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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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レックの墓参り④

帝都は、雲一つない青空だった。


朝の光が大聖堂の白い壁を照らし、石段に反射して眩しいほどに輝いている。


礼拝を終えた者たちが、穏やかな表情で外へと出てくる中――


「……来たぞ」


低く呟いたのは、例の四人組の一人。


通称――“バカでアール隊”。


本人たちは当然そんな呼び名は知らない。


「……今日も良い天気ですね」


セーニャが空を見上げ、柔らかく微笑んだ。

聖女らしい、澄んだ声。


その隣にはイヴァンス。

そしてプラーサ。


セーニャの腕には、いつも通りレックがはまっている。


「折角のレックの墓参りだからな。晴れてよかったよ」


イヴァンスはまぶしい朝の光に眉を少し細めながら、

懐から折り畳んだ羊皮紙を取り出した。

グレッグ将軍から手渡された地図だ。


少し離れた柱の陰。

例の四人組が、こそこそと顔を寄せていた。


「くっそ~、こないだの貴族裁判でイヴァンスがいなくなるはずだったのに……」

「レックいいよな~、いっつも抱かれてんだぜ」

「本当、俺レックになりたいよ……」


実にどうでもいい議論である。


イヴァンスはふと、

後ろのほうで足音が少しぎこちなく止まったのに気づいた。

柱の陰に隠れた小さな影

――呼吸の乱れや肩の動きから、四人がいることが分かる。


「後ろの4人、貴族の子息たちだよな? 何してんだ?」

ぽつりとイヴァンスが言った。


「え?」

セーニャが振り返る。


「いや、なんでもない」

イヴァンスは誤魔化すが、プラーサが気づいていた。


イヴァンスは、位置も人数も完全に把握していたのだ。

プラーサが、こそっとイヴァンスに耳打ちする。


「もしかして、バカでアール隊?」


「みたいだけど……もしかして尾行してるつもりかな?

 バレバレなんだけど」


「今日も四匹そろい踏みだね」


「匹って言うなよ……」


「事実でしょ?」


セーニャはきょとんとしている。


「どうしたの、二人してヒソヒソ話なんかして?」


「なんでもないよ」

プラーサが即答する。


「ふーん」

セーニャは気にもせず、レックを抱えてそのまま歩き出した。


しばらく歩き、石畳を抜けた先に、グレッグ将軍に指定された場所が現れた。

そこには小さな墓石がひっそりと立っていた。


刻まれているのは、ただ一行。


――ドラゴン ここに眠る。


それだけだ。


誰かがきちんと管理しているのだろう。

二年の歳月が過ぎているというのに、

墓石は苔一つなく、静かにその姿を保っていた。


「……ここみたいだな」


イヴァンスが低く呟く。


「“ドラゴンここに眠る”って書いてある」


セーニャはそっとレックを墓石の前に下ろした。


胸元の銀色の十字架に触れ、静かに目を閉じる。


それを合図に、イヴァンスとプラーサが墓石の前に立つ。


二礼。


二拍手。


澄んだ柏手が、青空に響く。


一礼。


最後の礼に合わせ、セーニャもゆっくりと頭を下げた。


女神に祈るときも、墓に祈るときも。

この国の作法は、変わらない。


礼を終え、頭を上げたそのとき。


ふと――イヴァンスの右手の甲が、じわりと温かくなる。


違和感に眉を寄せ、視線を落とす。


刻まれた竜の紋様が、ほのかに光を帯びていた。


淡い、金色の光。


脈打つように、ゆっくりと明滅している。


「……?」


「ぴぃ~!」


レックがその光に気づいた瞬間、羽をばたつかせてイヴァンスへ飛びついた。


受け止める。


腕に収まったレックは、涙目になりながら、イヴァンスの右手へと頭を擦り寄せた。


まるで――懐かしむように。


そのとき。


背後から、悲鳴が上がる。


「ひ、ひえ~! 化け物だ!!」

「ど、ドラゴンが出た!!!」


振り返れば、バカでアール隊が腰を抜かしていた。


彼らの視線の先。


イヴァンスの右手から溢れた光が地面に伸び、影を形作っている。


それは、幼いレックではない。


巨大な翼。

長い尾。

天を覆うほどの威容。


――紋様から現れた、レックの母ドラゴンの姿。

光でできた竜の影が、墓石の背後に静かに立ち上がっていた。


「た、助けて~~!!」


四人組は半泣きのまま立ち上がり、そのまま全力で駆け出していった。

振り返ることすらせず、あっという間に視界から消える。


「……なんだったの、あれ?」


プラーサが呆れたように呟く。


「さあ~?」


イヴァンスは肩をすくめる。

本当に分からない、といった顔だった。


もっとも、右手の紋様の光は、すでに静かに消えかけている。


腕の中で、レックはまだ離れようとしない。


セーニャがすぐそばにいるにもかかわらず、

小さな体をぎゅっとイヴァンスの右手へ押しつけている。


「……ぴぃ」


小さな声は、甘えるようで、懐かしむようで――

ずっと探していた存在に抱きつくときのような、愛おしさのこもった声だった。


イヴァンスは、そっとレックの頭を撫でた。

その掌から伝わる温もりに、レックは安心したように身を預ける。


「もしかして、母さんの気配を感じてるのかな」


静かな声だった。


「実はこの紋様、レックの母さんが最後の力を振り絞って俺につけてくれたんだ。

 レックと契約できるようにってね」


風が、またひとつ吹き抜ける。


プラーサが顎に指を当て、不思議そうに首を傾げる。


「竜の紋様ねぇ……。契約するだけなら、

わざわざ力を分ける必要はないと思うんだけど。何かあるのかしら?」


もっとも。


その紋様が何を意味するのか――

今はまだ、誰にも分からない。


右手の甲には、すでに光を失った竜の刻印だけが残っている。

右手の甲には、すでに光を失った竜の刻印だけが残っている。


その日の午後、レックはずっと、

イヴァンスの腕の中でまどろんでいた。


未来を知らぬ穏やかな眠り

――しかしその小さな胸には、確かな安心と温もりが満ちている。


そして、それを抱きしめる者の心にも、

静かに刻まれる、かけがえのない絆。

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