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第一話 勇者様がピンチ! 今すぐお助けに参りますわ!

「ふむ。ようするに、お前は師匠である大魔宝使いトライとか言う奴に言われてここまで来たと。そいつが言うには、近い将来に太古に封印されていた邪神が蘇り、世界を混乱に陥れる。それを救うのが、未来の勇者であるワイやと、そう言うワケやな」

 うんうんと、マールとサークルは頷く。

「帰れ」

 ポイッと、マールとサークルは家の外に追い出された。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ、勇者様! 私の話を聞いていましたか?!」

 ドンドンと扉を叩きながら、マールはバッツに訴えかける。

「あなたは世界を救う勇者なのですよ! ですが、それはまだ未来の話で、あなたはまだ覚醒していないんです。この事を知った邪神の使いが、あなたの命を狙っていつ現れるとも限りません。だから、私の力であなたが覚醒するまでサポートを……」

「ええい、うるさいわ! 近所迷惑やないか!」

 部屋の中で、バッツはフゥとため息をつく。

「あんなぁ、家を滅茶苦茶にしたり元通りにした事でお前がただ者じゃない事は分かったで。せやけど、単なる村人Aに過ぎないワイが、未来の勇者ですとか言われてハイそうですかなんて言うとでも思うとるんかいな。今時の子供でも、もうちょっとまともな嘘をつくで? なぁ、ペケ?」

 バッツは数日前に家の前で拾った黒猫のペケを抱き寄せた。ペケは、嬉しそうにニャンと鳴く。

「それに、ワイはこんな世の中なんてどうなってもええんや。人間なんて所詮欲の深い罪人や。みんな自分の事しか考えとらへん。いっその事、邪神とやらに滅ぼしてもらった方がええんとちゃうん?」

「勇者様、何という事を言うのですか! あなたは、この世で唯一世界を救うことの出来るお人なのですよ! それが邪神に滅ぼされてしまえばいいだなんて! そんな事を聞いたら、お父様やお母様が悲しみますよ!」

「うるさい! ワイに親なんて居ないんや!」

「えっ?」

 思わず叫んでしまった事に、バッツはチッと舌打ちをする。

「もう、放っておいてくれや……」

「ゆ、勇者様……」

 その後もマールは扉越しに必死に訴えるが、バッツからの返答は無かった。

「これは重傷でチュ。勇者様は、心の病にかかっているみたいでチュ」

「うーん、困ったわねぇ。まさかのっけから躓くなんて思ってもみなかったわ。選ばれた勇者と言えば、みんな喜んで受け入れてくれると思っていたのに。しかも、こんな可愛い美少女付き。一体、何が不満なのかしら?」

 ふぅと、マールは溜息をつく。

「マールが、勇者様の心の傷に触れるような事を言うからでチュ」

「あ、あれは……悪かったわよ」

 とりあえず、マールとサークルは一旦バッツの家から離れ作戦会議を始める事にした。

「まずは、あの固く閉ざされたドアを開ける事から始めるでチュ」

「それなら、この何でも木っ端微塵にぶっ壊せる魔宝具『グレートとんかち』の出番ね」

「ダメでチュよマール。その魔宝具は強さの調節が出来ないでチュ。また、家ごと壊しちゃいまチュよ」

「まぁ、壊れたら壊れたでまた直せばいいだけじゃない。それよりも、あの凝り固まった勇者様の硬い頭を何とかしなくちゃ」

「それなら、あれがいいでチュ。装着した者を意のままに操ることが出来る魔宝具『マリオネットバンド』。あれを使って勇者様を私たちの操り人形にしてしまえば話が早いでチュよ!」

