夏の選抜闘技大会 決勝④
決勝戦。
最後に残ったのはベラミカだった。
「もう私たちに勝ちはないけど……」
ベラミカは静かに息を吐き、肩に積もった砂を軽く払う。
「でも、折角のお誘いだもんね。
カンサルじゃなくて――ライブリオ、あなたと本気でやってみるわ」
砂埃と煙がゆっくりと空気に溶けていく中、ベラミカの瞳が鋭く光った。
目の前には、微笑みを絶やさないライブリオが、悠然と剣を構えて立っている。
「お、いいね~。ベラミカ様の本気を見せてもらえるんだ」
ライブリオは肩を回しながら笑った。
「こっちも手加減なしで行かせてもらうぜ」
ベラミカはゆっくりと杖を構える。
そして、小さく呟いた。
「――燃え尽きなさい」
次の瞬間。
杖の先端から巨大な魔法陣が展開された。
幾重にも重なる紋様が赤く輝き、空気が熱を帯びる。
「ファイア!」
轟音。
爆発するように炎が放たれた。
闘技場の砂を巻き上げながら、巨大な火炎の奔流がライブリオへ一直線に襲いかかる。
「うおっ、いきなり本気じゃん!」
ライブリオは笑いながら横へ跳んだ。
ドォォン!!
炎が地面を爆ぜさせ、砂と火花が舞い上がる。
しかしベラミカの攻撃は止まらない。
すでに次の詠唱に入っていた。
「ファイア!」
「ファイア!」
「ファイア!」
連続詠唱。
炎弾が雨のように降り注ぐ。
ライブリオは剣で弾き、避け、時に強引に突っ切りながら距離を詰めていく。
(さすが魔導士……火力えぐいな)
炎の爆発が闘技場を赤く染める。
だが――
ライブリオの動きは止まらない。
炎の合間を縫うように、確実に距離を詰めていく。
「ちっ……!」
ベラミカの眉がわずかに動いた。
(速い……!)
ライブリオの剣が振り下ろされる。
その瞬間、ベラミカは短く詠唱した。
「バリア」
透明な魔力の盾が展開される。
ガキィィン!!
ライブリオの斬撃がバリアにぶつかり、火花が散った。
しかしライブリオの剣は止まらない。
二撃、三撃と続く。
だが――
ベラミカに当たると思われた一撃が、不自然に逸れた。
「なんで?」
ライブリオが目を細める。
次の瞬間、理解した。
重力制御によって剣の軌道がわずかに逸らされていたのだ。
「さすが、セラフィスの二番弟子」
ライブリオが感心したように言う。
ベラミカは鼻で笑った。
「カンサルなんかと一緒にするんじゃないわよ」
杖を振る。
「サンダー」
空気が弾けた。
雷光が一直線にライブリオへ走る。
「やられるか!」
ライブリオは腰のポーチから小さな短剣を取り出し、雷へ向かって投げた。
同時に大きく後ろへ跳ぶ。
次の瞬間。
雷は短剣へ吸い込まれるように落ちた。
ドォォン!!
凄まじい爆発が闘技場の砂を吹き飛ばす。
砂煙が一気に舞い上がった。
ライブリオは後方へ着地しながら口笛を吹く。
「おお~、雷まで来たか。派手だねぇ」
ベラミカは杖を構えたまま、静かに睨んだ。
「まだよ」
杖の先に再び魔法陣が展開される。
今度は先ほどよりも複雑な紋様だ。
ライブリオの目が細くなる。
(まだ隠し玉あるって顔だな)
ベラミカは一歩踏み出した。
杖の先に新たな魔法陣が浮かび上がる。
「アイスランス」
空気が一瞬で冷え込んだ。
次の瞬間――
ギギギギッ!!
鋭い氷の槍が三本、同時に生まれる。
「うわっ、増えた!」
ライブリオが思わず声を上げる。
氷槍が一直線に飛ぶ。
一本目。
ガンッ!!
ライブリオは剣で弾いた。
砕けた氷の破片が空中に散る。
だが――
二本目が迫る。
ライブリオは身体をひねり、ギリギリで回避する。
三本目は地面へ突き刺さった。
ドゴォォン!!
衝撃とともに氷が砕け、砂が大きく舞い上がった。
冷気が闘技場に広がる。
ライブリオは軽く笑う。
「火と雷だけじゃなくて氷までかよ」
ベラミカは杖を構え直した。
「当然でしょ」
「私、魔導士だもの」
その瞬間。
ベラミカが杖を振り下ろした。
「重力制御」
ズシン――
空気が一瞬、重く沈む。
ライブリオの足が砂に沈んだ。
「おっと……!」
動きがわずかに鈍る。
その隙を逃さない。
「ファイアストーム!」
巨大な火柱が巻き上がった。
轟音とともに炎がライブリオを飲み込む。
観客席から思わずどよめきが起きた。
しかし――
炎の中から声が響いた。
「いやいや、やりすぎだろ!」
次の瞬間。
炎を突っ切ってライブリオが飛び出した。
「なっ……!」
ベラミカの目が見開かれる。
ライブリオは地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
「近づかせるか!」
ベラミカは杖を横に構える。
「バリア!」
透明な壁が展開される。
ガキィィン!!
ライブリオの剣が激しくぶつかった。
だが――
「甘い」
ライブリオが笑う。
次の瞬間、彼は剣を引いた。
そして体勢を低く落とす。
「っ?」
ベラミカが反応するより早く。
ドン!!
ライブリオの蹴りが地面を叩いた。
砂が一気に巻き上がる。
視界が遮られる。
(まずい!)
ベラミカがバリアを張り直そうとした瞬間。
霧のような砂煙の中から影が飛び出した。
ガキィィン!!
強烈な一撃。
バリアが砕け散る。
「……っ!」
ベラミカの杖が弾かれた。
くるくると宙を舞い、砂の上へ落ちる。
静寂。
ライブリオの剣先が、ベラミカの喉元で止まっていた。
「……チェックメイト、だな」
ライブリオが軽く笑う。
ベラミカは数秒沈黙したあと、小さく息を吐いた。
「確かにね。降参するわ……」
ベラミカは両手を上げ、降参の意を示す。
静まり返っていた闘技場に、やがて歓声が広がり始めた。
こうして――
決勝戦はライブリオ隊の圧勝で幕を閉じた。
静まり返っていた闘技場に、やがて歓声が広がり始めた。
こうして――
決勝戦はライブリオ隊の圧勝で幕を閉じた。
その頃。
闘技場の来賓席。
一般観客の席より一段高い場所に設けられたその席からは、
闘技場全体を見渡すことができた。
人混みから少し離れた場所で、一人の女性が腕を組んで試合を眺めている。
長い髪を風に揺らしながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
帝国魔導士団長――セラフィス。
その視線の先では、決勝戦が終わろうとしていた。
「ふふ……」
小さく笑う。
「ベラミカ、頑張ってるじゃない」
そして軽く肩をすくめた。
「これからが楽しみ~」
足元に、静かに転移陣が浮かび上がる。
淡い光が彼女を包み込んだ。
「さてと」
次の瞬間。
光が弾け、セラフィスの姿はその場から消えた。
闘技場には、まだ歓声が響いていた。




