夏の選抜闘技大会 準々決勝①
歓声が、これまでとは明らかに違っていた。
準々決勝。
観覧席には貴族席も増え、
ざわめきすら抑えられたような空気が張り詰めている。
対戦相手は四名。
法務卿の子息、ルフィン。
支援術師に、前衛のアタッカーとタンク。
「アイクたちとは比にならない強敵ね」
ベラミカが小さく息を吐く。
その声にも、わずかな緊張が混じっていた。
支援術師は一礼した。洗練された所作。
そして、すぐに目が鋭くなる。
開始の合図。
支援魔術師の指示が飛ぶ。
「ルフィン、狙いはベラミカだ。リバースバフを使わせるな」
「了解!」
「アタッカー、タンク、行くぞ!
支援魔法スピード!」
敵支援術師の詠唱が、ほぼ同時に響く。
淡い光がアタッカーとタンクを包み、二人の姿がぶれる。
速い。
一回戦とは比べ物にならない加速。
「行け!」
二人が一直線にセーニャとイヴァンスへ突っ込む。
同時に、
「ファイア」
ルフィンの詠唱が滑らかに完成する。
無駄がない。
魔力の練度が違う。
火球が一直線に――
「ベラミカ!」
プラーサが叫ぶ。
だが、ベラミカの詠唱はまだ入れない。
再び。
「ファイア」
二発目。
狙いは徹底してベラミカ。
「ちっ……!」
ベラミカは横に飛び、詠唱を止めざるを得ない。
着地と同時に三発目が迫る。
「徹底してるわね……!」
リバースバフを封じるためだけの集中砲火。
ベラミカが少し苛立つ。
一方前衛。
イヴァンスにアタッカーの斬撃が唸る。
速い。重い。
踏み込みが深い。
さらにタンクが横から体当たり気味に圧力をかける。
逃げ場を削る連携。
「イヴァンス!今よ、三拍目!」
プラーサの指示が、テレパスで飛ぶ。
セーニャが杖を構える。
呼吸は乱れていない。
一瞬だけ。
「スピード」
短い詠唱。
イヴァンスの体が、ほんの一瞬だけ軽くなる。
その瞬間を逃さない。
斬撃の内側へ踏み込み、タンクの盾を滑らせ、体勢を崩す。
だがイヴァンスも追撃ができるほどの余裕はない。
深追いすれば、逆に包囲される。
「バック!」
敵支援術師の冷静な声。
アタッカーは即座に距離を取る。
明らかに統制が取れている。
迷いがない。
「……強いわね」
プラーサが低く呟く。
再び、
「ファイア」
ベラミカに火球。
三発、四発。
詠唱の隙を一切与えない。
「このままじゃ打開できないわよ?」
ベラミカが念話でプラーサに確認する。
プラーサは落ち着いて返答する。
「うん。打開しないよ」
「は?」
「みんな、このまま耐えるよ」
テレパス越しに、三人へ指示が飛ぶ。
「イヴァンスは深追いしない。受けるだけでいい」
「ベラミカ、ルフィンの攻撃を這わすだけでいいわ」
「セーニャ、スピードは“必要最低限”」
敵は明らかに格上。
ならば――
魔力を削らせる。
支援術師は常にスピードを維持し、
ルフィンは高精度のファイアを連発している。
消費は大きい。
セーニャが確認する。
「持久戦に持ち込むの?」
一回戦のときのような揺らぎは、もうなかった。
杖を握る手は、静かに安定している。
イヴァンスの背中を見つめても、胸はもう波立たない。
「そう。あっちは“攻め続けないといけない”
賭けだけど、実力差を埋めるにはこれしかないわ」
再び相手チームの連携攻撃が始まる。
アタッカーの突き。
タンクの押し込み。
「イヴァンス、半拍後ろ!」
プラーサの指示。
セーニャが、また一瞬だけ魔法を乗せる。
「スピード」
ほんの刹那。
イヴァンスは紙一重で躱す。
だが、肩を浅く裂かれる。
血が滲む。
赤が砂地に落ちる。
一瞬だけ息を呑む。
だが次の瞬間には、もう杖を構えていた。
「イヴァンス君!」
「大丈夫!」
退場の転移陣が発動する寸前まで追い込まれる一撃だった。
息が荒い。
観客席がざわめく。
完全に押されている。
それでも崩れない。
五分。
七分。
ルフィンの額に汗が浮かぶ。
支援術師の呼吸も乱れ始める。
スピードの光が、わずかに揺らいだ。
プラーサの目が細くなる。
(来た)
「セーニャ、次の維持が切れた瞬間」
「うん」
迷いのない返答。
「ベラミカさん、三拍後に詠唱開始」
ベラミカの口元が上がる。
「やっと私の番?」
敵支援術師。
「……スピード」
詠唱が、わずかに遅れる。
光が消え、再付与までに一瞬の隙。
その瞬間。
「今!」
セーニャが、イヴァンスに最大出力の一瞬加速。
一拍、世界が伸びる。
イヴァンスが一気に踏み込む。
アタッカーの懐へ。
同時に――
「リバースバフ」
ベラミカの詠唱が通る。
淡い逆転の光が、敵前衛を包む。
スピード強化が、反転。
身体が鉛のように重くなる。
「しまった!」
アタッカーの目が見開かれる。
支援術師が叫ぶ。
「立て直せ!」
「もらった――!!」
踏み込みと同時に放たれた一撃が、アタッカーを吹き飛ばす。
衝撃が砂塵を巻き上げる。
アタッカーが倒れた
――その瞬間。
足元に淡い光が走った。
術式円が展開する。
アタッカーの身体が、光に包まれた。
次の瞬間、姿が掻き消える。
遅れて、場外の転移陣が閃いた。
――一人、脱落。




