気が付けば
「ふう、何とか乗り切れたようだな」
ため息交じりにそうもらしたクオン君に対し、リュウ君が勢い良くつっこむ。
「何とかって、何だよさっきのあれは! クオンはまぁ良いとしても、ジンの動き、明らかにおかしかったよね? 足が速いとかのレベルじゃ無くて、瞬間移動した様に見えたんだけど!?」
「いや、僕自身も何が何だか。スズを助けなきゃって思ったら身体が自然に動いて…気が付いたら普通じゃ出ない様な力が出ていて……火事場の馬鹿力って奴だろうか」
本人はそう言っているが、いくらなんでもあのスピード、跳躍力は無いだろう。オリンピック選手どころか、普通の人間が出せる力を遥かに超えている。
今だって、私の事を両手に抱えているのに平気で……ファッ!?
ちょちょちょ、ちょっと待って!?
余りの出来事で全く全然さっぱり気が付いて無かったけれども、これってもしかして、もしかしなくても、お姫様抱っことかいうやつじゃない!?
ジンにお姫様抱っこ!!!
え、な、ちょ、ちょっと、何この状況!? 嬉し――じゃなくて! すごく恥ずかしい! 恥ずかしいのよ!
だから何か、急に顔が熱く、熱くなってきて――――
「ああああ、あの、ジン?」
私は恐る恐る呼び掛ける。
けれども、心臓の音がドクドクと五月蝿く響いていて、頭の中が全然まとまらなくて、言葉が上手い事出て来ない。
「どうした、スズ?」
ジンの顔が、すぐ目の前で私へと向けられる。
ドクンッと、殊更大きく心臓が鳴った様な気がする。
「えとあの…、ももも、もう、大丈夫、だ、だから――」
顔を反らしながら、何とかそれだけは口にする事に成功するが、言わんとする所は伝わらなかったらしい。
ジンは小首を傾げるだけだ。
と、その後ろから助け船が出される。
「ジン、もう大丈夫だから下ろしてくれって事だろ。察しろよ」
クオン君がこつんとジンの頭を叩く。
「ああ、そうか。悪かったな、気が付かなくて。よっし」
そう言って、ジンは優しく私を隣へと下ろしてくれる。
けれども、全く足に力が入らない。
そのままペタリと砂の上にへたり込んでしまう。
「お、おい。どっか怪我でもしたのか? やっぱり、まだ――」
そういって、ジンがしゃがみ込んで手を伸ばしてくる。
いやいやいや、今はまずい、まずいんだよー!
これ以上、近付かれたら……何かもう、何をどう言ったら良いのか。
顔は火傷しそうな位熱いし、きっと真っ赤だろうからこの顔を見られるのはもう――――
すると、そのジンの動きは後ろから肩を引っ張られる事で停止する。
「ジン、スズはちょっと怖い思いをして腰が抜けてるだけだよ。少しそっとしておいてあげよう」
「ああ、そうなのか。怪我じゃないなら良いんだけど」
「う、うん、大丈夫。怪我とか、全然全く、全然無いから、さ。ちょ、ちょっと、休ませてもらえれば」
ジンはそのまま立ち上がり、私はふぅーーっと大きく息を吐く。
再び、クオン君に助けられてしまった。
私の想いは、当の本人には全く伝わっていないみたいだけれども、回りの人にはばればれな様だ。
こうして良くテンパっている私を、クオン君は助けてくれている。
そんな事を考えていると、目の前にアムリタさんがやってきて、同じ様に腰を下ろすと深々と頭を下げた。
「それにしても、すみませんでした。私のミスで、スズさんには怖い思いをさせてしまいました」
「い、いえいえ。そんな気にしないで下さい。ほら、こうして無事で済みましたし」
慌ててそう答える。
大人の女性にそうかしこまられると、一体どうしたら良いのかと焦ってしまう。
「でも――」
「あの、本当に大丈夫ですから、顔を上げて下さい」
そこでやっとアムリタさんは頭を上げると、もう一度謝罪の言葉を口にする。
「申し訳ありませんでした」
「まぁとにかく、皆無事で良かったって事で。色々あって話が中断してましたけれども、アムリタさん、新しく説明して欲しい事も出来ました。話して頂けませんか?」
クオン君の言葉に、アムリタさんは立ち上がり、答える。
「はい。でも、まだちょっと待って貰う事になりそうです」
「アムリタ様、御無事ですか!?」
アムリタさんがそう言い終わるのと、少し離れた所から彼女の名を呼ぶ男性の叫び声が聞こえて来たのは、ほぼ同時だった。