案内人と怪しい影
一章
「私の名前はアムリタ=ジラール。このアルディール王国の宮廷魔導士を務めております。と言っても、王都の王宮に勤めているのではなく、この聖地ジラントの管理を任されているのですけれどもね」
目の前に現れた女性は、そう言って自己紹介をした。
「初めまして。俺の名前は――」
と、クオン君が自己紹介を始め、ジン、私、リュウ君と四人がそれぞれ自己紹介を済ます。
そうしたところで、
「ところで、救世主というのは、もしかして俺達の事ですか?」
クオン君がそう切り出した。
その言葉に、アムリタと名乗った女性は大きく頷いて返す。
「はい、そうです。あなた方は女神アルディール様が遣わして下さった救世主なのです」
救世主なのですって……いつの間に私達はそんな事になったのだろうか。
全く心当たりがない。
「そんな事を言われても、私達はただ、気が付いたらここに居ただけで――」
「救世主と言われても、何が何だか分から無いよねぇ」
思わず発した私の言葉は、途中からリュウ君に取られてしまう。
「今、我がアルディール王国は大きな危機に瀕しています。その危機から、救世主の皆さんに救って頂きたいのです」
「唐突なお願いの割には、国を救って欲しいって……いくらなんでも僕達には荷が重過ぎるとおもうんだが…」
アムリタさんの言葉に、ジンがもっともな言葉を漏らす。
「そうですね、余りにも突然過ぎますよね。きちんと順を追って説明しますので、少し長くなりますが聞いて頂けますか?」
そのアムリタさんの申し出に、私達は顔を見合す。
現状、何で私達がこんな見ず知らずの砂漠の真ん中に居るのか、全く情報が無い。
そんな状況で現れた目の前の女性。
頼れるのは彼女しか居ないけれども、余りにも都合が良過ぎないか。
本当に信用して良いのだろうか。
と、本人を目の前にしてそんな事を声に出して相談する事も出来ず、どうしようかと思っていると、
「話を聞く位なら大丈夫です。だよね、皆?」
クオン君が、返事をした後に私達に確認を取る。
これまで一緒に生徒会をやってきて、私達は会長というリーダーのクオン君を信用している。
そして、今はその信用を曲げてまで気にする様な情報は何もない。
だから、クオン君がそう判断したのなら、今は反対する必要は無いだろう。
「うん、分かったよ」
「りょーかい」
「大丈夫だ」
私、リュウ君、ジンと皆が肯定の返事をする。
クオン君は頷き返し、アムリタさんへと向き直る。
そして、
「それでは、宜しくお願いしま――――」
「待って!!」
しかし、クオン君の言葉は、アムリタさんの大きな叫び声によって中断させられた。
叫んだアムリタさんは、それまで微笑んでいた表情を一変、厳しい表情に変わると私達に背を向け、周囲へと視線を巡らせる。
すると、何処からともなく、低いしゃがれた男の声が聞こえて来た。
「フフフ、流石は熱風のアムリタといったところか。我らの気配に気が付くとはね」
「誰!? 姿を見せなさい! 魔を払う風よ!」
アムリタさんがそう叫んだ次の瞬間、突風の如き風が突然、アムリタさんから発生したかのように周囲の砂を巻き起こしながら広がって行く。
そして、突風によって舞い上げられた砂埃が晴れると、そこにはいつの間にか真っ黒な外套を身に纏った五つの不気味な影があった。
全員がフードを目深に被っていて、表情を読み取る事は全く出来ないし、厚手の外套によってその体格もはっきりとしない。
その五つの影は、私達を取り囲むようにして、前方から左右へと一定間隔を空けて立っている。
私達からの距離は、大体二、三十メートルといったところか。
私達の背後は、今さっき出て来た洞窟の有る岩山となっているので、完全に周囲を取り囲まれた形だ。
「幻影破りの風か…ククッ、宮廷魔導士の称号は伊達ではないか」
正面に立つ影から、先程と同じ声が聞こえて来る。
「あなた達は、まさか『朱の明星』の!?」
「然り」
「そんな…こんな聖地の奥まで入って来られるなんて……衛兵達は、一体何をしているの?」