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 あー……。えーっと……。

色々と言いたいことは山盛りって言うぐらいあるのだけど、現実として捉えたくない出来事とかもあったし……。


 まあ、要するに絶賛混乱続行中です!


 日本語おかしい? うん、分かってる、分かってる。

自分で間違い指摘して自分で突っ込むぐらいに混乱している。

 なんて現実逃避とばかりに思考に没頭していた私に、また同じ事が起きていた。

頬に押し付けられた柔らかい感触と、少し冷たいソレ。

ただ一つ違っていた事は、その押付けられたものが最初よりも時間が長かった事だろうか。

最初の二倍? いや、三倍ぐらいの時間だった。


──流石にキレてもいいだろう。


っていうか、その資格十分にあると思う。

 うら若き乙女とは言えないけども──何せもう二十五だしね──あまりにも女性に対して配慮のない態度いや、行動だと思う。

だから私の怒りは正当なもので、仮に訴えたとしても全くない問題レベルだと思う。

勿論、訴えるなんていう事はしないけれどもここは厳重に注意しておこう。

そう思った私は、当人へと文句を言うべく顔を横に……ん? 横?

いや、ちょっと待て私。何かおかしくないか?

 私の真正面にいる『兄ちゃん』は、これ以上何か変な事されないようにとまっすぐ自分の視界へと捉えたままで、それから彼は微動だにしていなかった。

何が嬉しいのか、笑顔を浮かべたまま私を見ていた。

そんな状況で、私の頬にキスをするなんて芸当が出来るだろうか? いや、出来ない。

なら、一体誰だと言うのだ?

まさかこれ以上、変な人間が増えるというのか……?


(つかさ)っ! お前っ!」

「なーに? 祐夜(ゆうや)さん?」

「な、なーにじゃないだろっ!? 麻那(まな)になんて事したんだっ!」


 『兄ちゃん』は怒鳴りながら、私の頬をゴシゴシと自分の手で擦る。ゴシゴシと……。

ちょっ! い、痛いから!そんな思いっきり擦られると肌が傷つくっ!

あまりの痛さにその手から逃れようとしたら怒られた。

なんでよ……。なんで私が怒られないといけないんだ。

理不尽な怒りに抗議の想いを込めて真正面から『兄ちゃん』を睨んでやった。


「な、なんで睨むんだ……。麻那……。兄ちゃん何か悪い事したか?」


 見る間にシュンとなっていく『兄ちゃん』に答えたのは、私ではなかった。


「そんなの麻那が怒るのは当たり前でしょう。 祐夜さんが力任せに擦るから、むしゃぶりつきたくなる可愛い頬が真っ赤になってるじゃないですか。痛かったよね?」


 ていっ! という音が聞こえそうなほどぞんざいに『兄ちゃん』の手を外した人──声から判断すると男の子みたいだ──は、そっと私の頬に触れた。

さっきのぞんざいな扱いとは同じ手と思えないほど優しく。

まぁ、それは言いとして、なんかセクハラ発言聞こえた気がするんだけど?


「ごめんっ! ごめんな、麻那……。ばっちぃものが触れたから、兄ちゃん綺麗にしようと力を入れすぎたみたいだ。本当にごめん……」

「ばっちぃものってなんですか。とにかく、麻那の皮膚は繊細なんですから、気をつけてくださいね」

「そんな事司に言われなくても分かってるよ」


 えーっと。そろそろ私は話しかけてもいいのだろうか?

どうやら会話も終わったみたいだし、問題ないよね?


「ところで……」

「ん? どうした?」

「なーに?」

「あなたたち、一体誰ですか?」

「はっ!?」

「ええっ!?」


 よし、ようやく言えたとスッキリした私。


「あのな、麻那? もう一度兄ちゃんになんて言ったか教えてもらっていいか?」

「確かに私は麻那ですけど、『兄ちゃん』なんて人は知りませんし、第一此処って何処なんですか?」


 至極真面目に答えました。

すると『兄ちゃん』はわなわなと震えだし、ガシッと音がするほど強く私の両肩を掴んできた。


「ごめん、ごめんな麻那。兄ちゃんが本当に悪かったと思う。だからそんな意地悪な事言わないでくれ」


 今にも泣き出しそうに顔を歪めて、なんとか搾り出したような悲痛な声で言う『兄ちゃん』。

そのあまりにも必死な様子に、自分が悪いわけでもないのに罪悪感を感じてしまう。


「ね、ねえ麻那? まさか僕の事も知らない、なんて言わないよね?」


 『兄ちゃん』とのやり取りに不安を感じてか、私の頬へ手を優しく添えて顔を横へと向けられたそこで、初めて声だけ聞こえていた男の子の顔を見た。

声からも思ったことだけど、やっぱり知らない人物だった。

こんな可愛らしい、『美少年』という言葉が似合う男の子は見覚えがない。

んっ? と、何かが一瞬脳裏を掠めた気がするが、やっぱり見覚えがない。と、思う。


「ごめんなさい……。あなたの事も知らないわ」

「えっ……。嘘だよね? 僕を驚かそうとしているんだよね?」


 瞳をうるうると潤ませて、まるで捨てられそうになる子犬のな瞳で、まるでこの世の終わりを迎えたような表情を浮かべている少年。

また罪悪感を感じてしまうけど、それでも私の答えは変わらない。


「ごめんなさい。あなた達の事は全く知らないわ」


 そう私が言った瞬間、少年は崩れ落ちた。

そこまでショックを受ける事なのかと、ちょっとオーバーリアクションじゃない? なんて思ったのも束の間。

それから『兄ちゃん』と少年の怒涛の状況説明というか、思い出というか彼らの『麻那』についての色々な話を──大半が彼らが『麻那』に好意を寄せているような話だったけど──機関銃の如く喋り倒してくれた。

お蔭で未だに声が耳に残っている気がする。

とりあえず頭が痛いと嘘をついてこの部屋から追い出した。

ついでにそのまま寝るので、暫く部屋に入って来ないでとも厳重に、これでもかと言うほどきつく言っておいた。

渋々ながら彼らは部屋を出て行き、そうして漸く一人の空間を確保できたのだった。


 しかし──。


一体自分に何が起きているのだろうか?

