セラフィスの三番目の弟子
光の玉がふわりと食堂の中央に現れ、ゆらゆらと揺れる光の中からセラフィスの姿が浮かび上がった。
体がゆっくりと降りると同時に光は消え、食堂の喧騒の中に不思議な静寂が広がる。
セラフィスはほっぺたをぷっくり膨らませ、周囲を見渡した。
その表情は少し生意気で、でもどこか楽しげでもある。
「カンサルにベラミカ、私をのけ者にして、
みんなで楽しもうって言うの。ちょっとひどくない?」
「あ、いやいやいや、元々こんな飲み会する予定なかったんです。
私たちは知りません――
な、ベラミカ」
「そ、そうですよ、師匠。私たちも突然呼ばれただけで」
カンサルとベラミカは慌てた様子で言い訳を並べる。
「ふふ、まあいいわ」
セラフィスは肩を軽くすくめ、微笑みを浮かべた。
その微笑みは少しだけ皮肉を含み、でも嫌味ではない――絶妙に余裕のある笑みだった。
その視線がふと、セーニャの腕に抱かれた小さな影に止まる。
「……あら?」
セラフィスが足を進めると、レックが本能的に身をすくめた。
「ぴっ……ぴぃ~~」
小さく震える声が漏れる。
「まあ、ドラゴンの赤ちゃんじゃない。ずいぶん人懐っこいのね~」
セラフィスは屈託なく笑いながら、そっとレックを覗き込む。
しかしレックは怖がり、すぐにセーニャの胸元にくっついた。
耳を伏せ、尾を小さく丸め、全身で緊張を示している。
「そんなに怖がらなくてもいいのに~」
ベラミカが小さな声でぼそっとつぶやいた。
「師匠を怖がらない生き物なんて、この世に存在しないわよ」
「ひっど~い、ベラミカ。
私そんなに怖くないもん。も~」
そう言いながら、セラフィスはそっとかがんでレックと目線を合わせた。
その大きな瞳は柔らかく見えるが、どこか計り知れない力を秘めているようでもあった。
「ふーん……君、なんでここにいるのかな?
君の居場所はここじゃないよね」
レックは小さく震え、セーニャにさらに身を寄せる。
セーニャがレックに声をかけた。
「レック、大丈夫よ。ちゃんと挨拶しなさい」
レックが
「ぴぃ~」
と小さく返事をする。
ライブリオが前に一歩出て、軽く頭をかしげた。
「で、セラフィスさん。なんか目的あるんでしょ?」
セラフィスは腕を組み、楽しげに目を細める。
「うん。この子――イヴァンスね。私に弟子入りするでしょ。
三人目の弟子になるから、どんな子かちょっと調べてみようと思って」
「ベラミカ、あなたイヴァンスの魔法の先生だったわよね?
どんな感じか教えて」
「はい! ファイアが前に飛ばずに周囲で暴発するんです。炎がうまく形成できないというか……」
ベラミカは少し困ったように眉を寄せる。
「ふ~ん。じゃ、調べてみる方が早そうね。イヴァンス君、ちょっと手を出してみて」
セラフィスは軽やかにイヴァンスの両手を握った。
魔法の手触りは温かく、微かに振動している。
どうやらサーチ魔法で、イヴァンスの魔術力を丹念に調べているらしい。
「……あら? こんなの初めてね」
セラフィスは眉をひそめるでもなく、目を輝かせて続ける。
「攻撃魔法を作る回路――いわゆる戦闘用の魔力回路がほとんどないわね。
でもね、魔力自体は四桁を超えてるの。これって、私の魔力より多いかもしれないわよ」
「そ、それって……」
カンサルとベラミカは言葉を失った。
普段はしっかり者の二人も、さすがにこの数値には圧倒されたらしい。
「そうね。使える魔法があるのなら、戦いの最中はずっと持続させられるわ。
そういう意味でも鍛えがいがあるってもんよ」
セラフィスはくすくす笑い、楽しそうにイヴァンスを見つめる。
ライブリオが少し肩をすくめ、呆れたように口を開く。
「で、セラフィスさん。イヴァンスにどんな特訓をするつもりだ?」
「な~いしょ。でも、ライブリオ君もそこを気づかせるための決勝だったんでしょ?」
「セラフィスさんには何でもお見通しか。ある筋からの依頼でね。
依頼人は明かせないけど」
「うふ、だいたい想像ついてるわよ。
カンサルも、このくらい周囲が見れれば私のところに残れたのに~」
「私は政治的なことが苦手なだけです。
もともとセラフィス様が魔導士団なんて作らなければ、今でもあなたの元に居ましたよ」
カンサルは少し照れくさそうに言った。
「え~、じゃあ魔導士団つぶしちゃおうか?
私たち三人で、前みたいにしてもいいわよ」
セラフィスの目がきらりと光る。
すると慌てたベラミカが前に出て手を振った。
「師匠、それはダメ! 本当にダメだから!」
ベラミカは慌てて声を張り上げた。
「師匠が帝国を離れたら、戦力バランスが崩れるのよ!
冗談じゃないんだから!? 周りの国が黙ってるわけないじゃない!」
ぐっと拳を握る。
「下手したら……本当に戦争になるのよ!
だから、それだけは絶対にダメよ!」
目をきょとんとさせて、セラフィスが答えた。
「ベラミカって真面目よね~。分かってるわよ。
だからイヴァンス君を鍛えるのよ」
くすりと笑い、肩をすくめる。
「ラプロス、グレッグ、そして私。
三人が師匠になるんだから、強くなるわよ~」
「どんな地獄が待ってるんだか……」
ライブリオは目を見開き、あきれたように息を吐いた。
セラフィスはくすくすと笑い、楽しそうにイヴァンスを見つめた。
「さあ、これからが本番よ。覚悟しなさい、イヴァンス君」
イヴァンスの目がさらに輝き、胸が高鳴った。
師匠と共に歩む道――。
それが、この先待ち受ける地獄の特訓の始まりだということを、
まだ彼は知らない。




