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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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夕暮れの食卓

夕暮れの光が宿屋の食堂の窓から差し込み、

木の床やテーブルを柔らかく染めている。

赤みを帯びたその光は、一日の終わりを告げる優しさを含んでいた。


今日の戦いを終えた選手たちは、わずかな疲労を滲ませながらも、

温かな食事と飲み物に囲まれている。

皿から立ちのぼる湯気が、張り詰めていた神経をゆっくりほどいていった。


膝の上ではレックが丸くなり、

セーニャから少しずつ食事をもらって嬉しそうに口に運ぶ。

小さな「ぴ」という鳴き声が、食堂の空気をやわらげた。


プラーサはフォークを置き、

テーブルに手をついて皆の顔を見渡す。

その表情には、試合を振り返る高揚と、確かな手応えがあった。


「今日はよく戦ったわね。あの合わせ技、

 ベラミカ先生とセーニャの、すごかったわ」


素直な賞賛。


セーニャは微笑みながらレックにご飯を一口与え、

顔を上げてプラーサを見返す。


「ありがとうございます……うまくいって何よりです」


控えめながら、そこには揺るぎない自信があった。


ベラミカが胸を張る。


「私たち姉妹の連携のおかげね。とりあえず準決勝進出よ」


その言葉に、場の空気が明るく弾む。


そこへクラリスが皿を両手に持ちながら軽やかに近づき、

わざとらしくため息をついた。


「そういえばさあ……イヴァンス。

 あんただけよね、退場食らったの」


皿を置きながら、ちらりと横目で見下ろす。


「チームで一番目立ったのが“退場者”って、

 なかなかやるじゃない。別の意味で」


肩をすくめ、にやりと笑う。


イヴァンスが口を開きかけた、その横で――


セーニャは肩を揺らして笑った。


「ふふ、でも、イヴァンス君は相手のタンクと

 相打ちまでもっていったんですもの」


柔らかな声音。けれど視線はまっすぐ。


「あの突撃で相手のタンクが残っていれば、

 こちらのチームは負けていたかもしれません。

 あの切り返しは、本当にすごかったと思います」


事実を、素直に認める声だった。


一瞬、テーブルの空気が静まる。


クラリスは眉を上げる。


「へー、セーニャさん、ずいぶんイヴァンスの肩を持つのね」


軽い口調だが、探るような視線。


セーニャはレックの背を撫でながら首を傾げた。


「そう聞こえましたか?」


「聞こえたわよ? ずいぶん熱弁だったじゃない」


腕を組み、わざとらしく頷くクラリス。


その横で、プラーサがふっと笑った。


「でもさ」


皆の視線が集まる。


「前はさ、そういうの、ちょっと距離置いて言ってたよね」


空気がわずかに静まる。


セーニャはきょとんと瞬き、それから小さく笑った。


「……そうでしたか?」


「うん。もっと“チームとして”って感じだった」


プラーサは優しく肩をすくめる。


「今はさ、“イヴァンス君はすごかった”って、ちゃんと個人を見て言ってる」


イヴァンスはぱちぱちと瞬きをしたあと、首を傾げた。


「え? そうなのか?」


素で聞き返す。


「俺、普通にやっただけだけどな」


まったく照れもなく、ただ事実として受け取っている顔だ。


セーニャはその様子に、くすりと笑う。


「ええ。だからこそ、です」


そして静かに続ける。


「良い動きは、ちゃんと認めたい。それだけですよ」


穏やかで、自然な笑み。


クラリスはその表情をしばらく見つめ、

小さく息を吐いた。


「そっか。なら安心ね」


ぽん、とイヴァンスの肩を叩く。


「聞いた? あんた、ちゃんと評価されてるわよ」


「それにしてもクラリスは厳しいな。もうちょっとやさしくできないのか?」


「甘やかしたらまた退場するでしょ?」


即答。


プラーサが吹き出し、ベラミカも小さく笑う。

レックが「ぴ」と鳴き、場の空気がやわらぐ。


ベラミカはテーブルに手を置いた。


「さて、明日の準決勝に向けて体を休めましょう。

 今日の反省は明日の力になるわ」


その言葉に、空気が静かに引き締まる。


イヴァンスは頷き、拳を軽く握る。

プラーサはくすくす笑いながら肘でつつく。


窓の外では夕陽が沈み、

食堂の灯りが静かに揺れていた。


笑いの余韻と、確かな手応え。

そしてそれぞれの胸に灯る、次への闘志。


明日――準決勝。


その舞台へ向けて、

彼らの夜は、静かに更けていった。

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