噂なんて無責任なもの
俺がハクに初めて話しかけたやつだったからかな。なつかれた。
フレンド登録して、結構連絡を取り合うようになった。
その頃俺はあんまりダンジョンとかに行って戦闘をしなかったから、ハクの誘いを断ることも多かったけど、ハクは必ず最低でも一週間に一回は誘ってきた。
ま、悪い気はしないからさ、ちょいちょいやりたいことしつつ、ハクと一緒に冒険もしてた。
それで、まぁ、気が付くわけですよ。あっるぇ~? なんかおかしいぞ?
会うたびに強くなってるんだよな。一番長い、一か月会えなかった時があって、その時は一気に三十レベルも上がってた。
初心者の方だし、レベルが上がりやすいのはわかるけど、異常じゃね? って感じ。
すぐに追いつかれて、抜かれた。気づいたときにゃ俺が八十五くらいで、あいつはもう九十一とかだったかな。
一年もすりゃそん時の上限カンストしてた。うーん、マジゲー廃?
その成長速度のすさまじさに若干引いたこともあったが、俺も似たようなもんかーと、言い訳しつつ、悟りを開く。
んで、ハクはいつの間にかランキング一位を独占するようになった。ソロと、初期職業のランキング一位。いつからかは知らないけど、ここ一年の間はずっとじゃなかったかなぁ。
だぁから、有名になっちゃったんだよね。ハクは綺麗なアバターしてるし、無口でクールっつぅんで女性にも大人気。男にはその強さでさ。
あちらこちらで噂されて。最初は気にしてなかったみたい。ちょっとうざそうだった。そんだけ。
だけどさ、俺がいたんだよねー。あいつがカンストして、一位になって、でも俺は変わらず八十台だったのよ、レベルがなぁ……。
したら噂されんの。
「またハク様と一緒にいる」「うざいよな」「フタケタのくせに」「ハク様はお優しいから」「ザコがまとわりつくなっつぅの」「付きまとわれて、カワイソ」
的なね。
やっぱ強いやつは強いやつと一緒がいいっていう、理想? みたいなのがあるんだろうね。もしくは俺のが強いのになんでまだカンストどころかフタケタのあいつが、みたいなね。あ、純粋に俺がかまってちゃんで、ハクはいやがってるって信じてるやつもいたなぁ。あれには笑っちゃった。
ファンクラブみたいなのもあるらしい。嫌がらせみたいなこともされたりした。あいつはそれの存在自体も知らないだろうけど、何かは感づいていたんだ。
俺は気にしないぜ? 気にしてたら異様な成長みせるハクとなんかと一緒にいられねぇだろ? 嫉妬で憎んで傷つけてさよならさね。
あいつと一緒にいるのは楽しいから、だから嫌がらせもどうだっていいし。あと、こういっちゃあれだけどさ、人気者の隣にいるんだ。それくらいの覚悟しないとね。
でも、気にしないのが逆にいけなかったんだろうなぁ。
ハクが、俺の目の前で分かるように噂してんの聞いちまったんだよねぇ。俺はスルーしたんだけど、ハクは無理だった。そんとき、何したと思う?
ぶっちぎれて町内PKしかけたんだよ。ビビっちまったぜ。急いで羽交い絞めにして『妖精の箱庭』まで連れてきて、説教タイム。うちのギルマスもびっくりのな。
そん時のあいつの言葉。
「だって、クロの悪口言った……」
お前はガキか。っつうね……。
どっから仕入れたのかは知らねぇが、嫌がらせのことも知っていた。俺が何にも言わないから言わないだけだったんだと。嫌がらせしたのも、悪口いったやつらかと思って懲らしめようとしたんだと。
ダメだこいつ。俺はやっと自覚したよ。俺になついてるこいつは猛獣だってさ。
なついてくれんのもさ、俺のこと思ってしてくれたのもさ、悪い気はしねぇよ? むしろ嬉しいくらいだぜ? でも、でもな?
