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第一話 冒険者になろう



 夕暮れ時、一台の馬車が街に辿り着いた。降りてくるのは大人の女性と一人の少年。


 「エヴァ先生、今まで色々と、ありがとうございました。」


 深々と少年がお辞儀をする。


 「いあ、もう二度と会えない訳ではないんだから、そんな畏まらないでよ。だけど本当に冒険者になるのね。リント君も体、丈夫じゃないんだからあまり無理しちゃダメよ。もし何かあれば私は学園の方にいるから何時でも訪ねてきてね。もちろん何もなくても来てもいいのよ。」


 うふふ、とからかう様に微笑むこの女性。名を、『エヴァ・ルメ-ル』という。この『城砦都市ベイル』にある学園に在籍する教師であり時に貴族の依頼等により家庭教師として教鞭を揮いに赴く。ちなみに彼女の年齢は不詳である。


 「何かあれば・・・い、いえ、何もなくても是非訪れたいです、はい。では、エヴァ先生もお体に気を付けてくださいね。それではっ!」



 そして、この女性の顔色を伺い慌てて言い直した少年こそ今回の主人公の『リント・フェルバ-ン』である。



 二人は別れを告げると別々の方向へと歩き出した。






          ◇






 エヴァ先生と別れた後、俺は先生に紹介してもらった宿へと足を運んだ。名前は『千鳥亭』ランクとしては中の下くらい。一泊、リオン銅貨25枚と駆け出し冒険者にとっては高すぎる金額ではあるのだが、安宿は貧民街に近く治安が心配なのだとか。



 故に持ち合わせの滞在費は7日分……。



 自分としては別に安宿でもよいのだが、田舎領地から大都市であるここベイルに上京する条件として所在をはっきりさせておくという約束で田舎領主である父に旅費と滞在費を出してもらった手前、勝手に宿を移る訳にもいかない。



 この、おぼっちゃんがっ!とかいう、罵声がどこからか聞こえてきてるような気がして、なんだか耳が痛い。



 まあ要するに冒険者になって依頼をどんどんこなしてガッポリ稼げはお金の心配もなくなるというわけだ。


 ・・・と、甘く考えているわけでは決してないのだが、まあなんとかなるだろうと、明日に備えて、はやめに休むことにした。



 あてがわれた部屋のベットに横になるとほどなく眠りについた。旅の疲れが出たのかもしれない。





 翌朝。



 朝食をすませ宿を出ると大通りを昨日入ってきた北門とは逆、南へと向かう。朝の喧噪が田舎町とは比べ物にならないほどで、通りも様々な職業の格好をした人達が行きかっている。その人波を潜り抜け暫く歩き続けると、やがて中央の広場にでる。その一角、特に厳重に城壁で囲われた場所には門があり、その開かれた門扉の先には巨大な穴が口を開けているのが垣間見える。それが『ベイル地下大迷宮』入口。




 『ベイル地下大迷宮』


 それは約200年程前、何もない平原に突然、巨大な穴が出現したのだという。それはダンジョンという魔物を生み出す危険な穴で、当時、大規模な討伐隊が組まれたが100を超える階層からなるこのダンジョンを攻略することは到底不可能であった。その後、ダンジョンについて様々な研究が進められ、魔物を定期的に間引くことにより、ダンジョンから魔物が溢れることはないという発表がなされた。それにより、この地を管理していた『リィングラム公』が、息子の『ベイル』に銘じて、この地に都市を作らせ、ダンジョンを資源地として街に取り込んだのである。そしてそれが別名、迷宮都市といわれる所以である。




 その迷宮入口を正面にして立った時、真逆に一際大きく聳えている建造物がある。それは古き時代の趣のある石造りで城砦に取り込まれるような形で作られ迷宮と共に最初からこの都市の一部のように聳えている。それがこの都市の誇る冒険者ギルドである。





 冒険者ギルド(ベイル支部)。利用者の多いこの時間帯は正面に複数ある扉は全て開け放たれ、中に入ると広いフロアにたくさんのカウンタ-が並び、そのどれにも長い行列ができている。


 う~ん、一体どこに行けばいいんだよ~。


 何か情報はないものかと辺りを見回すと職員らしき女性を発見。すぐさま尋ねると「こちらへどうぞ」と2Fへと案内された。ちなみに途中に『新規の方は2Fへ』と、わかりやすい看板がかかっているのを見て、案内されている自分が恥ずかしくなったのは余談である。


 案内された部屋はそれほど広くなく1Fにあったようなカウンタ-テ-ブルが1つと、その横には簡易な壁で仕切られた応接スペ-ス設けられてある。


 というか、誰もいないんだけど…て思っていると、案内してくれた女性がカウンタ-席に着き、そのまま対応してくれるようだ。


 もしかしたらこの人が元々ここの担当なのかもしれない。どうでもいいんだけど…


 カウンタ-を挟んで座る。


 「冒険者登録をしたいんですけど…」


 「新規登録の方ですね。ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください。」


 用紙を受け取り記入……ん?


