見知らぬ地で
二章
「それでは、改めて自己紹介させて頂きますね。先程も言いましたが、私はアムリタ=ジラールと言います。このアルディール王国の宮廷魔導士で、ここ聖地ジラントの管理を任されております」
私達四人を前に、アムリタさんはそう口にした。
洞窟の前での戦闘の後、駆け付けて来たのは騎士団という西洋鎧の様な鋼の鎧を纏った者達の二十人程の集団だった。
アムリタさんは彼らに色々と説明した後、指示を出していた様で、その間私達はその場で待たされる事となった。
その後、彼女は、自分達の置かれている状況が全く理解出来ない私達に対して、ここがアルディール王国という国である事。そして、私達が元居た場所、つまり、日本にはすぐに帰る事が出来ないという事をまず説明した。
それから、詳しい事は落ち着いて話せる様に場所を移しましょうと言って、私達をこの場所、彼女の家へと案内して来た。
私達は、見ず知らずのこの人をいきなり信用して付いて行くという事に始めは躊躇した。
けれども、全く見ず知らずの場所で、他に全く手掛かりの無い状況であるし、少なくとも彼女は私達を、その命を狙う者達から守ってくれた。
結果、私達は四人で相談し、こうして彼女の家まで付いて来る事にしたのだった。
洞窟の入り口からここまで、大体十分程歩いただろうか。
砂と同じ色の白い石畳の道が一筋延びていて、ぱっと見では気が付かない程、その道は砂漠の中に溶け込んでいた。
その道に沿って歩いて来た所に、ただ一軒のこの家が立っていた。
これまた白い石を積み上げて建てられたシンプルな直方体の家で、見事に白い砂漠の風景に溶け込んでしまっていて、遠くからでは家があるのに気が付くのは難しいだろう。
けれども、この家の前まで来ると、砂ばかり見えていた景色の先に同じ様な真っ白な建物が、幾つか集まって建っているのが見え始めていた。
おそらく、このまま道に沿って歩いて行けば、街の方に行く事が出来るのだろう。
砂漠の中、何の日避けも無いまま歩いて来た私達だったが、思いの外日差しは強くなく、春の暖かな日差しの中を歩いて来た様な心地良さだった。
真夏の海水浴帰り、三人は皆Tシャツ一枚にハーフパンツという格好、私は薄手のワンピース姿なので、日差しの元でこの暖かさでは、日陰である建物内に入ったら寒い位ではないだろうかと思いもしたが、それは杞憂だった。
つまり、家の中に入っても、どういう訳か変わらぬ心地良い暖かさだったのだ。
今現在、この部屋の中に居るのは私達四人とアムリタさんの五人だけで、一緒に歩いて来た騎士団の人達は、そのまま街の方向へと歩いて行ってしまった。
と言っても、護衛という事だろうか? 家の外には、入口を守る様にして二人だけ残った騎士が控えているらしい。
建物の中は二部屋に分かれている様で、入ってすぐの部屋には、食事を作るのであろう土間と、その脇には食器が納められている木製の棚が一つあった。
そして、部屋の中央には今、私達五人が囲んでいる木製の食事用であろう机。それを取り囲む様にして、丁度五つの木製の椅子が並んでいた。
その椅子に座るようにと促され、皆が席に着いた所での彼女、アムリタさんの最初の言葉が先程のものだった。
「最初に一つ、確認したい」
まずそう口にしたのは、私の右手側に座っていたクオン君だった。
「何でしょうか?」
私の正面に座っているアムリタさんが応える。
「ここは地球なのか?」
と、クオン君の口から発せられた質問に、私は驚かずにはいられなかった。
日本なのかどうかという事は考えてはいたが、地球なのかどうかという事は流石に考えもしなかったからだ。
「ええっ、ちょっと待ってよ。それって、ここが地球じゃないとクオンは思ってるって事?」
私と同じ様に驚きを隠せないといった感じで、左手側に座るリュウ君がそう聞き返した。
「リュウ、とりあえずは彼女の答えを聞こう」
そう言って、私のすぐ右隣に座るジンがリュウ君をたしなめる。
「あー…うん。そうだね。話を聞くべき、か」
リュウ君はそう納得すると、アムリタさんへと視線を向けた。
その成り行きを見守っていたアムリタさんは、全員の注目が集まった事を確認すると、
「少なくとも、私は地球という単語を聞いた事は有りません」
ゆっくりとそう口にした。