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目覚め


 既に、皆とは十メートル以上離されただろうか?

 このままいけば、後方に居るリーダーの男と合流する事になる。

 そうして、彼へと私を渡すつもりなのだろう。

 だがしかし、それは叶う事は無かった。

 何故なら、


「スズ!!」


 再び、ジンが私の名を叫ぶ声が聞こえる。

 次の瞬間、どういう訳か目の前にジンの姿があった。

 そして、


「ぐわっ!」


 私をつかむ男の苦悶の声が聞こえる。

 同時に、私の喉元に感じていた感触が消える。

 そうして、宙を舞う棒の様なものを目にして、私は自分の首に今まで当てられていた物の正体を知る事となる。

 先程目にした短刀、それの倍程の刀身を持った刀、小太刀がその正体だった。

 おそらく、ジンがその刀を持つ男の手に攻撃を加え、刀を吹き飛ばしたのだろう。

 だが、私の髪の毛は背後の男に掴まれたままだ。

 今まで以上の力で後方へと引っ張られ、激痛に歯を食いしばる。

 そして今度は、かすむ視界の中で、クオン君がこちらへと駆けて来るのを目撃した。

 流れる様な自然な動作で、自らの方向へと吹き飛んできた回転する小太刀の柄を空中で見事にキャッチすると、そのまま止まる事無く私の正面へと迫る。

 そして、私と交差する時に、耳元で囁く。


「スズ、ごめん」


 次の瞬間、ざくっという何かが切断される音と共に、急に後方へと引っ張られる力が無くなる。

 それが、私の髪が切られたためだと気が付いた時には既に、私の身体はジンによって抱きかかえられていた。

 そのまま、ふわりと宙へと飛び上がる浮遊感。

 驚くべき事に、私を腕に抱いた状態で、ジンは空中へと舞う様にして大きく跳び上がったのだ。

 そのまま、一度も地面に足を付ける事無く、十メートル以上も離れたリュウやアムリタさんのすぐ傍に着地する。

 視界に映るのは残るクオン君の姿と、風に舞う私の髪の毛。

 すると、クオン君は手に握る敵から奪った小太刀を、相変わらずの見惚れる様な動作で振り回す。

 一瞬の動きでその刃の軌跡がどうなっていたのかはっきりと見えなかった。

 けれども、少なくとも私を人質に取っていたその男の足に傷を与えたのは確かだ。

 何故なら、男は低い悲鳴と共に、自らの足を押さえてうずくまったからだ。

 それで男からの追撃は無くなったと判断したのか、クオン君はこちらを振り向くと、相手に背を向けて走り出す。

 そのまま、周囲を取り囲みながらも唖然として私達の動きを見つめるだけの影の男達を余所に、クオン君は悠々と私達の元へと戻って来る。


「くぅ、ばかな。現れたばかりの救世主は、まだその力を発揮出来ないのでは無かったのか!?」


 影のリーダーの男が驚愕の声を発する。

 その声に、アムリタさんが微笑みを持って答える。


「ええ、本来はそうだけれども、あなた達という襲撃者のお陰で、もう目覚めてしまった様ね」

「くうう、これが女神の――――否、違う! 我らこそがこの国を担うに相応しい者だ! 女神は、我らにこそ救世主を遣わして下さるはず!!」

「ふふっ、そう思いたいなら思いなさい。けれども、あなた達の行いを民が、そして女神が認める事は無いわ!」


 そう強く口にし、目を細めるアムリタさん。

 その視線の先は、男達の遥か後方へと向かっている。

 そして、小さく息を吐く。


「……ふぅ、やっと騎士団の方も事態に気が付いた様ね。どうする? 逃げるなら今の内よ?」


 それに気が付いた男達は、後方へと振り返る。

 私も同様にその後方へと視線を送ると、何やら砂埃が巻き上がっている様子が目に入る。

 それが、何人もの人間が駆けて来るために巻き上がっているのだと気が付いたのは、同時に遠くから響いて来た幾つも重なって響く力強い足音を耳にしたためだ。

 リーダー格の男が再びこちらへと向き直ると叫ぶ。


「くそっ! 時間切れか! 良いだろう、今は預けよう。だが、救世主の諸君! 我々こそが真にこの国の未来を担う者だと、いずれ気が付くだろう! その時は、喜んで我々は諸君を迎え入れよう! 待っているぞ!!」


 開き直りとしか言えない捨て台詞を残すと、六人全員が、突然起こった渦巻く竜巻の様な風に包まれる。

 私は、巻き上げられた砂埃が目に入らない様にと思わず目を瞑ってしまう。

 それから数秒の後、閉じたまぶたをゆっくりと開ける。

 すると、渦巻く風は消え去っていて、そこにはもう何も残っていなかった。


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