 「あの、希望の名前って、本名書かなくてもいいんですか?」


 「そうですね。呼ばれたい名前ということになりますね。ご自身の名前を伏せたい方もいらっしゃるでしょうし、実際の名前を書いてくださいということにしていても、違う名前を書く人がいるでしょう?またこちらもそれらを判別できませんので・・・一応登録について説明しておきますが、まずこちらに血液を一滴たらして頂いて、ギルドのデ-タベ-スにアクセス、照会して過去登録歴、犯罪歴が無ければ登録完了という流れになります。ですので呼ぶときに名前があったほうが便利という意味での名前になります。」



 うん、長い説明ありがとう。なるほど、血液で個人を判別してるから呼ばれたい名前でいいよってわけか。血液といってもDNAによる判別なのか固有魔力を判別しているのかわからないけど今は特に考える必要ないや。となると、う~ん、名前何がいいかなぁ~。




 「ただ……」


 受付の女性はこちらを窺うように見た後ふたたび口を開いた。


 「ただ……物語に登場する英雄の名前等で登録する方が非常に多くいらっしやいまして、その……例えば建国の英雄アルス様とか、受付でアルスさんとお呼びしたらいつも最低5人くらいの方から返事がかえってくるので……それは大変困りますね。」



 うん、本名を書いておこう……。



 「あとは、そうですね。必須事項ではありませんが主要武器等書いておくとPTに誘って貰えやすくなったりとかくらいですね。」




 ふむ、それならば……



   【名前】リント・フェルバ-ン

           

   【職業】弓士

           

   【主要武器】小型弓



と、三項目だけ記入し後は白紙で提出。




 その後、血液を採取され、記入漏れや間違いがないか再度確認して問題なく登録が完了した。



 「これで無事登録完了です。登録費用の方が銀貨1枚になりますので、30日以内にお支払いください。では、引き続き説明にはいりたいので、そちらのほうに移動していただいて……」



 応接スペ-スの方へ促されて移動すると、女性も作ったばかりの冒険者カ-ドとファイルを1冊手に正面に座る。


 それから、冒険者の心得から冒険者のランクについて、依頼の受け方、素材の買い取り、注意事項、罰則事項等、一通りの説明を受けてようやく解放された。



 「お疲れさまでした。それではでは改めて、ようこそ冒険者ギルドへ!」



 そう言って丁寧に両手でギルドカ-ドを差し出してきたので、こちらも丁寧に両手で受け取…あれ?受け取……れなかった。どういうわけか目の前の女性がしっかりとカ-ドをつかんで離さないのだ。しかも笑みまで浮かべているのだ。



 あれか?さっそく新人イジメなのか?そうなのか?



 「あの、離して貰えませんかね?」


 「あらっ、やっと、あの『リント・フェルバ-ン君12才』に会えたのに、もう少しゆっくりして行ってはどうかしら。」


 「意味わかりませんし!こんな田舎貴族全然有名じゃないですし…って、年齢言ってないのにどうして知っているんですか!俺、今日から働かないと数日分の滞在費しかないんですけど!」


 「フフッ、君なかなかノリ良いね。君が有名というかエヴァは私の親友だからね。いろいろ聞いているし。君のめんどうみてくれって頼まれてるのよ。ほら、君って放って置いたらすぐ死んじゃいそうでしょ。それに焦ってもEランクの君が一人で受けられる討伐依頼はないわよ。」


 「なるほど、情報源はエヴァ先生でしたか。すぐ死にそうって思われていたのは心外ですが、討伐依頼がなくても俺、薬草採取しますんで!」


 「すぐ死にそうっていうのは私が勝手に付け加えたのだけどね。そうね、言い方が悪かったわ。この街のギルドには採取系の依頼は一切ないのよ。」


 「低レベルの魔物相手に簡単に死にませんし!勝手に付け加えないでください!それで、採取系の依頼がないとは一体どういう事なんでしょう?」


 「え-と、この街に学校があるのは知っているわよね。学園って呼ばれているけれど、そこに薬学科というクラスがあって、薬に必要な植物や食物はそこの生徒さん達が集めているのよ。迷宮がギルドの領分であるように、植物なんかはあちらさんの不可侵の領域なの。」


 「なるほど、そのような事情がこの街にあるのはわかりました。それなら俺はどうやって稼げば良いのでしょうか?」


 「そうそう、それを話そうと思って君を引き留めたのよ。まあ、座って。コ-ヒ-で良いかしら?」



 そう言って返事を聞かないままどこかへ行ってしまった。




 なんだかマイペ-スな人だな。それにしても最初からつまづいてしまった。俺、冒険者としてやっていけるのだろうか…?不安が頭をよぎる。ほとんど前世の小説や漫画やアニメで得た知識しかないのだ。この世界に生まれ落ちて得た情報は、冒険者ギルドが存在していること。冒険者を生業として生きている人達がいること。この二つだけだ。親父は戦争には行ったことはあるが冒険者ではなかったし、まわりには詳しい話を聞ける人はいなかった。


 家は貴族ではあるが一代限りの騎士爵であり、地盤を継ぐ事が出来ない以上、冒険者を目指すのは異世界転生物の定番だと思うのだ。


 物心ついたときには冒険者になりたいと思っていたし挑戦する前から諦めたくない。やってみて、やっぱりすごく危険で俺には無理だなと思ってから他に自分に出来ることを探せば良いのだ。


 よし、そうしよう。




 部屋をでて一分もしないうちに女性は戻ってきた。手にはポットとカップ二つ、それとお茶菓子をもって。なんでも一階の食堂に行けばいつでも沸きたてのコ-ヒ-が飲めるらしい。


 そういえば、この世界にもコ-ヒ-があるんだな。漂う香りがとてもなつかしい。



 「え-と、まずは自己紹介から始めましょう。」



 目の前の女性はブレずマイペ-スであった。







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