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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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夏の選抜闘技大会 決勝②

闘技場の空気が震える。

歓声、拍手、そしてわずかなざわめき

――観客の気配すら、戦いの余韻として肌に触れる。


その中で、再び、ライブリオの姿が忽然と消えた。


イヴァンスの瞳が鋭く光を帯び、周囲を切り裂くように動く。


――速い。


だが、先ほどの一撃で分かっていた。

完全に消えているわけではない。


微かな気配。

わずかな空気の揺れ。

そして、底知れぬ殺気。


神経を研ぎ澄ませ、体の隅々で周囲の情報を拾おうとする。

集中するほど、世界が一瞬スローモーションのように歪む。


その時、プラーサの声が、意識に鮮明に届く。


《右!》


魔道具テレパス――事前に仕込んでいた連絡用の魔道具だ。

後ろからサーチ魔法で戦場を監視していたプラーサは、その情報をイヴァンスに送っている。


同時に、イヴァンス自身の感覚も右から迫る気配を拾った。

魔道具の情報と、神経が感じ取った微かな空気の揺れ――

二つが重なり、確信が生まれる。


――右だ。間違いない。


イヴァンスは盾を右に構え、プラーサもまた体を傾ける。

二人の身体と意識が、一瞬で完全に同期したかのようだった。


しかし――その直後。

左肩に冷たい剣の感触が走った。


――ガンッ!!


衝撃が左側から叩きつけられ、足元が崩れる。

直撃していれば転移陣で退場するところだ。

だが、剣は完璧に制御され、盾に叩きつけられるだけで済んだ。

イヴァンスは必死に踏みとどまり、体勢を整える。


視界の端で、ライブリオが軽く剣を振る。

口元には余裕の笑み。


「危ねえ危ねえ。退場させるとこだった」


楽しげな声が闘技場に響く。


(今……右の気配だったよな……?)


イヴァンスは剣を再構え、次の瞬間に備える。

しかしライブリオの姿は再び視界から消えた。


プラーサの指示がイヴァンスの意識を貫く。

自然と体が反応し、盾を前に構える。

肩の筋肉が張り、全身の神経が一点に集中する

――正面からの攻撃に備え、全身が緊張で硬直した。


だが、その瞬間、背中に異物の冷たさが触れる感覚が走った。

肌を刺すような冷たい金属の感触。

血の気が一瞬引き、体が硬直する。


咄嗟に振り返る。


視界に飛び込んできたのは――ライブリオの笑顔だった。

それは、楽しげで、余裕たっぷりで、戦場の緊張を嘲笑うかのような笑み。

剣先はわずかに角度を変え、イヴァンスの背をかすめる位置にある。


瞬間、脳裏に衝撃が走った。

「……またか……!」


イヴァンスの心臓は跳ね上がり、全身の筋肉が鋭く反応する。

足元の砂が微かに舞い上がり、盾を構えた腕に力が入りすぎて指先が震える。


戦場のざわめきも、観客の歓声も、音のすべてが遠く霞む。

意識はライブリオの姿だけに集中していた。

その笑みの裏に潜む、容赦のない殺意――

一瞬の油断が命取りになる。


「これで二度目の死だな、イヴァンス」


「……くっ!」


プラーサも息を呑む。

何度もサーチしているはずなのに、攻撃の方向が全く合わない。

直感が告げる――何かが狂っている。


ライブリオは間合いを取りつつ、ちらりとプラーサを見た。


「お嬢ちゃん」


声が闘技場に響き、プラーサの肩が小さく揺れる。


「サーチ使って指示出してんだろ?」


プラーサは瞬時に固まる。

小型で、耳にしか見えない魔道具――

普通なら気づかれるはずがない。


ライブリオは肩をすくめ、にやりと笑う。


「なんか道具でも使ってんのかね?

 悪くねえ作戦だ」


再び剣を構える。


「でもな――」


地面を蹴るライブリオ。


「右行くぜ!」


イヴァンスは指示通り右に構え、防御を固めた。


だが――その瞬間。


左の首元に、刺すような冷たさが走った。

金属の感触――剣先が、鋭く、確実に、首元をかすめる。

体が反射的に硬直し、足元の砂が小さく舞う。

血の気が引き、心臓が一瞬止まったかのような衝撃。


イヴァンスは目を見開き、思考が一瞬凍る。

右の気配を警戒して構えた自分の判断が、完全に裏切られた――。


ライブリオは低く解説するように口を開く。


「サーチは“気配”を拾うだろ?

 だから、こうやって騙せる」


「ああ、あとイヴァンス。

 貴様、すでに三度死んだぜ」


観客席が再びどよめく。


ライブリオは視線だけでプラーサを射抜く。


「サーチの精度――

 もっと上げねえと、こうなるぜ」


少し声色を真面目に変え、再び剣を振る。


「さて、もう少しお勉強だ。

 次の攻撃はどうだ?」


狙いは――セーニャ。


慌ててカバーに入るイヴァンス。

だが攻撃はセーニャには来なかった。


ライブリオが立っていたのはプラーサの前。

胸元に剣先が立っている。


「戦場なら、お嬢ちゃんも死んでるぜ」


耳元をかすめる声。


――残像攻撃だ。


イヴァンスの脳裏に理解が走った。

ライブリオは自分の気配を殺し、残像を作り出すことで攻撃方向を偽装していた。

まるで空気そのものを操るかのようだ。


プラーサは体が硬直した。

胸の奥が凍りつき、呼吸が一瞬止まったかのように感じる。


目に映っていたのは、確かにセーニャに向かう攻撃――残像。

しかし、皮膚をかすめた冷たい金属の感触が真実を告げる。


――違う、実際に仕掛けられていたのは、自分自身だったのだ。


視界の端で、イヴァンスの顔がわずかに強張る。

その目には驚きと理解、そして次に来る動きを読む緊張が混じっている。


戦場の空気は張り詰め、歓声もざわめきも遠く霞む。

だが、イヴァンス隊の三人の間に流れる、

静かで鋭い恐怖だけは、肌にくっきりと残った。


冷たい現実が全身を覆う。

戦場では、目に見えるものさえも、簡単に欺かれる――。


そして、戦いの本当の恐ろしさを、

プラーサは初めて目の当たりにしたのだった。

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