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獣臥 1

 まだ靄が晴れないほどの早朝だった。

鳥も鳴かず、大体の人もまだ目を覚ますことはなく、山に阻まれて太陽が顔をのぞかせることもなかった。

「本当に行くんですか?今の季節、危険ですよ。」

大体と言ったとおり起きている人もいる。

この村に唯一存在する旅人用の宿から出てきた男もまたそのうちのひとりだ。

入口で主人と別れの言葉を交わしている。

「えぇ、大丈夫です。動物の対処は知っているんで。」

背嚢を担いだ男は何でもないといった様子で肩をすくめる。 

腰に佩いた鉈がカチャリと音を立てる。

「そうですか……気をつけてくださいね。昔から森の奥には人を食う狼がいるそうですから。」

「狼……ねぇ。まぁ、気をつけますよ。それじゃ。」

「本当に行ってしまった・・・・・・。」


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しゃきん。

爪を取れ、怯えてしまうから。

しゃきん。

牙をもぎ取れ、邪魔なだけだから。

しゃきん。

尻尾を切り落とせ、怖がらせてしまうから。

しゃきん。

耳を斬れ、恐れられるから。

「ッ……!ふ、ふふ。これで人間らしいかしら?」

 森の奥、一人の女性がナイフを片手に鏡に向かって微笑む。

その様は誰もが見惚れるほど美しかった。

血塗れで無ければ。

足元には20本の鋭い爪と獣の尾と耳、牙が転がっていた。

女性はナイフを捨てて四肢に包帯を巻きつける。

爪が剥がれたところから血がジワリと、切り落とした頭と尻からはだくだくと血が流れ出していた。

やがてそれら全てを掃除し終えると女性は木で編んだ籠を持って外に出た。

外に出ればあたり一面は森だ。

 そう、ここはとある村の森の奥。

人を食うと恐れられている人狼の住処だ。

そこに住んでいるのは一人の女性。

耳のない、女性だった。











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