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Short story 2  作者: 怜悧
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「何か嫌いなものあったっけ。」

そういってわたしは目の前のテーブルに並んだ料理を眺め、とり皿を手に取った。

「いいよ、そんな気を使わなくても。」

そういう彼を手で制して、サラダとから揚げを適当に取り分けて彼の前に置いた。

「ああ、ありがとう。」

礼儀正しく彼はそう言ったものの、少し具合が悪いように見えた。



わたしは彼、真崎と一緒に少し照明が落ちた居酒屋のコーナー席のソファに隣りあわせで座っている。

というのは、彼から電話がかかってきたからだ。

真崎は今の会社の同期だが部署が違うため、同期会以外ではほとんど会う事がない。

物腰が柔らかく落ち着いていて、話しの方向が逸れたりするとうまく軌道修正したり議論をまとめたりするので、周りから一目置かれる人物だ。


「真崎くん、大丈夫?」

声を掛けて隣の様子を伺う。普段見ているより具合が悪い様子の彼に、ちょっと心配になる。

彼はテーブルの上の水の入ったコップをつかみ、中身を半分ほど飲み干して、コトリとコップを置いた。

「ごめんね、筒井さん。呼び出した上に心配までかけて。」

「ううん、こっちも一次会終わったところだったからちょうどよかったし。」

今夜は納涼会と称した部署の飲み会が開かれていた。

たいてい飲み会は週末に開かれるため、部署が違っても飲み会の日程は同じになることが多い。

わたしが所属する庶務の飲み会が今夜で、真崎が所属する総務の飲み会も今夜だった。

ちょうど一次会が終わり、二次会の誘いを断っているところで真崎から電話がかかってきたのだ。


『今から会えないか』と。


真崎から電話がかかってきたことにも驚いたが、電話の声がなんとなくいつもと違う感じがして、いや、受話器が拾った周りの喧騒から事情を察して会うことを了承したのだ。


「一次会でだいぶ飲まされた?」

「ああ・・・結構ね。」

答える彼の眉間に若干しわが寄った気がする。

「その分だと、あとの誘いを断るのにもだいぶ苦労したんでしょ。」

わたしが言うと、彼の眉間にさらにしわが寄った。

そして答えないまま、どさりとソファに寄りかかった。


こういう彼を見ることは珍しい。初めてなんじゃないだろうか。

いつも礼儀をかかないようにきっちりしていて、周りの誰に対しても丁寧に接している。

そう、真崎は優しい。

だから同性からも好かれる。

異性からはもっと好かれる。

でも彼のことだから、たとえ自分にその気がなくても相手を邪険にはできない。

今夜もずいぶん女性に誘われたんだろうが・・・その中に彼の気に入る女性がいなかったのだろう、用事を理由に断ろうとしたのだ。それでトイレにたった時にわたしに電話を掛け、『5分後に電話をくれないか』と急いで言って電話を切った。

そのときはまったく事情が飲み込めなかったものの、5分後に電話して事情を知るところとなる。


「真崎くん、筒井だけど。」

『ああ、忘れてないよ。少し遅れるかもしれないけど必ず行くから。』

何を忘れていないと言うんだろう?必ず行くって、彼と何か約束でもしていたんだろうか、と思ったときだった。

『えーなにー。真崎君ほんとに約束あるの?2次会行こうよー。』

電話の向こうから聞こえたのは彼を誘う、複数の女性の声。

『だから言ったじゃないですか、約束あるって。ほんとだったでしょ。だから今日はすみません。』

『えー、そんなのつまんないよー。』

彼が周りの女性に説明しているのが聞こえる。

ぶーぶー文句を言ってる女性陣。

結構彼女たちも酔っているんだろうなあ、と苦笑する。

真崎はきっと総務で年上の女性にも年下の女性にも人気があるんだろう。

『10分後に行くから。暑いから店の中で待ってて。』

ふたたび声がこちらに向けられる。うん、ととりあえず返す。

すると。

『真崎君やさしーい。』

冷やかすような羨むような、そんな女性陣の声を聞きながら通話を切った。


この時点では、まさかこの後本当に彼と会うとは思っていなかった。

なぜなら彼の用事は終わったと思ったから。

だから通話後、1次会の店から出て歩き出したときに彼から電話がかかってきて『今から会えないか』と言われた時には本当に驚いた。


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