 彼らの話を要約すると、私は家の階段から落ちたらしく偶々遊びに来ていた少年──司という名らしい──が凄い音がしたので来てみると、階段の下で『私』が意識を失って倒れていたと。

幾ら待っても目が覚めない事から、家族であるお兄ちゃん──祐夜という名らしい──に連絡をり、慌てて駆けつけたお兄ちゃんが部屋に着いた時に私の目が覚めた……と。

最終的に彼らの中で、階段から落ちたショックで私は記憶喪失になったという事で落ち着いたらしい。


 なんだそれは?


私にしてみたらその一言に尽きる。

そんな簡単に記憶喪失ってなるもの?

それ以前に、残念ながら記憶喪失になんかなった覚えはこれっぽちもないのだ。

 明日一日休めばまた仕事に行かないといけないし、休日でも若干溜まりつつあるネットでの自己啓発の講座も受けなくてはいけないし。

勿論、自分の家族構成やら、今の住所やら友達の事、昨日食べた昼食等、とにかく色々な事を覚えている。

そんな私が記憶喪失? ありえない、ありえない。

だったら、彼らは一体何がしたいのかって考えに結局行き着くのよね。

一番可能性が高いのが性質の悪い大掛かりなドッキリって事になるんだけど……。

それにしては彼らの演技は真に迫るものがありすぎたのでその線は薄いかと思った。

そうなると夢? って言う事になるんだけど……。

五感がどうしても夢じゃなく現実だと訴えているのよね。

しかも夢となると、欲求不満なのか? なんて思ってしまう出来事もあったわけで……。


 あー、やめやめ!


幾ら考えたってどうにもならない以上、無駄。

ここは素直に寝てしまおう。

次に起きた時に、何も変わってなかったらその時に考えよう。

現実逃避大いに結構!


 どうか夢でありますように……。


そう願いながらベッドに横になった私は、数分も経たないうちに何処かで聞いた事のある電子音によって寝る事を中断させられた。

もう、本当に誰かの嫌がらせとしか思えない。

暫くしたら鳴り止むだろうと思っていたけど、この音は一向に鳴り止む気配をみせなかった。

そのまま根気比べをしても良かったけど、そんな無意味な事をするぐらいならさっさと止めて寝る方が遙かにいい。

そうして音の発生源を探すとそれは簡単に見つかった。

ベッドの対面に置いてあるシンプルな勉強机に携帯が一つ置いてあり、そこからのようだった。

電話かメールの着信音か分からないけど、しかししつこいものだ。

持ち主も、着信音の設定をもう少し短めにすればいいのにと思いながら携帯を手に取った。

他人の携帯を勝手に見てしまう事に罪悪感を少なからず感じたけど、鳴り止まない電子音は頭に意外と響くので緊急措置として目を瞑ってもらおう。

誰の携帯かは知らないが、私が持っている機種と同じだったので操作には困らなかった。──色まで一緒なのにはちょっと笑ったけど。


「ああ、メールなのね。ああでも、この状態でボタン押すと中身見る事になっちゃうなぁ……。パソコンと違って未読にする事出来ないし。誰かに見られたって気付くよね、流石に。でもここは私の安眠の為に……。ごめんなさいっ!」


 誰か分からないがとりあえず持ち主に謝ってからボタンを押した。

そこで漸く電子音は消える。

 よし、あとは待ち受け画面に戻しておけば大丈夫よね。

戻るボタンを押そうとして何気に目に入った文字に、押そうとした手が思わず止まる。

何故なら、送信者の名前に見覚えがあったからだ。

この広い世界、同名なんてありえる。ありえるけど、その下にある本文に私のフルネームとふざけた渾名が記載されているのは……。


 それは、このメールが私の友達からで、私宛で間違いないということ……?


 確かにこの携帯には見覚えがあった。ストラップも特につける派じゃなかったし、デコる事もあんまり好きじゃない。

だから見た目だけでは自分の携帯だなんてすぐに分かる筈もなかった。

でも、友達の名前がある事や私の名前がある事を思うと、この携帯はやっぱり私の携帯って事になる。


──駄目だ。


なんか次から次へと考える事があり過ぎて上手く頭が働かない。とりあえず今はこのメールの内容を読む事にする。それで本当に私宛なのかを判断すればいい。

半ば自棄になりながら友達かもしれない人物のメールを読んだ。


……。


 ああ、くそっ!

 あまりな内容に、携帯を持っている手がプルプルと震える。

本当は携帯を投げつけたい、でもそれをしたところでダメージを受けるのは私なのだ。

何せこの携帯、間違いなく私の物だったから。

 ああ、この怒りは何処へと向ければいいのだろうか?


 友達──(あかね)から送られてきたメールの内容は、怒りを覚えずにはいられない内容だった。


本来は前中後編で終わる筈が、後編が思いのほか長くなりすぎたので数字表記へと変更いたしました。とりあえず、あと1話で完了予定です。今しばらくお待ちください。

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