討伐隊準備
ロルフィン辺境伯は、ドワーフ国の王都にて、国王ボルサップと面談していた。
議題はただ一つ――帝国が編成したドラゴン討伐隊についてである。
討伐隊は、グレッグ将軍を総指揮官として、
国境都市アーカットの手前まで進軍を予定であった。
しかし、それはあくまでも**「ドラゴン討伐を目的とした部隊」**であり、
帝国軍の駐留や示威行動ではない。
そのため討伐隊は、ドワーフ国の領内に立ち入ることもなく、
またアーカットの市内へ入城することもない。
あくまで国境線の外、定められた待機地点に留まり、
補給・休息も最小限に抑えた上で討伐行動のみに専念する――
それが帝国側の公式な方針であることを、ロルフィン辺境伯は丁寧に説明した。
しかし、ボルサップ王の反応は警戒ではなく、純粋な好奇心であった。
「噂に聞く帝国騎士団の中心人物たちが、そこまで揃うというのか。
いやはや……それはそれで見応えがありそうじゃな」
王は愉快そうに笑い、椅子の背に身を預ける。
「せっかくなら、ドワーフ国を表敬訪問してもらいたかったものよ。
我らが帝国へ輸出しておる防具が、実戦でどのように使われておるのか――
直接、この目で確かめることもできたであろうに」
「ボルサップ国王よ。お戯れはおやめください。
王がお喜びでも、民衆が納得いたしますまい」
ロルフィン辺境伯は、わずかに眉をひそめつつも丁寧に忠告した。
「しかしのう……なんで帝国にドラゴンじゃ?
生息地は、確かフェルトス魔国に限られておったはずでは?」
王は首をかしげ、興味津々といった様子で続ける。
「我が街の冒険者ギルドからの依頼とのこと。
それ以上の情報は、全くございません」
辺境伯は淡々と告げた。
「ほう、そうかの。ならばよい。
武具が必要になったら、いつでも声をかけてくれ。
追加発注は大歓迎じゃ」
ボルサップ王は軽く笑いながら、親指と人差し指で丸を作り、ウインクした。
ロルフィン辺境伯は深く礼をし、ボルサップ王の前を辞した。
今回の討伐隊については、自分には一切関与する権限もなければ、詳細も分からない。
ただ上からの命令で、面談という役目だけを果たしたにすぎなかった。
「……よく分からんが、命令だから仕方あるまい」
辺境伯は心の中でそう呟き、ドワーフ国を後にした。
帝都では、グレッグ将軍とディハン軍務卿が中心となり、討伐隊の準備を進めていた。
帝都の討伐隊準備場は、指示や声が飛び交い、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
その中、まるで舞台の主人公のようにリパールが姿を現す。
宰相の嫡子リパールは、マルティア王女を見つけると、颯爽と駆け寄った。
「おお、王女殿。戦場に咲く一凛のバラのようですな。
だが、せっかくなら、私と一緒に優雅な舞踏会で踊っていただきたいものだ。
戦場など…あなたにはまったく似合わぬ」
リパールは手を差し伸べ、鼻にかかったような薄笑いを浮かべる。
「…リパール公爵子息、何をおっしゃっているのです?
私は王女ではなく、帝国騎士団参謀として作戦に参加しております。
そんなに女性と踊りたいのでしたら、他をあたってくださいませ」
マルティアは軽く顎を上げ、視線をそらしながら冷静に言い放つ。
まったく相手にしていないのである。
しかしリパールは、それでもあっさりと引き下がろうとはしなかった。
舞踏会の貴族よろしく、軽薄な笑みを浮かべたまま、なおも王女にすり寄ろうとする。
それを横目に見ていたグレッグ将軍が、助け舟を出す。
「マルティア参謀、ストーン村までの工程の詳細を詰める。
会議室まで、私と一緒に来るように」
「グレッグ将軍……はい、同行いたします」
マルティアの声は、明らかに上ずり、喜びに満ちていた。
周囲の騎士たちは、笑いを必死にこらえながら肩を震わせていた。
「……あの公爵子息、戦場に出たらどうなるんだろうな」
小声で囁く者もいて、リパールの見栄と軽薄さは完全に晒されてしまった。
リパールは、その場でショボーンと肩を落とすしかなかった。
舞踏会の貴族のような自信満々の振る舞いも、今日ばかりは完全に空回りである。
「……くっ、王女殿、次こそは……!」
その声はあまりにも大きく、周囲の騎士たちには丸聞こえだった。
一斉にくすくすと笑いが漏れ、誰もがリパールの無様さを心の中で楽しむ。
リパールはわずかに顔を赤らめ、唇を噛んで視線を逸らすしかなかった。
完全に晒され、戦場でも舞踏会でもないこの場で、彼の虚勢は木っ端微塵に砕けたのだった。




