残る襲撃者
すると突然、男が前を通り過ぎた直後の壁の真ん中に、炎が消えて丸い穴が現れる。
その穴を通り抜けて現れる、最後の黒い影。
次の瞬間、壁に沿って移動していた男の進路が変わる。
そして、前からいた男と新たに現れた男が揃ってこちらへと突進してくる。
「ちっ、やっぱり水使いも居るのね」
アムリタさんの舌打ちが聞こえて来るのと、二人の突進の前方で炎が巻き起こるのは同時。
けれども、その巻き起こった炎の渦は、じゅわっという水が炎をかき消す音と共に一瞬で消えて無くなる。
残るのは、急激に水が熱せられたために起こったであろう大量の白い水蒸気の湯気。
その湯気は、続いて起こった突風によって一気にかき消される。
けれども、それでは遅かった様だ。
湯気によって見えなくなった一瞬の間に、二人の襲撃者は二手に分かれて進路を変えていたのだ。
一人の男は視界から消え、何処に行ったのか分からなくなってしまったが、もう一方の男は、いつの間にかアムリタさんの正面へと回り込んでいた。
二人の距離は、もう手を伸ばせば届くのではないかという距離。
そこで、男は懐へと忍ばせた腕を振るう。
現れた手には刃渡り二十センチ程の短刀が握られており、銀の軌跡が弧を描く。
だが、その軌道上からは既にアムリタさんは身体を逃しており、突進して来る男の側面へと回り込む。
そのまま、短刀を握る突き出された腕へと両腕を回して掴むと、突進の勢いをそのままに、男の腕を捻って投げ飛ばす。
男は回転して背中から地面へと激突すると、捻られたせいで手から力が抜けたのか、握られていた短刀は砂の上へとストンと落下する。
そして、再び突風が巻き起こる。
倒れた男はその強烈な風に吹き飛ばされ、倒れた格好のままに宙を舞う。
「後一人!」
アムリタさんが叫び、私達の方を振り向く。
それは、残る襲撃者が私達の後ろに迫っているという事。
私の右手側から迫っていたはずの黒い影は、いつの間にか私のすぐ後ろへと立っていた。
つまり――――
「痛っ!!」
突然髪の毛が引っ張られ、後方へと頭を引っ張られる。
そうして上を向けさせられた顎の下、顕わになった首筋に、何か冷たくて硬い物の感触を感じる。
「スズ!?」
「おっと、動くなよ!」
咄嗟に叫んだジンの声に続き、初めて聞く低い男の声が、すぐ耳元から聞こえて来る。
「流石に熱風のアムリタでも、六人相手じゃあ対処しきれなかったみたいだなぁ」
遠くから聞こえて来たその声は、最初に会話していた男の声だ。
頭を後ろに引っ張られているせいで視線が上空へと向けられているので、その声が何処から発せられたかは分からない。
けれども、少なくとも最初と同じ位に離れた所からの声だという事だけは聞こえて来た声の大きさから分かる。
「くっ、確かに……言い返す言葉も無いわね」
聞こえて来たアムリタさんの声には、苦渋の色がうかがえる。
「おっと、身体は動かすなよ、アムリタさんよぉ。ドライ、そのままこっちまで下がって来い」
「了解」
耳元からの声と共に、身体が後ろへと引っ張られる。
その動きはゆっくりではあるが、髪の毛を後ろに引っ張られての移動なので涙が出る程の痛みが頭を襲ってくる。
「やめろ! 彼女を乱暴に扱うな!!」
その叫びはリュウ君のもの。
皆の方を向きながら引きずられる私は、五メートル程の距離が開いたがために、斜め上へと向けさせられた視界の中でも皆の姿を確認する事が出来た。
皆が心配そうな表情で、私の事を見つめている。
「おっと、少し黙ってて貰おうか。五月蝿くされると、手元が狂って彼女の首に傷が付いてしまうかもしれないからなぁ?」
聞こえて来る声は遥か後方からのもの。
最初から会話しているその声の主が、やはり彼らのリーダーという事なのだろう。
一歩、二歩、三歩と、どんどん皆から引き離されて行く。