優勝祝い
決勝戦の終了とともに、大会は幕を閉じた。
優勝は、ライブリオ率いるパーティであった。
学生代表として出場していた息子バリンスが、
優勝したチームのメンバーに名を連ねていたこともあり、
カイル宰相は終始ご機嫌であった。
もっとも、
そのチームの大半が宰相の資金で集められた助っ人であることを思えば、
勝利そのものはさほど意外でもなかったが。
表彰の後、カイル宰相はライブリオを呼び止めた。
優勝者を労う笑みを浮かべてはいるが、その視線はどこか値踏みするようでもある。
強者を見つければ、まず手元に置けないか考える。
権力者としては、ある意味当然の習慣だった。
「どうだ、私の私兵にならないか」
冗談めいた調子で言う。
だがその目は、決して冗談ではない。
もっとも――宰相自身も、この男が素直に頷くとは思っていなかった。
この手の実力者は、往々にして誰かの下に入ることを好まない。
それでも声をかけておく価値はある。
人は縁で動くものだ。今日断られても、明日はわからない。
ライブリオは一瞬だけ宰相を見つめ、それから静かに頭を下げた。
「お声がけ、光栄にございます」
丁寧な言葉だった。
だが次の言葉は、柔らかな調子のままきっぱりとしていた。
「ですが俺たちは、誰かの旗の下で戦うよりも、
自分の足で歩く方が性に合っていましてね」
軽く肩をすくめる。
「冒険者というのは、そういう生き物なんです」
その場の空気が一瞬だけ止まった。
遠回しではあるが、はっきりとした拒絶だった。
しかし宰相の顔を潰す言い方ではない。
礼を尽くした、見事な断り方である。
カイル宰相は一瞬だけ目を細め――
そして、愉快そうに笑った。
「なるほど。自由な男か」
その答えは、ある意味で期待通りだった。
大会の喧騒が落ち着いた頃、ライブリオたちは宿屋ワーランへと戻ることにした。
大げさな祝宴ではない。
仲間内だけの、ささやかな優勝祝いだ。
宿屋ワーランの扉を開けた瞬間、ライブリオは思わず足を止めた。
イヴァンス、クラリス、セーニャ、そして仲間たち。
決勝で敗れたはずの面々が、
まるで最初からそこにいるのが当然であるかのようにテーブルを囲んでいた。
それだけではない。
初戦でイヴァンスたちと戦ったアイク、ルーフィ、フックス。
さらに準々決勝、準決勝で顔を合わせた冒険者ギルドの面々までが席についている。
「……おいおい」
ライブリオが苦笑する。
「ずいぶん集まってるじゃねえか」
すると奥の席からアイクが手を上げた。
「決勝のカードが決まった時点でな。
こうなると思って声をかけておいた」
淡々とした口調だが、こういう根回しは得意だった。
日頃からルーフィに振り回されている分、自然と身についた能力でもある。
「優勝祝いだ。遠慮するな」
テーブルにはすでに料理と酒が並んでいる。
そもそも、こうして人が集まること自体は不思議でもなかった。
ライブリオは帝国の冒険者ギルドをまとめる立場の男だ。
その実力と人柄から、多くの冒険者に慕われている。
だからこそ――
優勝したと聞けば、自然とこうして顔を出す者が増えるのだった。
「ライブリオさん。優勝おめでとうございます」
厨房から料理を運んできたクラリスが、にこやかに言った。
「今日は私が腕を振るった料理なんです。たくさん食べてくださいね」
テーブルには湯気の立つ料理が並んでいる。
それを見てライブリオが目を丸くした。
「おいおい、クラリスちゃん。なんでここにいるんだ?」
するとクラリスはきょとんとした顔で答える。
「そりゃ、婚約者が闘技大会に出るっていうんだから応援に来るでしょ?」
ライブリオは腕を組み、ふむ、と頷いた。
「なるほど……」
そして真顔で言った。
「つまり俺の応援に来たってことか」
しかしクラリスは即答した。
「違うわよ。イヴァンスよ」
「うそ! まじで!?
こいつ学生だろ!」
ライブリオが思わずイヴァンスを指さす。
店内に笑い声が広がった。
すると横で話を聞いていたルーフィが、がっくりと肩を落とした。
「……俺、結構ショックなんすけど」
ぼそりと呟く。
「ストーン村に宿泊してる冒険者ギルドの男連中、みんな同じ気分っすよ。
俺たちの女神だったのに、って」
深いため息をついた。
「とほほ……」
ライブリオは肩をすくめ――
次の瞬間、いきなりイヴァンスの首に腕を回した。
「くそ~、イヴァンス!
お前、俺に負けたんだろ!」
そのままヘッドロックをかけ、ぐりぐりと頭を押さえつける。
「だったらクラリス譲れ!」
「ちょっ――!
そんなことできるわけないでしょ!」
イヴァンスが必死に腕を外そうともがく。
「それとこれとは全然違います!」
「いてててて!やめてライブリオさん!」
しかしライブリオは楽しそうに笑いながら、さらに頭をぐりぐり押さえつけた。
その様子に、周囲からまた笑い声が上がる。
その少し離れた席では、セーニャが小さなレックを腕に抱いていた。
「ぴ」
レックが小さく鳴く。
セーニャはその頭を優しく撫でながら、
どこか楽しそうにその様子を眺めて、くすくすと笑っていた。
楽しそうに騒ぐ仲間たちを見つめながら――
その表情はどこか穏やかだった。
まるで、この時間を少しだけ愛おしむように。




