序1
アルディール・サーガ
序
――ズ………スズ……スズ!――
身体が揺さぶられる感覚と共に、何処からか私を呼ぶ声が聞こえた様な気がする。
「う……ん…」
無意識の内に私はそう答えていた。
「スズ!」
今度は、はっきりと私の事を呼ぶ声が聞こえる。
「うん?」
まどろみの中から、私はゆっくりと目を覚ました。
まず目に飛び込んで来たのは、私の顔を覗き込む良く見知った顔。
私はその名を口にする。
「クオン君? …私…どうして寝て…?」
段々と意識がはっきりとしてくる。
それと同時に、自分の置かれている状況が分かってくる。
どうやら私は、砂の地面の上にうつ伏せになっている様で、地面に触れている右頬からざらざらとした砂の感触が伝わってきて、少し痛みを感じる。
ゆっくりと私は起き上がり、頬や服に付いている砂を手で払い落とす。
「良かった、スズも気が付いたみたいだな」
「ああ、四人共無事みたいだ」
と、視界の外から二つの声が聞こえて来た。
振り返ると、後ろにも見知った二つの顔が並んでいた。
「皆…えっと、私達、どうしたんだっけ?」
問い掛けながら、記憶の糸を辿ってみるが、どうしてこんな所に倒れていたのか全く思い出せない。
「それが、俺達にも良く分からないんだ。気が付いたら、四人共ここに倒れていたって感じで…」
答えてくれたのは、目の前に立つクオン君。
続いて、その右に移動して来たジンが口を開いた。
「えーっと、思い出せる範囲だと……俺達は、四人で海に来たんだよな?」
その言葉を聞いて、私の記憶も段々とはっきりとしてくる。
そう、確か私達は――――
私達四人は、生徒会のメンバーだった。
生徒会長のクオン君に、副会長であり私の幼馴染でもあるジン。会計のリュウ君に、最後は書記の私。
今年高校三年の私達は、高校最後の夏休みを目の前に私達の代の仕事を終え、次の学年の生徒会へと引き継ぎを済ませていた。
後は、受験勉強一直線という所で、元生徒会長であり私達のリーダーであるクオン君の提案で、生徒会メンバーとしての最後の思い出作り兼ちょっとした息抜きという事で、四人揃って海水浴に来たのだった。
そこで、私達は一日泳いだり、ビーチバレーをしたりして楽しんで――――
「えっと、もう着替えて帰ろうとしてたんだよね?」
リュウ君の言葉に、私は自分の服装を確認する。
確かに、朝着て来たのと同じワンピース姿だ。私の記憶が、間違っていなければだけれども。
薄い水色のワンピースのはずだが、周囲が薄暗いため色まで判別する事は出来ない。
それにしても、ここは何処なのだろうか。
辺りは薄暗く、余りはっきりと周囲の様子を見て取る事が出来ない。
視線を周囲に巡らせると、すぐ傍に壁があるのが目に入る。
その壁はごつごつとしていて、自然そのままの岩肌といった感じだ。
そして、反対側へと視線を向けると同じ様な岩肌が目に入って来る。
薄暗く、岩の壁に囲まれた場所と言えば――――
「あっ、そうだ!」
私は思わず、大きな声を上げてしまった。
「どうした? 何か思い出したのか?」
ジンがすぐに問い掛けて来る。
私はジンの顔を見て大きく頷くと、思い出した事を話し出した。
「うん、そう。ここってさ、洞窟だよね? 確かあの時さ――」
そろそろ帰ろうと、荷物をまとめて歩き出した私達は、偶然岩場に洞窟を見つけたのだった。
何度も来た事があるはずの学校近くの海岸だというのに、この時、全員が初めてその洞窟の存在を知ったのだった。
となると、好奇心旺盛な我々生徒会一同、もちろん入ってみようという事になった。
幸い、日が傾き始めた時間帯で、丁度西向きの洞窟の中へは、結構奥まで日の光が差し込んでいる様だった。
だから、私達はとりあえず行ける所まで行ってみようという事で、その洞窟の奥まで入ったのだった。
その後の記憶は……思い出せない。