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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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イヴァンス、地獄のラブコール試練

控室の空気は、戦闘の緊張からまだ完全には解けていなかった。

誰もが少し息をひそめ、互いの表情や傷の具合を確かめるように、静かに身を寄せていた。


銀色の髪が光を受けて揺れ、長いマントの裾がわずかにひるがえる。

一歩一歩が、まるで空気ごと押し込むような重みを伴っていた。


「……あら?」


セラフィスがにこりと笑う。

その微笑には、優しさと恐ろしさが同居し、見る者の心を捉えて離さなかった。


ベラミカとカンサルは、無意識のうちに背筋を伸ばし、直立不動になる。

普段なら軽口を叩く二人も、今は固まったまま、言葉を発することもできない。


「二人とも、何か言ったかしら?」


一瞬の沈黙。

その沈黙が、さらに空気を重く、張り詰めさせた。


「い、いいえ!」

「な、何も!」


二人は声を揃えて答える。

あまりに見事なまでの一致に、セラフィスはくすりと笑った。


「そう。ならいいの」


軽く首を傾げる仕草だけで、控室の空気はほんのわずかに重くなる。


「でもね……」


ふわり、と一歩前に出る。

その瞬間、誰もが呼吸を忘れたかのように静止した。


「でもね、弟子から“化け物”なんて言われるのは、

 師匠としてちょっと寂しいのよ!」


ベラミカとカンサルの背筋が、さらにピンと伸びる。

「す、すみません!」

「申し訳ありません!」


また同時だった。


控室の隅でそれを見ていたライブリオは、

肩を震わせながら笑いを堪える。

「いやー、相変わらずだなぁ」


「うふふ」


セラフィスは楽しげに笑い、次の言葉を口にした。


「カンサル、出て行ったきり挨拶もなくて、私寂しかったのよ?

 それにベラミカも、貴族派の妨害で私のところに来られなかったし……」


ふっと笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間――


「ちょっと貴族たち消しちゃおっか!」


彼女の手の上に、蒼く澄んだ炎が生まれた。

人の身体ほどもある巨大な炎。

しかし揺らめきは驚くほど静かで、まるで宝石のように透き通っている。


「ひぃ……!」


ベラミカとカンサルは、同時に息を呑んだ。

控室の誰もが思わず言葉を失い、目を離せなくなる。


ただ一人を除いて――


「……きれいな炎ですね」


イヴァンスが、まるで景色を眺めるようにのんきな感想を口にした。


「ば、ばか! イヴァンス!」


ベラミカが思わず叫ぶ。


「そのファイアはテラ級よ!

 下手したら、この闘技場ごと消し飛ばせるレベルなんだからね!」


震える声でイヴァンスをたしなめるが、当の本人は炎をじっと見つめ、

首をかしげるばかりだった。


「そうなんですか?

 でも……なんというか、吸い込まれそうな魔力を感じます」


その言葉に、セラフィスの瞳がふっと細くなる。

「へえ……イヴァンス君、面白いじゃない。

 せっかくだから、これ受けてみる?」


「戯れはそこまでにな、セラフィス殿」


ラプロスが後ろから静かに肩を押さえ、制する。


「え? あら、ラプロスさんじゃない。

 もう、怖い顔しちゃって。

 冗談よ、じょ・う・だ・ん」


そう言ってセラフィスが指をパチンと鳴らすと――


蒼い炎は音もなく、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。


控室の誰もが思わず息を呑む。

ただ、セラフィスだけは楽しげに微笑んでいる。


「ねえ、せっかくだからラプロスさん、対戦しましょうよ~。

 いつも私のラブコール、受け止めてくれないんだから~」


ベラミカが小さく、でも呟くように言う。


「二人が本気出したら……帝都、丸ごと消えちゃうわよ」


控室の空気が、一瞬だけ微妙に凍りつく。

誰も口を開けず、蒼い炎の残像を思い浮かべ、震えていた。


「セラフィスさんのファイアってすごいんですね。

 俺、魔法の才能ないから、すごく憧れます」


「イ、イヴァンス!」


ベラミカが止めようと慌てるが、イヴァンスは気にせず続ける。


「あら、イヴァンス君。私と修行してみる?

 あなたの魔力、面白そうなのよね~

 確かにあなたは普通の魔法は無理みたいね」


イヴァンスは少し戸惑いながらも、嬉しそうに目を輝かせた。


「でもね、魔法って攻撃魔法や支援魔法が全てじゃないから。

 色々教えてあげるわ。楽しみにね。

 せっかくだから、弟子たちの成長も見たいんだけど?

 カンサルとベラミカも一緒にどう?」


その言葉に、ベラミカとカンサルは視線を合わせ、

ほとんど同時に小さく首を振った。

「い、いえ……」

「わ、私たちは……」


二人の声は控えめで、遠慮がち。

しかしその様子は、まるで揃ったコンビネーションのように自然で、微かに笑いを誘う。


セラフィスは楽しげにその様子を眺め、くすりと笑った。

「ふふ、素直でいいわね。まあ、焦らなくてもいいわ。楽しみは後に取っておきましょう」


控室には、微かに和らいだ空気が漂い、緊張と畏怖の間に、ほんの少しだけ穏やかな時間が混ざった。


「セラフィスさん、闘技大会が終わったら、ぜひお願いします」


イヴァンスの言葉には、魔法が使えない自分への微かな負い目が滲んでいた。


「……あの馬鹿、自ら地獄に足突っ込んだわね」


「まあ、止めようがなかったからな」


ベラミカとカンサルは、小さな声で囁く。


イヴァンスは今、ラプロスの“地獄の指導”だけでなく、

セラフィスという“地獄の指導”までも受けることになったのだ。

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