「それって、物語としてどうなのかしら……。それならいっその事、このグレートとんかちで硬い頭をぶっ壊すのも……」

 うーんと悩み続けるマールとサークル。

 と、その時だった。

「うわあああああっ!」

 突然、バッツの家から彼の叫ぶ声が聞こえてきた。

「今の声は?!」

「マール、急ぐでチュ!」

 家の前までやってきたマールは、躊躇なく魔宝具『グレートとんかち』を取り出し、扉に向かって叩きつけた。勢い良く扉ごと家がぶっ飛ぶ。

「マ、マール!」

 そこには、尻餅をつくバッツと黒い翼を生やした猫耳の怪物が居た。

「いつの間に!」

「ちぃ、またお前らか! こうニャったらお前らもまとめて地獄に送ってやるニャ!」

 鋭い爪を振りかざし、猫耳の怪物が襲いかかってくる。

「魔宝具!『グレートとんかち』フルスイング!」

「ニャ、ニャんなのだ、その馬鹿でかいトンカ……」

――バキャッ!

「ぐほええええっ!」

 まともに『グレートとんかち』に殴られた猫耳の怪物は、鈍い音と共に遥か彼方に飛んで行った。

「大丈夫ですか! 勇者様!」

 慌ててマールがバッツに駆け寄る。

「あ、ああ……。ありがとう、おかげで助かったで」

 マールの肩を借りながら、バッツが立ち上がる。

「一体、私たチが居ない間に何が起きたのでチュか?」

「わ、わからへん。振り向いたら突然あの怪物が襲ってきたんや」

「ニャ……、ニャ~」

 と、その時、ズタボロのボロ雑巾のような姿のペケが、フラフラの足取りで現れた。

「ペ、ペケ! どないしたんや、その姿は! 一体何があったんや! はっ、そ、そうか、ワイの知らない所で、あの怪物に襲われたんやな! 可哀想に!」

 ボロボロのペケをバッツはガッシリと抱き寄せた。ペケがギニャーと叫ぶ。

「マール、あの猫……」

「ええ、サークル。分かっているわ」

 ジロリと疑いの眼差しをペケに向けるマール。ペケはサッと視線を逸らした。

「ねぇ、勇者様。これで分かったでしょ? あなたは将来邪神を打ち倒す勇者で、それを阻止しようとする邪神の使いに狙われているんです」

「あ、ああ……」

 バッツはコクリと頷く。

「と言うワケで、今日から私が勇者様をお守りしますわ! 四六時中離れませんので、そのおつもりで」

「な、なんやて?!」

 マールの言葉に、バッツはフルフルと首を横に振る。

「そんなのダメや! こんな狭い家で一緒に暮らすなんて、プライベートもクソもあらへんやないか! 成年男子は色々と一人部屋でやる事が多いんや! ダメ! 絶対にダメ!」 

「そんな事言わないでぇ。ねぇん、いいでしょ? 勇者さまあぁん」

 パサッとマントを外し、マールは猫撫で声を出しながらバッツに抱きついた。

「だ、ダメや……そんな色仕掛け、ワイに通用するワケが……はうっ」

 自分の胸をバッツに押しつけながら、マールはバッツに頬ずりをする。

「私、勇者様の事が心配なんですぅ~。だから、ね? いいでしょ? 一緒に暮らしましょうよぅ~。誠心誠意、ご奉仕致しますからぁ」

「お、おっぱい、いっぱい……」

 もはや目がおっぱいと化しているバッツに、正常な思考をすることは不可能だった。バッツは朦朧としながら、コクリと頷いた。

 マールはニヤリと怪しい笑みを浮かべ、ペケを見つめる。ペケはサッと視線を逸らした。

「さて、働いたら何だかお腹が空きましたわ。そうですわ、お近づきの印に、今日は私の得意料理をお披露目致しますわ」

 パッとバッツから離れたマールは、ニコリと微笑む。

「得意料理?」

「ええ、私の得意料理。それは、ね・こ・な・べ♪ ですわ」

 リュックから出刃包丁を取り出し、マールはペロリと舌舐めずりをする。その余りにも恐ろしい形相に、ペケは全身の毛を逆立てながらギニャーと叫んだ。

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