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道化と冠  作者: 青螢
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イカレタ茶会

 そして深夜三時。

「茶会って、午前三時じゃなくて午後三時にやるもんじゃねぇの……?」

 三月ウサギに招待された午前三時、『空中庭園・フュー』のお茶会場にいた。

 ガラスの大きなテーブルに、三脚の椅子。テーブルの上にはティーセット。まぁ、味がしないから帽子屋のカッコつけのためだろうけど。

「んふふ。誰がお茶会は午後三時と決めたんだい?」

「いや、普通昼間に……」

「いやですねー、今は真昼間も同然じゃないですかー」

「ゲーム内ではそうなんだけどね!?」

 今現在昼時間。頭上には太陽がさんさんと輝いております。

 でもリア時間夜中だから!! よい子じゃなくても結構な人数寝てる時間だから!!

「んで、何? なんなわけ!? また突然呼び出しやがって!! 俺の生活サイクル夜型だけどもう寝たい時間だぜ!?」

 世間一般としてはあまりよろしくない生活してる俺だけどさ……三時って結構な時間じゃね? ね?

 しかもゲーム内で冒険してんだよ? リアルの肉体にゃ関係ないかもだけどよ、なんか気分的に疲れんじゃん?

「まぁまぁ、そういうな」

「そうですよー。どうせなんだかんだ言ってゲームするつもりだったんでしょ?」

「いやま、そうだけどよ……」

 そりゃもうすぐ十周年アプデあるし、ちょっとレベル上げたりしたいかなって思ってたけどよ……。

「だったらいいじゃないですか」

「~~~……」

 なんだかなぁ。

「んで、今日は何の御用? 兎嬢もご依頼?」

「いいえ~。僕は違いますよ。ただのつきそいですー」

「あっそ……」

「あ、でもよかったら僕のために高ランクのぬいぐるみ作ってくださいよー」

 三月ウサギの武器はぬいぐるみ系の調教者専用アイテムだ。作れるのもあるしドロップ品もある。

「残念。俺『裁縫師』でも『武器職人』でもないんだよ」

 裁縫は縫い物系全般に使えるし、武器職人は武器全般。でも広く浅く、なので基本的にアイテムのランクは低い。

 どっちにしろ俺はそんなサブ職持ってないからつくれねぇけどな。

「わー、ホント残念ですー」

「なー」

「……そろそろ、話しをしてもいいかな?」

 おいてけぼりにされた帽子屋が味のしない紅茶をすすりながら、遠慮気味に話に割ってくる。

「さっさとしてくれ。んで、帰らせろ」

「酷い言い草だねぇ。私はいい情報を持ってきたのに」

「いい情報?」

 帽子屋がずいっと体を近づけてくる。

 もったいぶった笑みでしばしの間俺を見つめ……。

「さっさとしろって言わなかったか、俺?」

 耐え切れずにキレる俺。

 にんまり笑みを深め、体を元の場所に戻す帽子屋。

 うん、わかるよ。こういうのがあいつをいい気にさせてんだろうなぁ。ちゃんと反応するから。でもなー。イラつくんだよなー。

「十周年のアップデートは約二週間後に迫っていたねぇ」

「そうだな」

「楽しみですよねー」

「そうだな」

「新しいアイテムとかー、武器とかー、ダンジョンとかー、あ、レベルも開放ですよねー。それからそれからー」

「話がそれるから黙ってもらえる?」「三月、少し黙っていてくれないか?」

 同タイミングで話しちまった……。なんかショック。

 三月ウサギは女の子っぽい。話し好きっていうの? 一つの話題だけで異様にきゃいきゃい盛り上がっちゃう感じ。ちょっとめんどくさい。

「はいはーい。お邪魔しちゃったみたいで申し訳ないですー。お口チャックしておとなしく待ってまーす」

 わざわざ言わなくていいよね。うん、こっちのがぶりっ子っぽいかも。うぜぇ……。

「んんっ、それで話なんだけれどねぇ……」

 三月ウサギのボスである帽子屋もちょっと扱いに困っているようだった。疲れたように話し始める。ざまぁwww

「アップデートの日、午前零時ちょうどにどうやら楽しいことが起きるらしいんだ」

「なにそれ? 初めて聞いたわ」

 掲示板にも書かれていないし、公式でも発表してないはずだ。一応毎日確認してるし、昼間絡まれた後にも確認したから確実か。

 どっかで見落としたりしたかな……。

 それは非常にまずい。いや、ほどほどでいいんだけど、重要そうな情報を見逃しているのは、ひっじょぉぉぉぉおおおおに、まずい。

「んふふっ、都市伝説のようなものだよ。最近一部で噂になっていてね。黒鷺にも教えておこうと思ってね。君は非常に面白い人物だから」

「ふ~ん? で、どういうことが起きるか知ってるの?」

「それが……」

「そっれがわからないんですよー。だからわくわくドキドキ待ち遠しさがたまらないんですよねー!!」

 忍耐力無降りの三月ウサギにはもう堪えることができなかったようで。

「三月……」

