夏の選抜闘技大会 準決勝①
地鳴りのような歓声が、競技場全体を震わせていた。
準決勝。
ここまで勝ち上がった四隊のうち、
決勝へ進めるのは、わずか二隊。
観客席を埋め尽くす無数の視線が、
中央の闘技場へと突き刺さる。
イヴァンス隊。
準々決勝で持久戦を制した、堅実にして粘り強い実力者たち。
そして――
外務卿子息カデフ率いる、異色の編成。
前衛なし。
盾もなし。
並び立つのは三名の魔導士のみ。
明らかに常識から外れた布陣に、ざわめきが広がる。
「本気か……?」
「近接を捨てたのか?」
疑念と興奮が入り混じる。
だが、カデフは微動だにしない。
口元には余裕すら浮かぶ。
まるで、この構図こそ完成形だとでも言わんばかりに。
イヴァンスは無言で剣を握り直した。
――ゴォン。
重く、腹に響く鐘の音が競技場を貫く。
歓声が、すっと引いた。
静寂。
息を呑む音さえ聞こえそうな一瞬。
次の瞬間――
三人の魔導士が、寸分違わず同時に腕を振った。
乾いた音。
無数の魔石が宙を弾き、
イヴァンス隊の前方へとばらまかれる。
「――散布?」
プラーサが眉をひそめる。
魔石が地面に跳ね、転がり、
一拍遅れて淡く発光した。
脈動。
ひとつ、またひとつ。
地面が隆起する。
石が組み上がり、形を成す。
立ち上がったのは――
人型の中型ゴーレム。
身の丈は人とほぼ変わらない。
だが全身は重厚な石で構成され、
関節部には魔力の光が脈打っている。
十体。
整然と横一列に並び、
ゆっくりと歩み出した。
「来るぞ!」
イヴァンスが前へ踏み出す。
重い足音。
速くはない。
だが確実に、間合いを削ってくる。
最前列の一体が腕を振り上げた。
石の拳が唸りを上げる。
イヴァンスはそれを受け流し、
反撃の斬撃を叩き込んだ。
石片が砕け散り、胴が割れ、ゴーレムは崩れ落ちる。
――しかし。
崩れた石片が、震えた。
中央部に埋め込まれた魔石が強く光り、
砕けた破片を吸い寄せる。
石が再構築される。
再び、人型を成した。
「……は?」
イヴァンスの目が見開かれる。
「イヴァンス君。ゴーレムは魔石を破壊しない限り再生します。
核が露出したら、連続攻撃を」
セーニャの冷静な声が飛ぶ。
ゴーレムたちは連携を崩さない。
左右から挟み込み、
逃げ道を削り取るように圧をかける。
後方で、カデフが静かに手を掲げた。
「僕が後衛を守る」
火球が放たれ、地面を爆ぜさせる。
ベラミカが接近戦に入ろうとした進路を、
寸分違わず遮断した。
「足止めか……!」
プラーサの瞳が淡く光る。
「イヴァンス、体内中央……胸部寄り。魔石!」
「くらえ!」
石の腕を弾き、胸部へ斬撃を叩き込む。
魔石が砕けた。
ゴーレムが崩れ落ちる。
今度は、再生しない。
「よし!」
だが、その直後。
魔導士の一人が詠唱を終え、
新たな魔石を放った。
転がる。
光る。
地面が盛り上がる。
新たなゴーレムが立ち上がる。
十体。
数は――変わらない。
「……補充できるの?」
プラーサが低く舌打ちする。
倒しても再生。
核を壊しても補充。
ゴーレムは速くはない。
だが、歩みを止めない。
一定の圧で、前線を押し続ける。
準々決勝で彼らが相手に強いた持久戦。
その構図が、今は逆向きに成立していた。
イヴァンスが歯を食いしばる。
「削っても減らない……!」
再び火球が飛ぶ。
カデフは一歩も動かない。
余裕を滲ませた声が、静かに響く。
「焦る必要もない。時間は僕らの味方だ」
ゴーレムの足音が揃う。
じり、じり、と包囲が狭まる。
「プラーサ!」
「胸のやや右! 深い!」
イヴァンスが斬る。
魔石が砕ける。
崩れる。
――だが次の瞬間、また魔石が投じられる。
補充。
「ちっ……!」
プラーサが奥歯を噛む。
その横で、ベラミカが一歩前へ出た。
「私も見るわ」
鋭い視線。
魔力の流れを読む。
「三体、核が胸部中央。ひとつは腹部深部」
「――ファイア」
火球が一直線に走る。
魔石を撃ち抜く。
二発目。三発目。
正確。無駄がない。
観客席がどよめいた。
しかし。
魔導士たちは慌てない。
再び魔石が宙を舞う。
転がる。
光る。
盛り上がる。
十体。
隊列は、再び整う。
「……補充速度が速い」
セーニャが低く呟く。
ベラミカの額に汗が滲む。
「核は壊せる。でも、数が減らない……」
削っている。
確実に削っている。
それでも――減らない。
イヴァンスが二体を押し返す。
石の拳が肩をかすめる。
重い。
連携は乱れない。
横から圧をかけ、前を止め、退路を塞ぐ。
「くそ、数が減らない!」
後方で、カデフが淡々と告げる。
「崩れぬ限り、僕らが不利になることはない」
持久戦。
焦りを誘う構図。
前線を固定し、削る。
まさに彼らが準々決勝で用いた戦術。
今、その盤面に立たされている。
じり、じり、と。
包囲が狭まる。
魔石は砕ける。
だが、補充される。
押し返せる。
だが、前進できない。
戦場の空気が、重く沈んでいく。
イヴァンスが低く呟いた。
「……これ、先にこっちが削られるぞ」
誰も、否定できなかった。




