解放8
「よう」
メドラインは診療所の入り口の掃除をしながら挨拶をする。
あれから数週間が経ち、元に戻ったウェポの師匠は診療所で療養をしていた。
長い眠りについているらしいが、生きている。
今度こそ助けられたと実感し、小さく笑みを浮かべた。
中に入ると疲れ果てて眠っているウェポの姿を見つける。
ずっと寝ずに目覚めるのを待っていたせいか深い眠りについていた。
「お嬢さんは?」
「食料の買い出しだと言っていた」
「そうか、所でお前さんに意見を聞きたい」
何かを投げられ受け取ると空になったシリンダーが手の中に納まっている。
獣を抑える為に使用した麻酔だと気付き顔を見た。
「それは、ウェポが使った麻酔だ……俺が渡した麻酔は即効性じゃない」
撃ち込んだ時、直ぐに倒れた事を思い出しメドラインの言わんとしている事が分かり頷く。
ネリネが持っていたのは割れて使用不可だった。
一体、誰がウェポに渡したのだろうか?
「それと、母体についての研究を行っていた街を見つけた」
「そんな所があるのか?」
オメガは話を聞いた。
クラフトよりも先にある街「ブラックアウト」で行われた悪魔の研究について調べた結果、母体に関しての情報が見つかったという。
創世主が奪った力を取り戻す為には研究データを見てみたいとメドラインは言った。
少しでも手掛かりがあるならとオメガも同じくブラックアウトに興味を示す。
師匠が目覚めるのを見届けたら共に旅をすると言われ、嬉しい気持ちになりお礼を言う。
医者は必要不可欠だと今回の戦いでハッキリと確信を得た。
メドラインを仲間にしたいという相談の前に了承してくれて、安心する。
「ウェポも連れて行きたいと思っている」
「残るはじいさんとの話し合いか」
やる事が沢山あると二体は笑みを浮かべた。
食料の買い出しに行っていたネリネは一安心している二体を見て首を傾げると購入した食料を渡す。
「メドラインが共に来てくれる」
そう報告すると燃料を齧るのを止めて二体に視線が向けられる。
今後の予定も聞かされたネリネはオメガについて行くとだけ伝え、ウェポの近くに燃料を置く。
日が暮れた頃、師匠のアイセンサーが起動した。
辺りを見渡しウェポの姿を見つめ生きている事を実感する。
起きようとしたが身体に力が入らず断念をした。
「目が覚めましたか」
不意に聞こえた声に師匠は視線を向ける。
助けてくれようと手を差し伸べてくれた相手だと知り会釈をした。
「ワシは生きているのか」
「はい、生きています」
力の入らない身体に伝わる愛弟子の温もりに冷却水が零れる。
震える声で語られる絶望の恐怖にオメガは黙って聞いていた。
恨んでも仕方が無いと思っていても恨みが大きくなり自分が自分で無くなる恐怖を話し涙を流す。
助けてくれてありがとうと言われ、小さく排気をすると自分だけでは助けられなかった事を師匠に伝えた。
仲間がいたから出来た技である事を伝えるとウェポがゆっくりと起き上がる。
「師匠?師匠!」
強く抱き付かれ師匠は笑みを浮かべた。
泣きじゃくる弟子の頭を撫で、何度も何度も謝った。
謝りきれない程に傷付けてしまった事を謝り、嗚咽を漏らす。
「ハッピーエンド、だな」
「そうね」
様子を伺っていた二体も嬉しそうに笑う。
師匠の容態をチェックしていたメドラインはウェポに何かを耳打ちした。
ウェポは覚悟を決めて師匠に言う。
「オイラ、オメガさん達と旅をしたい」
大切な人を助けてもらったお礼と自分にも世界を元に戻す為の力があるかもしれないと気持ちを言葉にして返事を待つ。
「そうか、ウェポはもう一人前の武器職人だ好きにするといい」
「師匠……」
「誰かの力になりたいという気持ちは大切な事だ、お前がしたいことを今のうちにしておくといい」
師匠の言葉にウェポは頭を下げた。
ティトも共に行くと言い、師匠に感謝の気持ちを伝える。
新たな仲間にオメガはまた一歩、希望へと進んだ気がした。
これから向かうブラックアウトではどんな希望が待っているのか、そう考えるだけで胸が高鳴る。
「出発は明日にしようと思う」
「私は構わないわ」
「俺も構わない」
一晩だけだが、大切な師匠と色んな話をしようとウェポは夜が明けるまで眠らずに会話をしていた。
絶対に生きて帰ると約束し、自分の望む未来を胸に出発の準備を整える。
出発の時間になり、すっかり回復した師匠の見送りを受け旅立つ。
「帰った時はワシが武器と生きれる世界だと信じている、死ぬなよウェポ……ティトも自分に架せられた使命を果たしてきなさい」
手を振り、クラフトを出る。
冷却水は流れなかった。
帰って来る時も笑顔でいようとウェポは誓って前に進んだ。