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突発的に書きたくなりました。
乙女ゲーの癖に恋愛要素は皆無です。逆ハーもありません。期待した方、ごめんなさい。
「あいたたた……」
側頭部の奥がズキンズキンと痛みを訴えているので、思わず声を出してしまった。
なんていうか、切った時に「いたっ!」って思わず叫ぶ条件反射と一緒です。
とりあえず身体を起こして痛みが治まるように、こめかみをぐりぐりとゆっくり優しく撫でる。
側頭部の奥だから効くかどうか怪しかったけど、どうやら問題なかったみたい。
痛みもかなり治まってきた。
とりあえず……。コーヒーでも飲んで一息つこうかな。そう思って部屋を出ようとしたんだけど。
──なんかおかしい。
ちょっと待って、ちょっと待って。
いやいやいや……。
とりあえず、目を瞑って深呼吸しよう。
「スー、ハー、スー……。ハー……」
心の準備はいいかい、私? 大丈夫大丈夫、落ち着けー、落ち着けー。
よ、よーし。目を開けるよ、開けるよー。三・二・一。
……。
う、うん。もう一回目を瞑って深呼吸しようかな?
はい、落ち着けー。落ち着けー。
ゆーっくり、ゆーっくり目を開けようね。怖いことなんかないさ。
そう思ってゆっくり目を開けようとしたんだけど、物凄い音が突如聞こえたものだから、条件反射で思わずバッチリと目を開けてしまった。
そこには、先程までと全く変わらない内装の部屋があった。勿論、セオリーというかなんというか、見覚えはない。
いや、一点だけ変わった事がある。
この部屋の入り口兼出口のドアのところに、物凄い形相をした男の人が立っていた事だろう。
多分、さっきの物凄い音を立てた人物だと思うのだけど……。
えっと、この状況はなんでしょうか? 私、不法侵入って事になるのだろうか。
……。
なるよねぇ、なっちゃうよね!?
いや、でも私の意志ではなく、ですね。気付いたら此処にいたわけでして、それでもやっぱり不法侵入になります、よねぇ……。
ちょ、マジ困るっ!
仕事、仕事に支障がっ!! 下手したら、いや下手しなくても解雇されちゃうっ!?
お、お兄さん、私の話を聞いてですね、出来れば穏便にすませていただけないでしょうか。
いや、十分身勝手な話だとは思うんですけど、でも私の話も聞いてですね、慈悲を、慈悲をいただけないでしょうかっ!
あの、そんな怖い顔で私を見ないでいただけると……。
勿論、そちらにとっては私は加害者というか、不審者といいますか。仕方ない事とは分かっているんですけど……。
あー、えーっと……。
なんて声をかければいいのか、言葉は音とはならずに頭の中でぐるぐると回るだけ。
分かってる、分かってる。
混乱しているって自分でも分かっているけど、だからといってどうしようもない。
混乱しているって分かっている事が既に、混乱しているんだから。
駄目だ、もう無理。
こういう時はアレだよね。アレしかないよね。
気絶するか、寝ちゃうしかないよね。
でも、気絶しようと思ってすぐ気絶できるスキルなんか持ってないから、残されたのは寝るという手段しかない。
とりあえず未だ怖い形相のお兄さんは放置して、ベッドで眠ろう。
──現実逃避?
ええ、勿論。
これを現実だと未だに認めていない部分もあるので、寝る。とりあえず寝る。
ベッドもお誂え向きに私のすぐ後ろにあるし、これは寝ろって事だよね。間違いなく。
私は何も見てません。という素振りでいそいそとベッドへと横になった。
お兄さんにじっと見られるのも嫌なので、上掛け布団を頭のてっぺんまで被る。準備万端、後は寝るだけだ。そう思っていたのに……。
ガバッと問答無用で布団を捲り上げられ、次いでギュッときつく抱きしめられた。
おおうっ!
これはもしや『確保っ!』って事なのか!?
やっぱり寝るんじゃなく、素直に交渉していた方が良かったのか? 初手でミスった?
ギューギューと未だに強く抱きしめてこようとする腕に、ギブギブッ!と心の中で叫びつつ遠い目をしながらそんな事を思った。
ああ、それ以上力を入れられると流石に厳しいんですけど。
苦しすぎて音に出す事すら出来ない言葉は、胸中で呟くのみとなる。
もう、無理だ……。
そう思ったが最後、私の意識は闇の中へと深く沈んでいった。
どういった経緯であれ、自分の望んだ気絶するという状況になったのだから結果から鑑みるに良かった事だったのかもしれない。
あくまでも「しれない」だったけどね。