと歌恋の横に腰を下ろしたルミはカバンの中からスケッチブックを取り出すと、真っ白なページに鉛筆を走らせる。途中途中、思い出すように顔をあげて水槽を見つめて、また鉛筆を走らせる。
「さすが美術部。うまいね」
「えへへっ。ありがとうございます」
「これって……あぁ、あれか」
「はい。で、これが……あそこで泳いでるので」
「すごいなぁ」
ただ関心の言葉しか出ないが、ルミは満足そうな表情を浮かべていた。なんだか褒めたくなり、歌恋はルミの頭を優しく撫でてあげた。
「ん?なんですか?」
「なんとなーく」
「なんとなくで頭を撫でないでください。子供じゃないんですから」
ムッと不機嫌そうな顔をするルミに、笑いながら謝罪をする歌恋。
「そろそろお昼にしようか。イルカショーまで少し時間あるし」
「あ、わかりました」
「春宮さん」
スケッチブックをルミがカバンに入れていた時に、誰かが彼女のことを呼んだ。
呼ばれたルミも、隣にいた歌恋も、声のした方に視線を向けた。