出会い3
「絶望に堕ちてしまったらどうなるんですかね?」
データの整理をしていた男が何気なしに発した言葉。
研究にあたってのデータを組み合わせていた男は手を動かしたまま考える。
絶望、そんな事は平和な世界ではあり得ないと答えるが期待していた言葉と違っていたのか不満そうな声を出された。
「じゃあ、君はどう考えるんだい?」
「そうですねぇ、希望に満ち溢れたこの研究が失敗したら絶望は生まれると思うんですよそうしたら……リセット出来る所まで暴れてやりますかね」
「はは……」
冗談交じりな答えにどう反応したらいいのか分からずに笑う事しか出来なかった男は後悔する。
ずっと平和の為にとやってきた研究。
それが、間違いだと取り返しのつかない事になってしまったと気付いた時にはもう遅かった。
「僕達のして来た事は、こんな事の為じゃない!」
「落ちつけ、リカルド!逆らうな!」
王が全ての生命体をコントロールする目的で始まっていた研究。
希望である研究が絶望を生んでしまった。
その事実を受け入れたくないリカルドは研究データを消去しようとしたが、王の部下に見つかってしまう。
捕えられた仲間を見た男は部下の命令に従って研究を続けた。
―絶望に堕ちてしまったらどうなるんですかね?
リカルドの言った言葉。
それを目の当たりにした男は。
消灯していた目に光が灯る。
夢を見ていた事に気付き、頭を振って起き上がった。
窓から見える空はすっかりと暗くなっている。
宿として利用している施設にいる客はそう多くない。
旅人だと知った経営者は不思議なものを見ているかの表情で部屋を案内していた。
それもそのはず、旅をする気力さえ奪われた世界なのだから。
欠伸をして寝台から降り、散歩にでも出ようと支度を始める。
嫌な夢を見ていたせいか身体が重い。
溜息交じりに部屋の扉を開けたその先に見知った顔があり固まる。
相手も驚いたのか男を見て固まっていた。
「あ、久しぶりって言ったらいいのかな?」
「同じ宿に止まっているなんて奇遇ね」
決してストーカーで無い事を説明して扉を閉める。
目の前にいた女、ネリネは疑っていないと言い返して持ち物を見せた。
喉が渇いたからと水を買って来たらしい。
暇潰しの散歩を二人でする為に玄関ホールへ降りる。
設置されたディスプレイに映る姿を見たネリネは表情を暗くした。
『我は、皆の心を一つにした世界が来る事を願う』
低い声が発した言葉。
聞こえは良いその言葉の裏には「誰も自分に逆らうな」という言葉が見えて男は目を背ける。
「……私、分からないの」
「何がだい?」
「ライラックには、笑顔の素敵な男がいた……いつもニコニコしているから「ニコル」って呼ばれていたわ」
ネリネの話に耳を傾けた。
まだ平和だった頃のライラックの話。
暇潰しにと聞かされた話だが、内容は悲しくて心の中にある気持ちを知って欲しくて話しているように聞こえた。