1話《イベント》
「水族館?」
バイトが開始されて二週間。今日から八月が始まり、夏休みも残り一ヶ月となった。
その日、夕月は家にいなかったが、歌恋はルミと一緒に夏休みの宿題を行なっていた。バイトの報酬として歌恋は夕月に勉強を見てもらっており、ルミもコツコツ地道にやるタイプのようで、お互いに宿題はもうほとんど終わっていた。
「兄さんにチケットをもらったんです。気分転換で行ってこいって」
「これって、駅前にできた水族館」
テレビで何度かCMを見た気がして、その時のことを歌恋は思い出した。普通の水族館と違い、デザイン性や凝った演出が売りの水族館だ。家族はもちろんンだが、カップル向けのデートスポットとしても有名だった。
「ルミは行きたい?」
「はっ、はい。興味あります。それに……」
何かをルミは言いかけるが、首を振って「なんでもありません」と笑顔を浮かべた。
明日は日曜日のため、夏休みとはいえ普段よりは人も多い。早めに行こうと、二人は予定を決めた。
「んっ、んー! 終わったぁ」
「お疲れ様です、先輩」
「ルミも終わった?」
「はい、先輩のおかげでなんとか。教えるの、すごく上手ですね」
ルミが冷たい麦茶を持ってきてくれ、歌恋は一気に飲み干した。
「そうかな?」
「はい。ずっとわからなかったところがわかってよかったです」
「それは何よりです。……あっ、そうだ」
不意に何かを思い出したような表情を浮かべて、テーブルに肘をついてニッコリと笑みを浮かべた。
「明後日、前に言ってた撮影、許可が出たよ」
「ホントですか!?」
「うん。立会として、顧問と今の部長がいるけど。それでもいいなら」
「大丈夫です。はぁ、やっとかぁ」
「そんなに楽しみだったの?」
「はいっ、すっごくすっごく楽しみでした」
初めて会った時に比べたら、ルミは随分と感情的になったり、表情もコロコロ変わる。彼女との親密も深まり、歌恋は嬉しく思っていた。
「さて、先輩が帰ってくるまでなにをしようか」
「この前兄さんがやってたゲームしましょう。パズルゲーム」
「おっ、いいね。やろうやろう。ついでに上書きしちゃう?」
「さすがにそれは……」