 ハイテンションで帽子屋のセリフをかっさらった三月ウサギに、帽子屋は疲れたようにテーブルに突っ伏す。ざまぁwww

 ……って、なんだかうちのギルマス思い出すなぁ……。乙。

 あれ? それだと俺、三月ウサギと同じポジション? そら嫌だなー……。

「むむむっ!? 今なんか失礼なこと考えてませんでした黒鷺さん??」

「キノセイジャナイカナー」

「そうですかそうですか。で? 何考えていらっしゃったんですか?」

「……」

 ここは沈黙すべし。

 いつものニヤニヤ笑いを張り付けて、俺に顔を近づけてくる。でも目が笑ってないデスヨ。

「あー……それでだ、黒鷺」

 帽子屋が救世主に見えるな。今だけは敬ってやろう。

「私はな? この噂を広めたいんだよ。ほら、子供だと夜更かししようと思うやつも少なくなるだろう? でも、こういうイベントがあると知っていれば集まる人間は増えるだろうからね」

 十周年アプデの次の日は平日だ。学生はもちろん、大半の社会人は寝坊ができない=夜更かし厳禁。

 だから公式のイベントは一週間ほどにわたって、いろんな人ができるように期間を設けられたものが発表されている。しかもそれは夜中ではなく昼間から始まるそうだ。

 だからより夜中わざわざ起きてる人は少ないだろうな。なんかあるわけでもないんだし。

 ま、なんかあったら話は別だが。

「そりゃな。最初からわかってりゃ粘るやつは増えんだろうよ? 零時だから、完全に無理って時間でもねぇだろうしな。でも元から十周年のちょうどその日その時を過ごそうってやつも多いとは思うぜ?」

 新年のカウントダウン的な感じで。ゲーム厨であればあるほどそういう記念日みたいなのにはうるさいとは思う。偏見かもしれねぇけどな。でもすくなかねぇだろ。

「んふっ、そうだろうけれどね。楽しいイベントだ。人は多ければ多いほど楽しくなるはずだろう?」

「……そうだな」

 俺にはいまいち遠い話だが、分かち合いたい奴はいるだろ。俺は新年だろうが平日だろうが通常営業。自分の道を突っ走るやつですがなにか。

「でも噂は噂だかんな。引っかからないやつもいるだろうな」

「別にそんなのどうでもいいじゃないですか! 少しでも多いだけでいいんですから!」

「そうそう」

「ふーん。おけ。了解。俺に言うってことは口で広めとけってことでよろし?」

 こういっちゃあれだけど、知り合いはそこそこ有名人多いしな。だからこういう依頼はちょいちょいある。

 有名人は広める友人知人も多いからね。ハクは除く。

 掲示板だと大々的に広められるけど、それだと記録に残ってしまう。そういうのが嫌な人は多いんだなぁ。

「あぁ、そうだ。けれど無理はしなくていいよ」

「ん、どゆこと?」

「んふふ。少人数で少しずつ広めていかないと。どっと広めるとばれやすくなるからね。発端はそれを望まないようだよ?」

「へー、すごいイミフなやつだな。その発端は」

 そこまで厳重に警戒するか、普通?

「ですよねー。これもう発端が誰かなんて誰もわかりませんよ」

「んふふ。謎に包まれた大河の初めの一滴。素敵じゃないか」

「おまけに噂も本当なのかどうか。これで何もなかったら皆さん大激怒ですよ?」

「だからこそ発端をうやむやにしようとしているのかもしれないね」

「なーる」

 まぁ、噂だかんな。乗っかって失敗しても自業自得だと俺は思うけど。

 俺? 俺はもちろん乗るぜ? どうせ二時くらいまでいる予定だったし。あ、もちろん午前な。

「てか、どこ情報なわけ? お前んとこは」

「私はとあるお嬢さんに聞いただけだよ」

「ふぅん?」

 女性か。噂好きそうだけどな。……ネカマかもしれないけども。

「で、話はもう終わりか?」

「あぁ、そうだね」

「じゃ、もう帰るわ」

 席を立つ。と、口を全くつけなかった紅茶のカップが目に入る。

「コーヒー飲みてえ。俺は紅茶派じゃなくてコーヒー派なんだよ……」

 味も香りもしないけど、紅茶が目の前に出されていて、なんとなくコーヒーが恋しくなった。

 寝る前に飲むのはおススメしないらしいけどな! でもちゃんと寝れるし! てかまだ寝ないし! いったん帰ってコーヒー飲んでから仕事しよう!! 本当はレベあげするつもりだったんだっけ!? 寝るはずだったんだっけ? もういいや!

 ……あれ、今日はオールか……?

「帽子屋は紅茶好きなものらしいんだ。悪かったね。私も早く紅茶というものを味わってみたいものだよ」

「僕はココアが好きでーす!!」

「お前らの好みは聞いてねぇ……ってか、お前らのせいで今日は朝寝になる感じになったじゃねぇか……」

「僕らのせいにしないでくださいよー」

「そうだよ黒鷺?」

「僕らはほんのちょっと面白い情報を黒鷺さんにさしあげてー」

「それで依頼をしただけじゃないか」

 悪びれずに言ってのけた二人に俺は声を大にしてこういってやりたい。

「それ、夜中である必要ねぇだろぉがぁぁぁあああああ!!」


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