「限度を考えろ限度をぉ……!!」
俺はもともと目立つのは嫌だったんだよなぁ。だからトップランクのギルドに入れられても活躍しないようにレベルもそこそこで、副ギルマスにされても仕事しないようにして、適当にゲーム生活満喫してたんだよなぁ。本気で狩りする時はソロで人気のないフィールド探してさ。
そんな風に存在感のない、どこにでもいるようなゲーマーBを目指してたんだけど……。
ま、仕方ねぇよなぁ。俺に超なついてる、この狼みたいな子犬のために、ちょぉっとだけ頑張りますか。
てな感じでバカにされない程度のレベルを求めて、一人レベあげ大会。二、三回はハクともやったけど、ほぼ一人だったなぁ。
てか、レベあげ大会ね、ギルマスに言われるひと月前にやってました。はい。今から三か月ほど前のことですか。
そのころ、変な噂が立ったのはまた別の話……。なんつって。
ハクには及ばないけど、俺も三か月でだいぶ成長したとは思う。百レベ達成した。フタケタ(笑)なんて言わせないぜ。
で、まぁ、こんなもんかな、とか俺は思ってたんだけど、ハクは違ったみたいで。
「ごめん……」
泣きそうな顔で謝ってきた。
「ん、どした?」
「巻き込んだ。一緒いて、楽しくて。役に立ちたいと思った。でも邪魔、だった」
主語が足りないけど、なんとなくわかる。そんくらいには親しくなった。
「俺は巻き込まれてないぜ? お前が邪魔なら最初から一緒になんていないだろ? 楽しいんなら何よりだ。俺もだしな? お前が楽しいことすりゃいいんだよ。ゲームだぜ? 自由にしとけよ」
「でも……」
「役に立ちたいなんて、超口説き文句?」
俺が気にしても、気にしなくても、結局ハクは気にするんだ。だから俺も自由にするぜ? 楽しいから一緒にいんだよ。もちろんだろ?
にししってイジワルな笑いを口に乗せて言葉をつづける。
「それともお前は俺と一緒で楽しくねーぇ?」
「っ」
目をギュッとつぶって首をとれるんじゃないかって勢いで横に振る。しゃらしゃらと髪飾りが激しい音を立てる。
「おいおい……」
首を振ってぼさぼさになった髪をちょっと整えてやった。顔にかかった分を耳に引っ掛ける。
……。
涙の雫が長いまつげにからまって、煌めいていた。何かをこらえるように口をぎゅっと引き結び、眉間にもしわが寄っている。
う、うーん……ちょいこれは、綺麗すぎる。あれだ、過ぎる美形は心臓に悪い。
でもなんかガキみたいなんだよなぁ。だから庇護欲そそるってぇの? よーしよしよしって撫でまわしてモフリたくなる。……なんかちげぇか。
「ほらほら、なんて顔してんだよ」
眉間のあたりを指ではじく。……これ、俺がいじめたみたいにならねぇ?
「いたっ」
「せっかくのお綺麗な顔が台無しだぜ?」
「俺のせいじゃない……」
「ほれ、泣きやめ」
「泣いてない……!!」
「本当かぁ~?」
「当たり前だろう」
「よし、んじゃ、気にすんな。おーけー?」
「……」
こくんと頷くのをしっかりと見届け、頭をわしわしと撫でる。ハクは無言でされるがままだ。
「今度……」
「ん?」
ハクがやめろと言うでもなく、撫でてる手を止めるでもなく唐突に何かを言い始めた。
俺は撫でるのをやめて、また髪の毛を整えてやる。
「もうすぐ、十周年だろう?」
「そうだな。新しいアプデもあるらしいな」
「だから、今度……どこかへ行こう」
「……」
どっかってなんだよ。とはもうツッコまないぞ。
「んーじゃ、俺ちょっと集めたいもんなんだけど、手伝って?」
「ん」
そんな感じで現在に戻る。
「よっしゃぁぁぁああ!! たいりょぉぉぉぉぉおおおおう!!」
俺は欲しかった材料がバックの二エリアカンストするまで手に入れられたから大満足。しかも他のいろんなアイテムとかレアもんとかも入手できたらから言うことなし☆
ちなみに俺の持ってるバックは全三百エリア。一エリアに一種類のものが九十九まで入るのは共通。バックによっては千エリアとか言う化け物級のもあるらしいぞ……。もうそれ倉庫じゃね?
