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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり


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8/10

討伐前夜

夕食時、イヴァンスはグレッグとマルティアのもとに呼ばれた。

三人で焚き火を囲み、少し話をしよう――それがマルティアの提案だった。


夜気の中、焚き火がぱちぱちと音を立てる。

配られた温かいスープを口に運びながら、

イヴァンスは特に深く考えることもなく、素直に口を開いた。


「ねえ、グレッグさんとマルティアさんって、恋人同士なの?」


「ゴホッ、ゴホッ……!!」


唐突な一言に、グレッグは思わず咳き込み、慌てて顔を背けた。


「イ、イヴァンス君……大人をからかうものではありません!」


そう言って叱るマルティアの頬は、

焚き火の炎だけでは説明できないほど赤く染まっていた。


その様子に、周囲の騎士たちからも、くすくすと小さな笑い声が漏れる。

当然と言えば当然だった。

彼らは皇帝自らが選りすぐった騎士たちであり、

グレッグとマルティアの関係を知らぬはずがない。


「え~、違うの? お似合いだと思うけどな~」


そこへ、一人の騎士が楽しげに会話へ割り込んできた。


「イヴァンスちゃん、それは野暮ってもんよ」


艶のある声でそう言ったのは、騎士の一人――シルフィスである。


「大人の恋はね、謎が多いものなん、だ・か・ら♡」


そう言って、彼はわざとらしくウインクを添えた。


「そんなものなのかな~?」

「ところでイヴァンスちゃん、恋人はいるの?」


「うん、いるよ。クラリス。村長の娘なんだ。

俺、絶対彼女と結婚するんだ!」


胸を張って言い切るイヴァンスに、

周囲から感心したような視線が集まる。


だが、その横から、小さな――しかし妙に棘のある声が差し込まれた。

「……シルフィスさん、聞いてくださいよ」

ぼそりと呟くような声。


そこには、明らかに善意とは別の感情が混じっていた。

「あんなに“クラリスクラリス”って言ってるくせに、イヴァンスって、

一人だけ他の女の子と付き合うのは許してほしい、なんて言うんですよ」

その口調は淡々としていながら、

なぜか妙に恨みがましい響きを帯びていた。


ビソップのぼそりとした暴露に、

焚き火の周りから思わず吹き出す者が現れ、笑いが一気に広がった。


「あら~、イヴァンスちゃん。

恋人に浮気宣言なんて、感心しないわ。

ちゃんとその子のことを見てあげないと」


「違うよ、シルフィスさん。二人を本気で好きになるんだよ。

俺、クラリスのことは大好きだけど、

なぜかもう一人大好きな人ができるって、ずっと思ってるんだ。

まあ、そんな人は現れないかもしれないけどね」


シルフィスは一瞬だけ目を丸くし、

それから肩をすくめて笑った。


「ふふ……そんなにイヴァンスちゃんが想ってるなら、

帰り道にストーン村へ寄って、ちゃんと挨拶しておかなきゃね」


そう微笑んでから、シルフィスは焚き火越しにイヴァンスを見つめる。


「で――クラリスちゃんを幸せにするため、

具体的に将来どうするか、考えているの?」


「いや、まだ何にも考えてないよ」


「じゃあ、騎士団を目指してみたら?

お給料だって他よりいいし、クラリスちゃんを守ってあげられるわよ?」


その言葉に、周囲の騎士たちは思わず互いに視線を交わした。

事情はそれとなく噂で知っている。


グレッグ将軍が、イヴァンスをどう騎士団に勧誘するか――

そのことでひそかに悩んでいたことは、

グレッグ将軍の表情を見れば明らかだった。


もし失敗すれば、

あの鉄火面のディアン軍務卿から、

淡々と、しかし確実に圧をかけられる。


そうした根回しや小細工が、

グレッグは決して得意ではない。


だからこそ、

彼は一人、頭を抱えていたのだ。


だが、シルフィスは本気だった。

何の裏も、計算もない。

ただ善意から勧めただけである。


「イヴァンスちゃんの実力なら、確実に入隊できると思うわよ。

まあ、剣技や魔力だけでなく、座学も頑張らないといけないけどね」


「勉強か~。俺、文字も読めないし、計算も得意じゃないからな~」


その言葉に、

これまで黙って成り行きを見ていたグレッグが、静かに口を開いた。


「入隊を希望するのであれば、

勉強ができるように環境を整えてやれるぞ。

学術卿に相談すれば済むことだ」


そこへ、マルティアが静かに頷いた。


「たしかに、地方の文字認識率が低いことは、帝国にとっても問題ですね。

帝都に戻り次第、学術卿と相談の上、

帝国全土の教育を充実させる計画を立てるべきだわ。


教育の充実は、帝国の礎そのものですもの」


一拍置いてから、マルティアはグレッグを見た。


「グレッグ将軍――

帝都へ帰還した後、学術卿への御同行をお願いできますか?

……その時は、王女の同行者としてですけれど」


穏やかな声音だったが、

どこか含みのある言葉だった。


「も、もちろんでございます、姫様。

今回の件は、帝国にとっても極めて重要な内容ですからな」


そう答えた瞬間、

先ほどまでの“将軍”の顔は影を潜め、

そこにいたのは、忠実な臣下としてのグレッグだった。


(これで……ディアン軍務卿にも、ようやく胸を張って報告できる)


胸の内で、ほっと息をつく。

イヴァンスの騎士団への入隊勧誘が、

思わぬ形で道筋を得たからだ。


一方のマルティアは、焚き火越しにグレッグを見つめ、

ほんのわずかに表情を和らげていた。


それは、王女としての命令というよりも――

長く信頼してきた相手に、

そっと甘えるような頼み方だった。


焚き火の赤い光が揺れ、周囲の笑い声もやがて落ち着く。

こうして、討伐前夜の夜は静かに更けていった。

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