出会い5
気温上昇の探知したセンサーが雨を降らせる。
錆びたくないと思う生命体は急いで室内に戻った。
残っているのは動く力さえ残っていない者と機械の反応が届かない場所に移動した二人だけ。
長剣を見つめる瑠璃色のアイセンサーに気付いた男は困ったように笑う。
「とある少年は、研究というものに惹かれてから研究者になろうと夢を見ていた」
科学の可能性を知った少年は自分で無限の可能性を見つけ出したいと思い、勉学に励んだ。
オタクと呼ばれる事もあったが、褒め言葉と思えば思う程嬉しくて堪らない。
いつしか少年は大人になり夢だった研究者となっていた。
機械には脳が無いと誰かが言っていたが、それは嘘だと思う。
いろんな可能性が浮かんでは研究を繰り返し、成功と失敗を重ねる事が楽しくて堪らなかった。
「そんなある日、俺達の所に王の依頼がやってきた」
機械の発する電波に関する実験。
感情によって変化する電波などを調べては報告を繰り返した。
研究結果を見た王は、男達にある疑問を投げかける。
『我々が発する電波は、他人がコントロールすることは可能か?』
興味を示したから生まれた疑問なのだとその時は思った。
確かに男達研究者もそれが気になり、研究の合間に実験を繰り返していたがまさか王が興味をもってくれるとは思わず急いでデータをまとめて報告と合わせて提出する。
『よくやった』
「あの時の王の笑みは忘れない……」
「それで、どうなったの?」
王は、研究に興味をもっていなかった。
最初から、研究者達が電波について深く調べると分かっていたから遠まわしに命令したのだ。
欲していた報告は「世界に存在する生命体を操る方法」のみ。
利用されたと知った研究者達は深く後悔をする。
報告してしまったデータを無かった事にしたいと誰しもが思った。
『電波を操るにはどうしたらいいか報告せよ』
更なる要望に男を含めた研究者は報告を拒む。
言いなりになる世界なんていらないと思ったからだ。
だが、王がそれを許すはずも無い。
「戦争に研究所が巻き込まれなかったのは王が欲するデータがあったからだ……」
ネリネは考えた事を口に出さずに男を見つめていた。
拒んだ結果。
夢が実現した場所は消えて行った。
研究しかしてこなかった者達がどうなったのか。
「君は、絶望を知ってはいけない」
急に言われた言葉。
それは、自身の心を見透かされているように感じてエンジンが高鳴る。
怒りに燃えていた感情の中に存在していた感情を見透かされたような気がして顔を背けた。
「絶望の先を君は知っているかな?」
「絶望の先?」
「そう、絶望の先……科学者の一人に聞かれた事があってね」
「……その科学者は、絶望の先を知っているの?」
男は悲し気にアイセンサーを揺らす。
答えはなんとなく分かった。
その科学者は、絶望を知ってしまったのだと。
絶望に堕ちてしまったのだと。
「俺は、絶望に堕ちた機体を見たのは二回」
「に、かい?」
「ライラックのあの日、俺は……絶望を食い止める為にそこにいたんだ、二度と繰り返したくなかったから止めようとした」
「ライラックにいたの?絶望に堕ちた機体が!」
男はゆっくりと頷き、口を開く。
言われた言葉が理解出来ずにネリネは固まる。
震える口から出される排気。
雨のせいなのか、瑠璃色の瞳から雫が零れた。