「ん。よかったな」
「そりゃもちろんよかったさ!! 最終日にゃ打ち上げしようぜ?」
「やりたい」
こいつが積極的なこと言うのは珍しい気がしたが、やっぱ十周年は楽しみなんだなってことでいいだろ。
「んじゃ、そろそろ帰るか。換金アイテムだけばらしたら今日は解散か?」
「ん」
「じゃいくかー」
「ん」
『妖精の箱庭』に近い町はあんまり換金に向いていないから、わざわざ大陸移動までして大きな街に来た。
ハクはローブのフードを目深にかぶって街中を歩く。ま、意味ないんだけどな……。
「あ、ハク様だ!」
「孤高の狼?」
「ステキー……」
「あいつまた一位独占だったな」
有名人は中二っぽい二つ名とかもらって崇め奉られています。はい。こいつは『ローンウルフ』とか『フェンリル』とか。オオカミさんですね。
あれ、フタケタって二つ名? ……わーい俺も有名人かなー(棒読み
「やだ、またフタケタと一緒じゃん……」
もうミケタだけど何か?(どやぁ←
「……」
「ハクー? 眉間にしわ」
「……」
無言でしわを伸ばすように揉み始める。
「でもさー、ちょっと前は見ないと思ってたのにねー」
「その代りに『死神』がいたんだろ?」
「あぁ、化け物並みに強いらしいな」
「そうそう。フェンリルと相性いいよな? 近接武器だったんだろ? ちょうど前衛と後衛で」
「ねー。フタケタとは大違い」
「でもでもー、壁には向かないんでしょぉ? だったら意味なくなぁ~い?」
「だけど雑魚くて同じ魔法職のフタケタより全然マシ! むしろナイスよ!!」
「てか、『死神』ってなにもんなわけ?」
「しらねー」
……。
噂なんて、適当なやつ、っていう象徴だよな。正体知らないのに好き勝手言っちゃって。その死神さんとやらに魂かられないといいなぁ?
『死神』、なんか強いやつっていうみんなのイメージ。鎌で戦ってた、恐ろしく強い黒マントの人物なんだとさ。
何人か見かけたやつがいるらしいけど、どいつもステータスを確認できるほど近くで見られなかったらしい。しかも近づこうとすると気づかれて逃げられたんと。
よって外見以外詳細不明! その外見もマントを深くかぶっていたからほぼわかってないけどな!! 髪色さえわかってないからな!!
鎌は戦士系統の職業しか装備できない、重たい系の武器に分類される。しーかーもー、ファンタジーとかで鎌はよくあるだろ? でもな、あれって斬りつけるのは無理だし、ぶん回すと棒の部分にあたってほぼダメージ半減したりするんだわ。だから難易度たけぇの。改良されて当たり判定の範囲が広まったやつもあるけど、斧とかの方がメジャーだな。
それを余裕で振り回して、敵をばっさばっさ斬っていったそいつはそうとう熟練のゲーマーなんだろうなって噂。いや、熟練こそかっこつけよりも使いやすさ重視するから、よりそいつの謎感が高まってる。
別に鎌使いがいないってわけじゃないぜ? 少ないのは本当だけど、最初からかっこつけて使ってればそりゃ熟練度も高まるし、強いやつもいるだろうよ。二つ名持ちもいるしな。
ま、鎌の話は置いといて、その『死神』だが、戦士系統の職業にしては防御を捨ててたんだと。機動性重視したにしても、異様なくらい布布しいらしい。
戦士職でもいないわけじゃねぇぜ? そんな奴らがさ。でもよ、後衛がいるのに壁をやらない、なんて選択肢はおかしいだろ? っていうので噂に信憑性をなくさせたんだ。
ついでにその死神さんとやらはステータスポイント全部攻撃に振ってんじゃね? ってくらいに強かったんだとさー。ハクが魔法攻撃チートだとしたら死神は攻撃最高レベルくらいだとか。
あ、チートではないんだな。ってツッコんだ俺。
まぁ、強いのには変わらんさ。
それらが俺のきいた『死神』についての噂。
誰もそいつの初期職業もレベルも知らない。噂の発生源もふわふわしてて、見たのはそいつとハクが戦闘をしていた一瞬だけ。という風にもはや都市伝説と化している。幽霊扱いかっつぅの。
そいつの正体を実際ハクに聞いたチャレンジャーもいたんだが、ハクは黙秘を貫いた。それどころか聞くなって行動で示したらしい。態度ではなく行動で。
それ以来誰ももう聞かない。禁忌扱いだ。まじうけるー。
「何笑ってる?」
おっと。思い出してたら口がにやけていたようだ。ハクに不審そうに見られた。
「いやいや。人って無責任で、バカらしい生きもんだよなーって思ってよ?」
「?」
「まま、気にすんなや」
「……」
換金アイテムをうっぱらい、その分の金は三分の二をハク、三分の一を俺に。俺はアイテムもらったからね。ハクは断ったけど無理やり押し付ける。
「んじゃー、今日は解散か。また明日……今度は遅れないかんな!!」
「ん、楽しみにしてる」
珍しくハクがニヤついてそう答えた。
おいこら、また遅れるとでも思っていやがんのか? 確かに遅刻魔ではあるけども!! ごめんね!!
「じゃ、これから一週間よろしくなー」
「ん」
『妖精の箱庭』・・・黒鷺と白狼の憩いの場。休憩場。オアシス!!