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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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貴族裁判⑦

――ギィ……。


重厚な軋み音を立てて、司法省の門がゆっくりと開いた。


その瞬間、

門の外に集まっていた学園の生徒たちのざわめきが、一斉に膨らむ。

固唾を飲んで見守っていた視線が、開かれた門の奥へと集中した。


最初に姿を現したのは、マルティア王女だった。

凛と背筋を伸ばしながらも、その腕には――

小さな体を、確かに守るように抱えたレックの姿がある。


そして、そのすぐ後ろに――

少し戸惑った表情を浮かべたままの、イヴァンスが続いていた。


「……!」


群衆の中から、声にならない息がこぼれる。


「レック……! イヴァンス君……!」


セーニャだった。


その声を聞いた瞬間、

マルティアの腕の中で大人しくしていたレックが、

ぴくりと反応する。


「……ぴ?」


次の瞬間には、


「ぴっ!!」


勢いよく身をよじり、

小さな体が腕から抜け落ち、

ぽてっと、地面に転がる。


「わっ――」


制止する間もない。


小さな足で地面を蹴り、

そのまま、ふわりと宙へ浮かぶ。


「ぴっ!」


レックは一直線に、セーニャの元へと飛んでいった。


「レック!」


セーニャは迷わず両手を広げ、

飛び込んできたレックを、その胸いっぱいに抱きしめた。


「……大丈夫だったんですよね……?」


震える声。


必死に抑え込んでいた不安と恐怖が、

言葉になって溢れ出していた。


セーニャは、貴族裁判の行方を耳にしていた。

その結末は――

少なくとも、イヴァンスは退学処分になるだろう、と。


それが現実になれば、

二度と、こうして顔を合わせることはできない。


だからこそ、彼女の唇は、震えながら言葉を紡ぐ。


「……もう……もう、会えないってこと……

 ないんですよね……」


その様子を見て、

マルティアは、柔らかな微笑みを浮かべた。


「あら、セーニャさんにプラーサさん。

 わざわざ来てくれていたのね」


そして、皆に聞こえるよう、はっきりと告げた。


「大丈夫よ。

 貴族裁判は

 ――申し立て却下という形で、正式に終了したわ」


その言葉が届いた瞬間、

セーニャの瞳に、堪えていた涙がじわりとにじんだ。


「……よかった……」


ぎゅっと、

今度は確かめるように、

もう一度レックを抱きしめる。


その背後から、少し軽い声が飛んでくる。


「あらあら、セーニャ。

 こんなところでラブシーン?」


振り返ると、そこには腕を組んだベラミカの姿。


「ち、違います! お姉さま……!」


顔を赤くして否定するセーニャに、

周囲から小さな笑いがこぼれた。


少し遅れて、

イヴァンスも門の外へと足を踏み出す。

まだ状況が飲み込めていないのか、

落ち着かない様子で周囲を見回していた。


「……レック、俺たち」

「ぴ?」

「無罪、なんだよな?」

「……ぴ?」


当事者とは思えないほど間の抜けたやり取りに、

何人かが思わず苦笑する。


プラーサが、感心したようにマルティアへと声をかけた。


「それにしても……

 よく貴族裁判の申し立てを却下できましたね。

 どんな手を使ったんですか?」


その問いに、横から割って入ったのはカムシスだった。


「君の親父さんのおかげだよ。

 軍務卿~、どこまで見越してたんだ?

 まさか……全部、最初から?」


にやにやとした笑みを浮かべ、詰め寄る。


「聞きたいかね?」


軍務卿が、いつも通り涼しい顔で応じる。


「めっちゃくちゃ聞きたい!」


即答だった。


その瞬間――

横合いから、柔らかな衝撃。


「パパすごい!

 も〜最高!」


勢いよく、プラーサが軍務卿――ディハンに抱きついた。


「うおっ!?」


完全に虚を突かれた軍務卿は、

一瞬言葉を失い、そして――ほんのわずかに、頬を赤らめる。


「おいおい……!

 軍務卿が恥ずかしそうな顔してるぞ?」


カムシスが目を見開いて叫ぶ。


「めちゃくちゃレアだろ、それ!」


誰かが吹き出し、

誰かが安堵の息を吐いた。


張り詰めていた空気が、

音を立ててほどけていく。


その様子を、少し離れた場所から――

グレッグ将軍とマルティアが並んで見ていた。


二人は視線を交わし、

言葉もなく、静かに頷き合う。


――問題は、確かに片付いた。


だが、その背後。


「……くそ……」


低く、押し殺した声。


歯ぎしりの音が、やけに耳についた。


リーパルとバリンスの兄弟が、

苦々しい表情でその光景を睨みつけている。


自分たちの思惑が、

完全に打ち砕かれたことを、

否応なく突きつけられながら。


その視線に気づいた軍務卿が、振り返る。

冷え切った眼差しが、二人を射抜いた。


蛇に睨まれた蛙のように、

リーパルとバリンスは言葉を失い、黙り込む。


その空気を断ち切るように、

軍務卿は咳払いをひとつして前を向いた。


「折角です。学園長。

 本日は授業は難しいですよね」


レンミル学園長は、肩をすくめて苦笑する。


「まあ、そうだな。

 今から学園に戻ったところで、まともな授業にはならんだろう」


「では――」


軍務卿は集まった面々を見渡し、続けた。


「ここにいる皆で、スイーツ店のミューにでも行きましょう。

 皆、入学したばかりですしね。

 今後は近衛騎士団も学園にお世話になる。

 歓迎会と交流会を兼ねて」


その瞬間。


「軍務卿のおごりかよ! よっしゃ!」


カムシスが拳を突き上げる。


「今日は訓練よりスイーツだ!

 みんなで食べ放題行くぞー!!」


完全に締まりのない声に、

今度ははっきりとした笑いが広がった。


こうして、重苦しかった貴族裁判の一日は――

思いがけず、賑やかで温かな余韻を残して、幕を下ろすのだった。

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