出会い2
「笑うな!分かっているのよ、その箱の中身は私が見た長剣が入っているってね!ライラックを滅ぼした男が持っている長剣が!」
重い音を立てて箱が地面に落ちる。
ロックが外れ、中身が見えた。
ガイドブックに保存食で溢れた中身に女は言葉を失う。
足から手を放されて慌てて中を探るも、武器は出てこない。
途端に顔が赤くなり、箱の蓋を勢いよく閉じる。
「……ごめんなさい」
歩きながら詫びると男はまだ笑っていた。
いい加減にしてほしいと顔を覆って願うが、笑い声は止まらない。
「いつまで笑っているのよ!」
「親の仇とでも言いたげな目で「長剣を持っている」なんて言われるのは初めてでね」
「だからって、人の失敗を笑うなんて最低よ!」
ギャンギャンと文句を言われ、男は必死になって笑うのを止めようとするも噴き出してしまって止まらなかった。
やっと笑いが止まったのは二人は近くの喫茶店で食事を始めた時で長い時間、男は爆笑をしていた。
まだ可笑しいのか、震える手でジェル状の燃料をスプーンで掬う。
ムッとした表情で睨まれ、男は顔を背ける。
「ふふっ、すまない……所で、ライラックは君の出身地かな?」
「そうよ」
「俺は戦争の研究をしている者でね、ライラックを滅ぼした敵の事を詳しく聞かせてもらえないかな?」
「……いいわ、お詫び代わりに教えてあげる」
カップに入った燃料を見つめて女は話す。
女の名前は「ネリネ」と言うらしく、ライラックが襲われてからずっと滅ぼした相手を探して旅をしているらしい。
「ダイアモンドリリーか」
「え?」
「いや、研究しているうちに遠くの星に存在する植物も調べた事があってね……ネリネは別名「ダイアモンドリリー」って言うんだ」
「そうなの?ふーん」
ダイアモンドを知っているネリネは、まんざらでもなさそうな表情をする。
ライラックは数年前まで、王の暴挙が無い平和な街だった。
銀色の花が咲き誇る事から「シルバーフラワー」と呼ばれる程に綺麗な街であったが、それは全て灰に変わってしまう。
ネリネが見たのは、長剣を持つ男と似た影。
「その影がライラックを襲っていたのは見ていないけど、武器を持っていたから間違いないって思って……」
男はネリネの言葉を聞いてカップを手にする。
揺れる中身を静かに見つめて口に近づけた。
あの銀色の街が真っ赤に燃え盛り、灰となって行く光景に目を伏せる。
「ライラックが真っ赤に燃える中から聞こえた声は今でも忘れられないの」
悲しそうに発せられた声。
男はカップを置くと深く息を吐いてネリネを見た。
先程の刃が生えた足。
今は収納されて普通の足だが、言わなければと思い口を開く。
「復讐したいのは分かるが、この世界で武器を手にしてはいけない」
「そんなの分かっているわ、武器を手にしたら反逆罪っていうのは分かってるけど私は、ライラックの皆の悲しみを晴らすまでは武器を捨てるつもりは無い」
困ったな、と男が小さく笑う。
笑ってもネリネは意思を変えるつもりは無いと言い切ってカップの中身を飲み干した。
割れるのではないかという位に強く置かれたカップに視線を向けつつ男はとある可能性を思いつき口にする。
「その影が、もしもライラックを守ろうとしていたとしたら君はどうする?」
何を言っているのかと今度はネリネが笑う。
反逆の証である武器を手にしていた存在が守ろうとしていたなんてありえないと言われ男は黙る。
ネリネは席に備え付けられたパネルを操作して腕に埋め込まれた端末を起動させた。
「ここは私のおごりね、ありがとう話を聞いてくれて」
席を立つとネリネは喫茶店を出て行く。
その後ろ姿を男は見つめ手を振った。