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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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選んだ覚悟

翌日、クラリスとプラーサは宿屋ワーランに戻った。


「イヴァンス、レックを借りるわよ。レック、おいで」


「ぴ!」


レックはパタパタとクラリスの腕に収まる。


「ん? 朝からどうしたんだ?」


「レックと散歩よ」


二人は宿屋ワーランを後にし、静かな朝の街を抜けてセーニャの家へ向かう。

道すがら、プラーサは少し緊張した面持ちで、クラリスの後ろ姿を見つめる。


「クラリスさん……ほんとに大丈夫かな」

「うん、分からないけど。でもちゃんと話しておかないと。」


家の扉をノックすると、ベラミカが応えた。


「……プラーサ?」


「ベラミカ先生、おはようございます。

 実は今日、クラリスさんと一緒にセーニャさんに会いに来たんです」


ベラミカは一瞬、驚いた表情を見せる。


「セーニャ。プラーサとクラリスが会いたいって言ってるけど、どうする?」


部屋の奥で、セーニャは俯いたまま沈黙している。


返事はない。

けれど――拒絶の言葉もない。


無言を了承と受け取ったのだろう。

ベラミカは静かに扉を大きく開き、二人を家の中へ招き入れた。


部屋の中には、朝の柔らかな光が差し込んでいる。


レックがクラリスの腕の中から、

パタパタと羽ばたき、セーニャの膝の上へと乗り移った。


「ぴぃ」


小さな声に、セーニャの指先がわずかに動く。


四人がテーブルを囲み、しばらく沈黙が流れる。

重くはない。けれど、簡単でもない沈黙。


やがて、プラーサが意を決して口を開いた。


「あのね、セーニャ。ちょっとだけでいいから、

 クラリスさんの話を聞いてほしくて。

 それでね、今日一緒に来たの。……聞いてもらえる?」


レックが、くいっと首を傾けてセーニャの顔を覗き込む。


「ぴぃ!」


その様子に、セーニャの唇がほんの少しだけ緩んだ。


「ありがとう、レック。励ましてくれるのですね。

 わざわざ来ていただいたのですから、お話はお聞きします・・・」


静かに顔を上げる。

その瞳には、まだ迷いがある。


クラリスは一度、小さく息を吸った。


「セーニャさん、あのね……イヴァンスとの結婚の約束の話なんだけど」


テーブルの上で、指先がそっと重なる。


「実はね、続きがあるの」


セーニャの肩がわずかに強張る。


「昔からあいつね、『一人だけ他の女の子と付き合うのは許して』って言ってたの。

 私以外に、もう一人女の子を作るって宣言してたんだ」


「え……!」


思わず声を上げるセーニャ。


レックが「ぴ?」と首を傾げる。


クラリスは苦笑する。


「しかもね、五歳のころから。

 『クラリスとは結婚したいけど、もう一人女作る』ってね……ずーっと言ってたの」


部屋の空気が一瞬止まる。


ベラミカが腕を組みながら、半ば呆れたように口を挟む。


「イヴァンスが? 意外ね~。一途なタイプだと思ってたわ」


クラリスは肩をすくめる。


「表向きはね」


セーニャは混乱したまま、クラリスを見つめる。


「クラリスさんは……それでよかったのですか?」


その問いは、責めるでもなく、ただ純粋な疑問だった。


クラリスは少しだけ視線を落とす。


「よくはないけどね。でも十年間、ずーっと言われ続けたのよ。

 “もう一人作る”って」


小さく笑う。


「どっかで割り切らないと、こっちがもたないでしょ。

 ちょうどレックが来る、ちょっと前くらいよ」


「ぴぃ?」


自分の名前が出て、レックがきょとんとクラリスを見る。


その様子に、場の空気がわずかに和らぐ。


クラリスは続ける。


「でね、昨日初めてセーニャさんとお会いした時。

 レックがずっとセーニャさんの腕の中にいたでしょ?」


セーニャの胸が、どくんと鳴る。


「それでね……ああ、この人なのかなって、あたしの中で思ったの」


「……え?」


「レックって、気に入らないと絶対に抱っこさせないのよ。

 イヴァンスからはよく“この女ったらし”って言われてるけどね」


クラリスがくすっと笑う。


「実際、あたしが知ってる中で抱っこできるのは、

 私と、イヴァンスと、イヴァンスのお母さん……

 あとは――」


少し間を置く。


「マルティア王女くらいなのよ」


ベラミカが頷く。


プラーサがレックを見ながら

「確かにね。レックってセーニャかマルティア王女しか抱っこされないわ。

 私やベラミカ先生には寄っても来ないものね。ね~レック」


「ぴぃ?」


名前を呼ばれ、首をかしげるレック。


その無垢な仕草に、セーニャの指先が震える。


「……そんな」


小さく、かすれた声。


「そんな理由で……」


「理由じゃないよ」


クラリスは静かに言う。


「確信、かな」


まっすぐな視線。


「あいつの本心を聞いたわけじゃない。でもね、セーニャさん。

 あたしはね、あなたがあいつの“もう一人”なら、反対しない」


セーニャの瞳が揺れる。


「だけど」


クラリスの表情が、ほんの少しだけ引き締まる。


「あなたが逃げたら、それでお終いなのよ。

 それでいいの、セーニャさん」


部屋が静まり返る。


責めるでもなく、

追い詰めるでもなく。


ただ、まっすぐだった。


セーニャの胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「……私は」


言葉が、うまく出ない。


怖いのだ。


もし自分が本気だと認めたら、

もう後戻りできなくなる。


レックが、そっとセーニャの胸元に額を押しつける。


「ぴぃ」


その温もりに、涙が一粒、膝に落ちた。


「逃げたく、ありません……」


かすれる声。


「でも……私は怖いのです。

 クラリスさんを傷つけるのではないかと」


その言葉に、クラリスは一瞬だけ目を細める。


そして、ゆっくりと首を振った。


「傷つくかどうかは、あたしが決める」


きっぱりとした声。


けれど、その瞳はやわらかい。


「でもね、勘違いしないで」


まっすぐに、セーニャを見つめる。


「あたしは“奪われる側”でも、“追い出す側”でもないの」


ひとつ、息を吸う。


「あいつが誰かを好きになるなら――  

 あたしは、その人と一緒に生きるわ」


部屋の空気が静かに揺れる。


――選んだ覚悟。


セーニャの瞳が大きく揺れる。


「……そんなこと、できるのですか」


「できるかどうかじゃないの。やるの」


迷いのない声。


「だってあいつ、昔からそういう奴だもの。

 なら、最初から覚悟決めておいた方が楽でしょ?」


プラーサが思わず吹き出す。


ベラミカは静かに目を細める。


レックが、ふわりと羽を震わせた。


「ぴぃ」


セーニャの胸の奥で、何かがほどける。


拒絶される覚悟でいた。

遠ざけられる覚悟でいた。


けれど差し出されたのは――


居場所だった。


「……私は」


声が震える。


「それでも、イヴァンス君が好きです」


初めて、はっきりと口にした想い。


その瞬間、空気が変わる。


クラリスは、にっと笑った。


「うん。やっと聞けた」

それは祝福でも、勝利でもない。

ただ、安心だった。

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