序2
「そうそう、そうだったよね。たっしか、変な洞窟見つけてさー。入った…ん? 入ったんだよね?」
リュウ君が何だか曖昧にそう答える。
「ああ。僕も入った記憶はあるけども……」
ジンも同意するが、その表情はやっぱりはっきりしていない。
「俺も、洞窟に入った所までは思い出せるんだけれども……駄目だな、それ以上は」
クオン君も同じ様で、結局四人共それ以上の事は思い出せなかった。
すると、
「このままここで考えてたって埒があかない。とりあえず、洞窟の外に出ないか? どの位の間ここで倒れてたのかは分からないけれども、そろそろ日の沈む頃かもしれない」
そう言って、クオン君が明るくなっている先を指さす。
確かに、このままここでこうしていてもしょうがない。
「それもそうだね。どうして倒れてたのかは置いといて、まずは明るい所に出よっか」
率先して歩き出すリュウ君。
その後ろに、ジンが続く。
「焦って歩いて転ぶなよ。足元が良く見えないからな」
「スズも、気を付けてな」
クオン君が、私に先に行くようにと道を譲ってくれる。
そうして私達は、薄暗闇の中に差し込む明かりへと向かって進んで行く。
洞窟の入口までの距離は、大して長くなかった。精々数十歩といったところ。
けれども、洞窟の入り口は人が一人、身を屈めてやっと通れる位の大きさしかなかったため、その入り口を抜けるのに少し苦労する。
入った時は、こんなに苦労して出入りする様な小さな入口じゃ無かった気がするんだけれども……。
やっとの事で外に出ると、先に出たリュウ君とジンが目の前に呆然と立ち尽くしていた。
私はその二人の様子を不審に思い、二人の背中を押し抜けてその先の景色を視界に収め、そして――――
「何……これ……」
二人と同じ様に絶句してしまった。
そして、最後にこの景色を目にしたクオン君が息を飲む気配が、肩越しに伝わって来るのを感じだ。
何故、私達が皆、絶句してしまったのか。
それは、目の前には、一面に白い景色が広がっていたからであった。
真っ青に澄み渡った青空の下、視界に入る全てが真っ白な砂の海で埋め尽くされていた。
私は、この景色の呼び名を知っている。
けれども、私はその単語を思い浮かべる事を躊躇った。
何故なら、そんな物が日本に有るはずがないのだから。
そして、私が必死に思い浮かべるのを止めていたその単語は、あっさりと耳から伝わってきた。
「砂漠……だ」
後ろから聞こえて来たその言葉に、私は応える。
「砂漠……だね」
「ああ…」
「砂漠…だよな」
ジン、リュウ君の言葉も続く。
全員が、目の前に広がる景色を信じられずにいるようだった。
だって、それは……海水浴に来ていたはずが、いきなり砂の海に放り出されるなんて、一体誰が信じられようか。
加えて、今のこの天候が現実感を失わせている。
砂漠に行った事は無いけれども、テレビなどから得た知識から、砂漠と言えば燃える様な暑さという先入観があった。
けれども、青空が広がっているというのに今の私はさほど暑さを感じていない。
春の暖かな日差し――そんな心地良さだ。
私は夢を見ているのだろうか……。
そうして、沈黙が辺りを包んだまま数十秒の時が流れただろうか。
不意に、横からきれいな高い声が聞こえて来た。
「こんにちは!」
思いもよらない私達以外の声に、びくっとしてそちらを振り返る。
そこには、一人の女性が立っていた。
歳は恐らく、二十代前半位だろう若い女性で、小麦色というよりも褐色に近い肌。
そして、この風景に合わせたかの様に、アラビアンナイトに出て来そうな装束を身に纏っていた。
赤と緑の色鮮やかな織物で出来たその服は、おそらくとても高価なものだろう。
その女性は、私達に向けてにっこりと微笑むと、ターバンというであろう物を巻いた頭を深々と下げる。
そして、再び顔を上げると口を開いた。
「ようこそ、アルディール王国へ! お待ちしておりました、救世主の皆さん!」