本屋のハエへの衝動
前の反省を活かしまして、短編として汲み取りやすいように、長めの状況説明を加えての構成。
私の名前は杉山かえ、とある高校の生徒会長。
そんな私は、今恋をしてる。相手は同じクラスの幸村亮介君。私は基本教えられればなんでもできる、自分で言うのもなんだけど、超がつくほどの優等生。何に関しても、少なくとも合格点は出せる。
そんな私だから、皆は一歩引いた状態で接してくる。いや、その気持ちはわからなくもないよ。私も昔はそんな中の一人だったから。恐れ多いとか、高貴だとか、いけ好かないだとか、釣り合わないだとか。まあ色々な考えはあるだろうけど、基本私への対応はそんなに変わらない。それが他の人に対するよりも、少し強いから、正直思うところはある。
そんな中、幸村君は違った。私が暇そうにしてる時に、彼から声をかけてくれるし、私への応対も誰に対するものと変わらず、これが結構嬉しかった。普段と比較すると、どうしても良く見えちゃって、気づいたら、彼を目で追っていたりもした。それが恋心とわかるのに、そう時間はかからなかった。だって、彼が他の女子と楽しそうに話してるのを見るだけで、その女子に嫉妬心が湧き上がってくるから。そこは本来私のいる場所だぞ、と。
彼はクラスのムードメーカーだから、中には好いてる人もいるだろうけど、私も引く気はない。彼が誰に対しても笑顔を振りまいてるのも、原因のひとつだろうけど、そこは彼の美点だからいいの。
今はそんな彼と話を始めたとこ。
「個人的には人の衝動は、時々抑えられなくても、仕方ないと思うの」
「衝動っていうと……あれか、押すなっていうボタンほど、無性に押したくなるやつ」
伝えんとしてることを、すぐに汲み取ってくれる幸村君は、今日も素敵。
「それなんだけど、駅の本屋で似たようなことがあってね」
「本屋っていうと、特に何もなさそうだけど」
「ハエがいたの」
「?」
「本の上に」
少し考える幸村君。
「……まさか売り物に」
「そのまさかよ。抑えきれなくて、隣の本でそっとフタしちゃいました」
「やっぱりかー」
「大丈夫、ビニールかかってる本だったから!」
「そこ!? まあむき出しのやつよりかは、多少マシだろうけどさ」
「大丈夫よ、全力でバレないように逃げてきたからね!」
「そこは誇るところじゃないだろうけど……、正直その話は以外だった」
「何が? 」
おや、心象を悪くしちゃったかな、この話は失敗だったかに思えた。けど
「そんなことに全力を尽くすあたり、クールなイメージの杉山さんだけど、お茶目な一面で可愛いなって。僕は何に関しても、基本中途半端になりがちだし、ただ舌が余計に回るだけだからね」
(! か、可愛い!? 今の可愛いかったの!?)
可愛いという言葉に、自分の顔が熱くなるのを感じる。それを誤魔化すかのように言葉を紡ぐ。
「かか、可愛いだなんて、しかも今ので?」
「いや、普段は真面目な杉山さんが、くだらないことで本屋で葛藤したり、ワクワクしながら本乗っけてるの想像するだけで、こっちとしてはもう満足かなって」
「////////////」
嬉しさと恥ずかしさで、もう顔から火が出そう。いつまでもこんな時間が続けばいいのに。
僕の名前は幸村亮介。一般people。パンピーの方が今の若者には伝わりやすいかな? いや、ほとんど変わんないけどさ。
それはいいとして、最近は僕ごときが、会長に目をつけられてる気がする。
この高校の生徒会長かつクラスメイトの杉山かえさん。彼女は輝いてる。生徒会長としての手腕がすごいとか、定期考査は一位確定とか、体育祭では足も速いくせに障害物競走出たとか。何やっても失敗してる場面を見ない。血のにじむような努力の結果だろう。普通の僕からすれば、傍から見てて「すごいなー」くらいのものだった。
だけど時折寂しそうな顔をする。
僕はよく舌が回るくらいしか取り柄がないから、それを少しでも活かそうと、活発に他の人と交流した。今までもそうやって過ごしてきたしね。してたら、ムードメーカーみたいな存在になってた。それはいいんだけど、そうなってみて、初めて気づいた。彼女だけ笑ってないなって。顔は笑ってても、心が笑ってないの丸見えだなって。彼女は性質上、作り笑いもしっかりできるタイプだろうけど、多くの人と関わりを持ち、話してきた僕にはすぐに見抜けた。
(ああ、なんでこんな、簡単なことにすら気づけなかったんだ)
それからは、彼女にも積極的に話しかけた。この空間を形成したのには、僕が大きく関わっていたから。責任の一端を勝手に感じていたから。彼女のことなんか何もわかっちゃいないけど。それでも、それで彼女が真に笑えるなら。不平等じゃん。みんな楽しめてるのに、一人だけ蚊帳の外って。経験があるからこそ痛いほどわかる。
杉山さんは僕と話すようになって、少し明るくなった。他の人はわからない些細な変化だろうけど、僕にはそれが、とても嬉しかった。みんなと同じ、しっかり笑えるようになったのだから。
話してみると結構気さくで、「クールビューティ」っていうイメージは吹き飛んだ。やっぱり誰しも、外見だけじゃわからないね。
そんな彼女の意外な一面。
「個人的には人の衝動は、時々抑えられなくても、仕方ないと思うの」
「衝動っていうと……あれか、押すなっていうボタンほど、無性に押したくなるやつ」
衝動と聞いて、みんな真っ先に思い浮かぶのって、多分これじゃないかな。
「それなんだけど、駅の本屋で似たようなことがあってね」
「本屋っていうと、特に何もなさそうだけど」
「ハエがいたの」
「?」
「本の上に」
本の上にハエ、しかも本屋……なんだこの既視感は。前に遭遇したことあるけど、まさか乗せたいってやつじゃ。
「……まさか売り物に」
「そのまさかよ。抑えきれなくて、隣の本でそっとフタしちゃいました」
「やっぱりかー」
「大丈夫、ビニールかかってる本だったから!」
「そこ!? まあむき出しのやつよりかは、多少マシだろうけどさ」
「大丈夫よ、全力でバレないように逃げてきたからね!」
「そこは誇るところじゃないだろうけど……、正直その話は以外だった」
「何が? 」
まさか気づいてないのか、自分がどれだけギャップ萌えな行動をしてることに。自分のことじゃないのに、なぜかちょっと勿体ないと感じる。だから本音を吐く。
「そんなことに全力を尽くすあたり、クールなイメージの杉山さんだけど、お茶目な一面で可愛いなって。僕は何に関しても、基本中途半端になりがちだし、ただ舌が余計に回るだけだからね」
急に顔を赤くする杉山さん、もしかして可愛いは言われ慣れてないのかな……。まあ僕も、最初はクールビューティとして見てたし、仕方ない気もする。満更でもなさそうだし、この際だからもっと言ってやろう。
「かか、可愛いだなんて、しかも今ので?」
「いや、普段は真面目な杉山さんが、くだらないことで本屋で葛藤したり、ワクワクしながら本乗っけてるの想像するだけで、こっちとしてはもう満足かなって」
いつもが威圧でも高貴って訳でもないけど、普段もその調子でいけば、誰とでも柔軟円滑に会話できるだろうに。とか思ってしまう。我ながら失礼だなあ、ほんと。
なお短編形式は辞めない模様。