#02 小石川美保
小石川美保は固まっていた。
目の前に小さな女の子が浮いているのだ。
いかに頭脳明晰な彼女でもすぐには理解出来ない。
そんな彼女を見て、じれったく思ったカナメは言った。
「私が幻覚じゃないかと思ってる?」
美保は静かに頷く。
聡明な彼女である、こんな非常識な状況を言われるがままに
信じるわけがない。
死にたいと思った心が現実逃避として
ありもしない幻覚を自分にみせているのだ、と考えていたのだ。
同時に自分がどうすればこの状況を切り抜けられるのか考えていた。
(これは幻覚である)
という仮定に基づいて考えれば、とりあえず、
1、無視する
2、逃げる
3、話しかけてみる
4、触ってみる
5、屋上から飛び降りる(I can fly!)
このあたりが考えられるが、
1は、幻覚なんだから無視してれば実害はない、という考え
なのだが、そもそも無視ができない。
幻覚にしてはリアルすぎるのだ。
2、逃げる
普通はこれだろう。
泣き叫びながらすっ飛んで教室に逃げる。
これが無難かな?と、一瞬思った美保だが
(幻覚から逃げる?どこへ?)
(自分自身が見せているものからどうやって逃げるの?)
(それに教室でみんなから、どうしたの?と理由を聞かれたとき
どう答えればいいの?)
(まさか、ありのままに答えるわけにはいかないわ!)
(変人確定しちゃうじゃない!)
という訳で2はなし。
3、話しかけてみる
幻覚に話しかける…
危ない人確定…
4、触ってみる
幻覚に触るとは?
3Dの映像に触ろうとする姿は
傍から見ててとてもシュール…
5、屋上からダイブ
まだ早い、もうちょっと待て…
などということを彼女は考えていたのだ。
「幻覚なんかじゃないわよ。」
いつの間にか美保の耳元に移動したカナメが囁いた。
この時、美保の脳裏にさっきのカナメのセリフがよぎった。
(あなたの心の叫びを聞いて•••)
美保は気付いた
(こいつ、私の心を読んでる‼︎)
次の瞬間、美保は一目散に逃げ出した。
幻覚だろうと実体だろうと、考えてることがバレるのなら、対処のしようがない。
教室へ逃げようと階段を駆け降りる美保。
だが次の瞬間、少しの段差に足をとられてしまう。
このまま倒れこめば階段を真っ逆さまに転げ落ち、大怪我は必定!
しかし運動神経抜群の美保である、咄嗟に階段脇の手すりに捕まり危機は回避される
はずだった。
「あぶな~~い!」
という声とともに後ろから何かが飛んできた。
次の瞬間、背中をすごい力で押される感触が美保の全身を駆け巡る。
手すりを掴もうと差し出した手は、手すりを掴めず空しく宙を漂う…
階段の上がり淵から踊り場に向けて、宙を舞う美保。
美保の脳裏に走馬灯が走る。
グシャ!
頭蓋骨が砕ける音、頭から落ちた美保。
即死だった。
享年17歳、天才とか神童ともてはやされた美保のあっけない最期であった。
ちなみに突き飛ばしたのは、もちろんカナメである。