表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/107

レックの墓参り②

翌日の学園。


講義が始まる前の教室は、まだざわめきに満ちていた。

椅子を引く音、ページをめくる音、友人同士の笑い声が入り混じっている。


イヴァンスは自分の席を立ち、

窓際で本を開いているプラーサのもとへ向かった。


「プラーサ、ちょっといいか?」


プラーサは顔を上げ、柔らかく微笑む。


「ん? どうしたの、イヴァンス君」


「今度の休日、時間あるなら付き合ってほしいんだけど」


その言葉に、プラーサのまつ毛がわずかに揺れた。


「……ずいぶん唐突ね。何かあるの?」


イヴァンスは肩に乗っているレックを軽く撫でる。


「ああ、レックの母さんの墓参りに行こうかと思って。帝都にあるらしくてさ」


「お墓参り……」


プラーサの視線が、ちょこんと座るレックへ向けられる。


レックは「ぴ」と小さく鳴いた。


「レックって、プラーサにも懐いてるだろ。

 だから、一緒に来てもらえたら嬉しいかなって思ってさ」


少しの沈黙。


教室のざわめきが、妙に遠く感じられる。


プラーサはゆっくりと本を閉じ、指先で表紙をなぞってから立ち上がった。


「……で?」


視線がすっと細くなる。


「セーニャには、もう声をかけたのかしら?」


イヴァンスは一瞬きょとんとし、それから素直にうなずく。


「ああ、昨日の晩にね。宿屋に帰る前に大聖堂に寄ったんだ。

 お墓に祈りを捧げてくれるって」


「そう」


短い返事。


だがその声色には、かすかな含みがあった。


「へ~……セーニャのところには、

 昨日のうちに話を持って行ったんだ。ふぅん」


視線が静かに細められる。

からかうというより、観察するような目だ。


「そりゃ、お墓に祈りを捧げてくれる人がいた方が、墓参りらしくなるだろ?」


イヴァンスはあっさりと答える。


レックが「ぴ」と小さく鳴いた。


プラーサはその様子を見て、ふっと肩の力を抜く。


「……なるほどね。順番的にも、まずは大聖堂、というわけね」


「? まあ、そうなるな」


本気で分かっていない顔。


プラーサは小さく笑った。


「別に責めているわけじゃないわ。

 ただ、あなたがどう動くか、よく分かっただけ」


「何がだ?」


「なんでもないわ」


軽く髪を払う。


「まあ、いいわ。私も行く。

 レックのお母さんに、ちゃんと祈りを捧げないとね」


レックは嬉しそうに翼をぱたぱたさせた。


―――


昼食の時間。


学園ラウンジの一角で、

プラーサとセーニャは向かい合って食事をとっていた。

窓から差し込む陽光が、

テーブルクロスの上に柔らかな影を落としている。


周囲では学生たちの笑い声が絶えない。

昼のラウンジは、いつも通りの穏やかな賑わいに包まれていた。


しばらく他愛ない話をしていたが、

ふと、プラーサがナイフを置いた。


「そういえばさ、セーニャ」


「なに?」


セーニャが顔を上げる。


プラーサは、わずかに口元を緩めた。


「昨日の夜、大聖堂に来客があったそうね?」


ぴくり、とセーニャの肩が揺れる。


「え、ええ……?」


「イヴァンス君」


さらりと名前を出す。


セーニャの頬が、みるみるうちに赤くなった。


「ど、どうしてそれを……」


「本人から聞いたわ。

 “宿屋に帰る前に寄った”って」


「……!」


フォークを持つ手が止まる。


プラーサは楽しそうに続ける。


「ちゃんと昨日のうちに話を持っていったのね。

 ずいぶん手回しがいいこと」


「そ、それは、レックのお母様のお墓参りで……

 祈りを捧げてほしいと頼まれただけです!」


「ええ、ええ。そうでしょうね」


にこり、と優雅な微笑。


「でも、夜の大聖堂にわざわざ足を運ぶなんて。

 よほど大事な“お願い”だったのかしら?」


「ち、違いますっ!」


セーニャは慌てて首を振る。


「本当に、墓参りの件だけです!」


「そう?

 私はてっきり、もっと別の用事かと」


「べ、別ってなんですか!」


声が少し大きくなり、

周囲の視線がちらりと集まる。


はっとして、セーニャは肩をすくめ、小さくなった。


プラーサはくすりと笑う。


「冗談よ。そんなに真っ赤にならなくても」


「も~、からかわないで、プラーサ」


セーニャは頬を押さえながらうつむく。


プラーサは静かに水を一口飲んだ。


「安心なさい。

 ちゃんと私も誘われているわ」


「……え?」


顔を上げるセーニャ。


「今日の朝、正式にね」


からかうように、じっとセーニャを見る。


「あら、お邪魔虫だったかしら?

 二人っきりになるチャンスだったんだし」


「お、お邪魔虫って、そ、そんなことは……」


セーニャは再び顔を赤くする。


プラーサは楽しそうに肩をすくめた。


「当日はよろしくね、聖女様。

 しっかり祈りを捧げて差し上げないと」


「も、もちろんです!」


真っ赤なまま力強くうなずくセーニャ。


プラーサは満足げに微笑み、静かに水の入ったコップを傾けた。


昼のラウンジには、学生たちの笑い声と食器の触れ合う音が満ちている。

どこにでもある、穏やかな学園の昼休み。


墓参りという、少しだけ特別な約束も、

このにぎやかな日常の中では小さな予定のひとつにすぎない――


……はずだった。


だが、その少し離れた席で。


偶然そこに座っていたバリンスは、

セーニャの「休日」という言葉にぴくりと反応していた。


「休日……墓参り……イヴァンスと……?」


フォークを持つ手が止まる。


視線の先には、まだ少し赤い顔のままのセーニャ。


バリンスは小さく息を吸い、妙に真剣な顔になる。


「なるほど……そういうことか」


何が“そういうこと”なのかは、本人にしか分からない。


だが次の瞬間、彼の中で何かが決まった。


(聖女様が出かけるというのなら……万一の危険があってはならない)


勝手な大義名分を胸に、彼は静かに闘志を燃やす。


こうして――

静かなはずの墓参りに、

もう一グループの、余計な同行者が加わることが内定したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