出会い
運命は残酷だ。
荒れ果てた世界を見つめて思う。
生まれた時からずっと争って来たせいなのか、世界という存在を生み出した創世主は怒り生命体から生殖機能を奪いこのまま朽ちて行くのを見るだけとなっていた。
争いに疲れた者は地に身体を預けて生命の終わりを待つ。
きっかけは、王になろうとした生命体が全ての生命体を手中に置こうと始めた争いが大きくなり歯向かうのを止めるまで続けられた。
王になった生命体は満足そうに王座に座っている。
歯向かうのを止めた生命体は己が朽ちるまで、好きな事をして生きていた。
「歯向かわなければこうして酒や食料が与えられるんだ、いい世の中だと俺は思うぜ?」
barのマスターはグラスに酒と呼ばれる濃度の高い燃料を注いで差し出す。
受け取った生命体は無言でグラスの中身を呑む。
辺りを見渡せば金属質な身体を持つ生命体ばかり。
ここはそういう世界だ。
金属の身体を持つ生き物が存在する世界。
いつだったか、流れて来た映像の中に似た様な姿の「ロボット」と呼ばれる道具が人間と呼ばれる存在の命令を聞いて動いていた。
彼らはその人間にあたる存在なのだ。
「でもよぉ、そんな素晴らしい事を良く思わない奴らもいるんだってよ?お客さんもそうだったりしてな」
グラスに伸ばされた手が止まる。
マスターを見ると視線は隣に置かれた長い箱に向けられていた。
「武器を持つ者は全て敵とみなされる世の中だ、それがそうなら気を付けたほうがいいさ」
忠告を受けた男は静かに席を立つ。
空になったグラスの横に金貨を置くと何も言わずに去って行く。
溜息交じりにグラスを片付けると近くに座っていた女が立ち上がり出て行った。
錆びの臭いが充満する外を長い箱を背負って歩く。
しばらくして立ち止まると男は後ろを振り返る。
「……何か用か?」
背後に立つ女は答えずに男を見ていた。
用が無いのならと歩きだすと女も歩く。
歩く、止まる、歩く、止まるを繰り返すと男は苛立ちながら振り返った。
「なんだ!」
「……少し話がしたいのだけれどいいかしら?」
口を開けば気取った声が出て来る。
溜息交じりに頷くと女は少し動く。
金属質な音が響き、地に座る生命体が顔を上げた。
掴んだ細い足には薄い刃が生えている。
一体何のつもりだと聞くが、女は答えない。
足を引こうとするも強く握られていて動かなかった。
静寂に包まれる中、男は女の視線に気付く。
長い箱に向けられていた視線は鋭く、怒りに燃えていると気付き深い排気をして同じ質問を繰り返す。
「その箱の中身は、武器で間違いないかしら?」
「だったらなんだ」
掴んでいた足を器用に動かして首筋に刃を当てる。
箱の中身を見せるよう言われ男は目を細めた。
「質問を変えましょう、ライラックと言う街を知っているかしら?」
ライラックとは、金属の美しい花が咲き誇る街。
一度行った事のある男は頷く。
女は歯を食いしばると刃を強く押し当てた。
「ライラックを滅ぼしたのは、貴方?」
沈黙。
長く続く沈黙に女は拳を握り締める。
男は俯くと肩を震わせ始めた。
笑っていると気付いた女は悔しそうに男を睨む。
「何が可笑しいのよ!」
「はははははっ、美しい街を滅ぼす?そんな事をして何か得でもあるのか?」
ケラケラと笑われ女は唖然とした。