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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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帝国の次代を賭けて

魔道具テレパスが完成した夜。


プラーサは、調整前の魔道具が相手の深層心理まで見えてしまうことを、

父であるディハンに言うべきかどうか迷っていた。


執務室の前に立ち、数秒ためらう。


それでも意を決し、扉を叩いた。


「パパ……」


「どうした、こんな時間に、プラーサ」


低く落ち着いた声。


室内には書類の山に囲まれたディハンがいた。

灯りに照らされた横顔は厳格だが、娘を見る目は柔らかい。


「あ、あのね。魔道具テレパスが完成したの。

 でもね……でもね……」


ディハンの眉がわずかに動く。


「テレパス以外の魔法が発動したのだな」


「……うん」


プラーサは視線を落とし、指先を絡めた。


「念話ができるだけのはずだったのに……

 なぜか、その人の“奥”まで見えてしまったの

 ……実験の時。イヴァンス君」


一瞬、空気が静まる。


「何が見えた」


「……個人的な、恋愛感情だった……」


プラーサの声が小さく震える。


「本人がきっと誰にも言っていないような想いで……

 すごく真っ直ぐで……でも、だからこそ見ちゃいけないものだった」


沈黙。


「私、覗くつもりなんてなかったの。

 ほんの一瞬だったけど……勝手に触れちゃった気がして」


ディハンは娘をじっと見つめる。


「本人は気づいていたか」


「ううん。慌てて外したから、たぶん……」


「……そうか」


わずかな安堵。


「でもね、パパ。もし悪用されたらどうしよう。

 誰かの秘密とか、好きな人とか、全部暴けちゃうんだよ?

 そんなの、怖いよ……」


プラーサの目に涙が滲む。


ディハンはゆっくりと立ち上がった。


「この話は、他にしたか」


「ううん」


首を振る。


「誰にも言ってない」


「よろしい」


低く、しかしはっきりと言う。


「魔道具の能力が想定以上に増幅した。

 原因に心当たりはあるか?」


「たぶんセーニャ。

 あの子に魔石への封入をお願いしたの。

 あの子の支援魔法の魔術力は学園一だし……

 ベラミカ先生も認めてるくらい」


「魔石同士の同調率が、異常なほど高まったということか」


「多分……」


「その魔道具は何個作った」


「四つ……

 二つはその場で出力を絞ったの。

 でも残りの二つは、そのまま」


ディハンはゆっくり頷く。


「その二つは、私が封印しておこう」


プラーサが顔を上げる。


「封印……?」


「ああ。

 それは今のままでは、あまりに無防備だ」


声音が少しだけ変わる。


父ではなく、責任を負う者の声になる。


「恋愛感情ですら暴けるのなら、

 それは人の尊厳に踏み込む力だ」


静かな断言。


「何かの役に立つ時もあるだろう。

 だが、誰の目にも触れぬ場所に置くべきだ」


だがディハンの視線はわずかに遠い。


「明日、その二つを持って来なさい」


「うん……」


プラーサは小さく頷いた。


同じころ。


バリンスは自邸の書斎で、父と向き合っていた。


重厚な机の向こうに座るのは宰相カイル。

帝国の実務を一手に担う男は、書類から視線を上げることなく言った。


「要件を言え」


「父上、園長にお願いしてもらいたいことがあるんだ」


その声音には、抑えきれない焦りが混じっている。


「今度の学園でのチーム対抗戦なんだよ」


カイルの手が止まる。


「イヴァンスが、剣術で飛び抜けて強くなった。

 あいつ、魔法がまともに使えないくせに」


一瞬の沈黙。


カイルはゆっくりと息子を見る。


その名を聞けば、否応なく思い出す。


貴族裁判。

軍務卿グレッグに主導権を握られたあの日。

さらに――ラプロスに師事しているという報告。


騎士団側の象徴になりかねない少年。


「それで?」


「対抗戦のルールを少し変えてほしいんだ」


バリンスは一歩踏み出す。


「助っ人を入れることを認めさせてほしい。

 これで外部の人間をつけたいんだ。

 今のままじゃ、あいつを止められない」


拳を握る。


「あいつには、絶対負けたくない」


静寂。


カイルは椅子に深くもたれた。


(なるほど)


息子の嫉妬は未熟だ。

だが、盤面としては悪くない。


対抗戦は子供の催し。

しかし――次世代の評価が決まる場でもある。


もしここでイヴァンスのチームが勝てば、

それは軍務卿、ひいては騎士団の評価へと直結する。


若年層の支持は、そのまま将来の空気を作る。


このまま放置すれば、騎士団寄りの流れが加速する。


「助っ人制度、か」


カイルは小さく呟く。


「不公平じゃない。チーム戦なんだから戦術のうちだ」


バリンスは必死に言い募る。


「帝国学園は剣も魔法も両方を鍛え上げる場所だろ?」


カイルの目が細くなる。


そこにあるのは怒りではない。

計算だ。


「園長は容易には動かぬ」


「そこを父上から“提案”してほしい。

実戦形式の多様化、とか理由は作れる」


しばし沈黙。


カイルの脳裏には、軍務卿の顔が浮かぶ。


あの男は真っ直ぐだ。

実力でねじ伏せる。


だからこそ、制度で縛る。


「……面白い」


小さく呟く。


バリンスが顔を上げる。


「父上?」


「助っ人制度を“試験的導入”として提案しよう。

戦術研究の幅を広げる、という名目でな」


バリンスの目に光が戻る。


「本当か!」


「ただし」


声が低くなる。


「これはお前のためだけの話ではない」


「え?」


「学園は次世代の縮図だ。

そこで主導権を握る者が、未来を握る」


バリンスは意味を理解しきれないまま頷く。


だがカイルの内心は冷静だった。


(軍が英雄を育てる前に、流れを均す)


イヴァンスは危険だ。

だが排除すべき段階ではない。

伸び方は測る必要がある。


助っ人制度で勝てば、息子の評価は保てる。

負ければ――それもまた判断材料になる。


「覚えておけ、バリンス」


「何だ」


「他人の力で勝ったとしても、お前自身が強くなるわけではない」


「……分かっている」


だがその声には、まだ焦燥が残る。


カイルは息子を見つめながら、静かに思う。


(子供の催しと侮るな)


盤上は、もう動いている。


軍務卿が剣で押すなら、

こちらは制度で均す。


そしてその中心にいるのは――


イヴァンス。

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