夏の選抜闘技大会 準決勝②
圧が、増していく。
十体のゴーレムは崩れない。
崩しても、補充される。
砕けた石片が地に落ちるより早く、
背後の魔導士が核を差し込む。
立ち上がる。
再起動。
常に十。
常に壁。
呼吸をするように、補充される。
イヴァンスは三体を同時に相手取っていた。
一体の拳を弾き、
二体目の踏み込みをいなし、
三体目の振り下ろしを盾で受ける。
鈍い衝撃。
腕が痺れる。
足が沈む。
砂が舞い上がる。
「くっ……!」
一瞬でも足を止めれば、包囲される。
後退は即ち、崩壊。
背後ではセーニャが詠唱を重ねていた。
防御補助。
身体強化。
魔力循環の安定化。
風が淡くイヴァンスを包む。
今や彼女の支援は、ほぼ一人に集中している。
プラーサは目を閉じ、戦場全体を“聴いて”いる。
足音。
重心移動。
土の擦れる音。
「左、半歩!」
反射。
イヴァンスが躱す。
直後、拳が空を裂く。
空気が爆ぜる音。
だが――
その一瞬。
セーニャの視線が前線に固定された、その隙を。
カデフは見逃さなかった。
動かない。
焦らない。
ただ、詠唱。
掌に集束する火。
濃度が上がる。
「――ファイア」
一直線。
狙いはセーニャ。
「セーニャ!」
イヴァンスが振り向く。
距離。
間に合わない。
だが踏み込む。
盾を投げ出すように構える。
爆炎。
衝撃。
盾越しに焼けつく熱。
耳鳴り。
視界が白む。
「ぐっ……!」
靴底が地面を削る。
衝撃波が砂を巻き上げる。
セーニャは無傷。
だがイヴァンスの呼吸が荒い。
強化があっても、直撃は重い。
カデフが淡々と告げる。
「支援役が落ちれば、前線は瓦解する」
感情はない。
事実だけを述べる声。
十体の壁が一歩踏み出す。
距離は詰まらない。
魔導士まで、届かない。
削られるのはこちらだけ。
プラーサの額に汗が滲む。
リズムが早い。
補充の間隔が短くなっている。
「このままだと……」
ゴーレムが一斉に踏み込む。
地面が震える。
押される。
押し返せない。
じりじりと後退。
観客席のざわめきが変わる。
期待から確信へ。
優勢の空気。
イヴァンス隊が、初めて明確に追い込まれる。
そのとき。
魔道具テレパスに、ベラミカの思念が流れ込む。
《……皆、一つだけ打開する方法があるけど、聞きたい?》
声は静か。
だが震えていない。
イヴァンスの動きは止まらない。
剣は止まらない。
だが思考は共有される。
《十体を、同時に消す》
セーニャの息が詰まる感覚が伝わる。
プラーサの意識が研ぎ澄まされる。
《お姉さま、どうするのです?》
《メテオ》
一瞬。
全員の思考が沈黙する。
空が落ちる魔法。
上位広域殲滅。
魔力の大半を持っていく大技。
《十体を核ごと砕く。補充が追いつく前に前線を消す》
《お姉さま、魔力が尽きてしまいます!》
《当然よ。だからこれは賭けなのよ》
失敗=敗北。
成功=一瞬の空白。
ゴーレムの拳が再び盾を叩く。
衝撃が脳裏を震わせる。
イヴァンスが確認する。
《撃った後は?》
《前線が消えたら一直線。イヴァンスは魔導士を斬る。セーニャはかまいたち》
《ゴーレム使いは再構築特化。他の詠唱は不得意なはずよ》
《警戒はカデフのファイアだけ》
短い。
しかし迷いはない。
プラーサの意識が澄む。
《タイミングは私が取る》
魔道具が微細に脈打つ。
十体の歩調。
間隔。
密集度。
波のような揺らぎ。
《全個体が密接した瞬間を狙う》
外から見れば――
イヴァンス隊は追い詰められているだけだ。
誰も喋らない。
剣が鳴る。
石が砕ける。
炎が爆ぜる。
だが内側では、すべてが決まりつつあった。
《みんな、腹くくるわよ》
ベラミカの念が静かに落ちる。
イヴァンスの思考が仲間を巡る。
セーニャの覚悟。
プラーサの集中。
魔力を削る音。
プラーサが指示を出す。
《イヴァンス、ゴーレムの真ん中に突っ込むのよ。
全部躱す。あいつらは遅い。集中すればできる》
《メテオの着弾で一旦下がる。
粉砕確認後、最短距離で魔導士に攻撃》
わずかな間。
《一番きついわよ》
《セーニャ、イヴァンスと私にスピードをかけて》
《プラーサ、何をするつもりなの?》
わずかな間。
そして。
《何かあった時の保険よ。使いたくはないけどね》
ゴーレムが同時に踏み込む。
波が、収束する。
「イヴァンス!」
セーニャの強化が跳ね上がる。
風が足元を弾く。
イヴァンスが前へ出る。
躱す。
潜る。
拳の下を抜ける。
石の巨体の隙間へ。
包囲の中心へ。
外から見れば――自殺行為。
だが。
その中央で、剣が閃く。
時間を稼ぐ。
その背後。
ベラミカが目を閉じる。
詠唱が始まる。
空気が変わる。
観客席のざわめきが止む。
魔力が、集束する。
プラーサの意識が極限まで研ぎ澄まされる。
十体の間隔。
密度。
核の位置。
呼吸。
そして。
《――今よ!》




