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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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それぞれの一歩

プラーサは父である軍務卿が帰宅すると、迷うことなく駆け寄った。


「パパ、私、今度のチーム対抗戦でイヴァンスとセーニャと一緒に出たいの。

 それで、絶対に勝ちたいの。

 このチームで私の役割って、どこに活かせるかアドバイスしてほしいの」


軍務卿はわずかに眉をひそめ、手にしていた書類を脇に置くと、

困ったような、それでいてどこか嬉しそうな苦笑を浮かべた。


「ふむ、いきなりどうした、プラーサ。お前は……実戦向きではないだろう」


その言葉にも怯まず、プラーサはぐっと身を乗り出し、

早口で今日の出来事をまくしたてた。


「今日、魔術の授業で、バカでアール隊だけじゃなく、

 クラスのみんなにも馬鹿にされたの!

 でも、魔法や剣術ができなくても、

 実戦に参加できないわけじゃないって証明したいの。

 お願い、何かアドバイス頂戴!」


軍務卿は肩をすくめ、小さく笑った。


「分かった、分かった。まあ落ち着け、プラーサ。

 お前は確かチェスが好きだったな」


「え? う、うん……」


「チェスをするのに、駒の力を最大限に引き出すには何が必要だ?」


プラーサは一瞬視線を泳がせ、それからはっとしたように顔を輝かせた。


「そりゃ、戦術でしょ。要はチェスの駒を動かす人の差で勝敗が決まるんだもん」


軍務卿は満足そうに頷いた。


「その通りだ。では、チーム対抗戦でも同じことが言えるのではないか? 

 お前はその“指揮役”になればいい」


プラーサの目が大きく見開かれる。


「……なるほど! 私がチーム全体を見て、

 ベストなタイミングを知らせたり、動きを整理したりすれば、

 イヴァンスもセーニャももっと力を出せるんだね!」


軍務卿は娘の肩に静かに手を置いた。


「無理に前に出る必要はない。

 お前の頭と判断力があれば、チームの力は何倍にもなる」


プラーサは真剣な顔で頷いたが、すぐにまた考え込む。


「でもね、パパ。ベストのタイミングはサーチを使えば分かるけど、

 それを知らせる手段はどうしよう。

 声掛けだと相手にもバレちゃうし、作戦が読まれちゃうよね?」


軍務卿はくすりと笑った。


「よい視点だ。では、魔道具を作ってみてはどうかな?

 指向性のテレパスが使える魔道具があれば、

 特定の相手だけに念話を送れる」


実はその構想は、以前から騎士団で検討していたものだった。

だが今は、それを“娘の発想を伸ばす形”で与えている。


プラーサの目がきらりと光る。


「なるほど……! 

 普通の念話は周囲全員に伝わっちゃうけど、

 魔道具で対象を絞れれば、戦術が漏れない!

 パパ、ありがとう!」


勢いのまま、プラーサは父に思いきり抱きついた。


「はは……まったく。頑張れよ。

 プラーサが出場するのなら、私も観戦に行かねばならんな」


その言葉に、プラーサはさらに顔を輝かせた。


翌日。

イヴァンスの行動は、学園に小さな騒動を巻き起こすことになる。


彼はレンミル園長のもとへ直行し、

魔術の授業から自分を外してほしいと直訴したのだ。


「園長先生、俺を魔術の授業から外してほしいんです」


レンミルはわずかに目を見開いた。

「それは……穏やかではない申し出だね。理由を聞こうか」


「俺、魔術はどうにも向いてないって、はっきり分かったんです。

 でも、ここで足踏みしているわけにはいかない。

 せっかくラプロス先生やグレッグ将軍に

 剣術を極めるよう訓練してもらっているんだから、

 その高みを目指すほうが、自分の成長につながると思って」


レンミルは腕を組み、しばし黙考した。

確かにイヴァンスの魔術の才能については、ベラミカからも報告が上がっている。

努力はしている。だが結果は伴っていない。


それならば、時間をより適した鍛錬に充てるのも理にかなっている。


「なるほど……それなら、

 魔術の時間を、学園内で騎士団が行っている対魔法訓練に充てる、ということだね?」


イヴァンスは力強く頷いた。


園長は小さく息を吐き、肩をすくめた。


「仕方あるまい。許可しよう。ただし、結果を出すことだよ」


「はい!」


その決断は、瞬く間に学園中へ広がった。


昼休みの食堂や廊下では、囁き声が飛び交う。


「聞いたか? イヴァンス、魔術の授業から外れるんだってよ」

「えっ、あのイヴァンスが? ついに魔法ギブアップか」

「剣術一本かよ。もう限界宣言みたいなもんじゃん」


やがてバリンスたちは、わざわざイヴァンスの前までやって来た。


「おお、さすが魔法の絶対零度。才能があるのに授業から逃げ出すんだとよ」


“魔法の絶対零度”――

魔力を放てば放つほど周囲の期待を凍りつかせ、

挙げ句の果てには魔力の才そのものが皆無。

そんな皮肉を込めて、いつの間にかバリンスたちが広めたあだ名だった。


「あ、魔法じゃなくてお笑いの天才か?」

「爆発芸が見られなくなるのは残念だな~」

「これで『魔法はダメだけど剣術で頑張る人』として伝説入りだな」


笑い声が広がる。


だがイヴァンスは肩をすくめるだけだった。


その呼び名を、一向に気にしていない。


“魔法の絶対零度”――

そんな嘲りは、もはや彼の視界にすら入っていなかった。


魔術の授業時間。


イヴァンスは迷いなく騎士団の訓練場へ姿を現す。


砂煙が舞う中、剣を肩に担ぎ、大きく声を張った。


「レック、今日から俺も訓練の相棒だ! よろしくな!」


振り向いたレックが「ぴぃ!」と嬉しそうに応える。


イヴァンスの目には、迷いも後悔もない。

あるのはただ、前だけを見据える覚悟。


それだけだった。

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