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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

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貴族裁判③

カムシスは、ほとんど反射的に執務室を飛び出していた。

背後で扉が閉まる音がするより早く、彼の足はすでに廊下を蹴っている。


(貴族裁判だと? よりにもよって今かよ)


司法省の裁判は早い。

手続きも、判決も

――すべてが“貴族に都合よく”整えられている。

一度始まれば、外から割って入る余地はほとんどない。


それでも軍務卿は、迷いなく命じた。


――法務省へ行け。

――あの番号の書類を取って来い、と。


(ケー四、六、四、九、三、一、〇……)


走りながら、頭の中で反芻する。

ただの管理番号にしては、妙に長い。

しかも、軍務卿がわざわざ声を落として告げた。


(そこまでして引っ張り出す書類って、何なんだよ)


法務省の建物が見えた瞬間、カムシスはさらに速度を上げた。


突然駆け込んできた彼に、受付の女官が驚きの声をあげる。

「きゃ!」


カムシスは息を整え、軍務卿に言われた番号を告げると、

女官は奥へ消え、魔道具で書類の複製を始めた。

複製の魔道具がシュッと光を放ち、書類を一枚ずつ形作っていく。


待つ間、カムシスはふと隣の女官に尋ねた。

番号のことで、どうしても気になることがあったのだ。

「書類の番号って、届け出順なのか?」


「いえ、特に規定はございません。

 一応、頭文字と数字五桁以上という規定はありますが。

 ですので、

 場合によっては語呂合わせをする方もいらっしゃるのですよ。

 何か気になる点でもございました?」


「いや、大丈夫だ」


(……冗談じゃねえ。いくら何でもここまで……!

 まさかシャレでこんな番号を付けたのか……)


(ケー四、六、四、九、三、一、〇――

『けっ!よろしく宰相』って読めるじゃねえか)


カムシスの脳裏に、

軍務卿のあの鉄火面のような顔で、

にやりと笑いながら中指を立ててアッカンベーをする姿が浮かぶ。


(……まさか……いや、ありえねーよな、あの軍務卿だし!)

思わず首を振り、頭に湧いた想像を振り払う。


奥から女官が戻り、複製された書類を手渡す。

真ん中には、確かに法務省の公印が押されていた。


カムシスは書類を懐に押し込み、思わず息をつく。

(間に合え……間に合わなきゃ、イヴァンスを助けられねえ)


次の目的地は、近衛騎士団本部。

カムシスは躊躇なく執務室の扉を蹴って開けた。


その瞬間、グレッグ将軍が思わず飛び上がる。

「どうした、カムシス、何事だ?」


息を切らし、顔を真っ赤にしてカムシスは報告する。

「将軍、イヴァンスとレックが連行された。今から司法省で貴族裁判だ。

 マルティアさんも一緒だ。軍務卿が将軍を呼べって言ってる。

 今から俺と一緒に来い」


グレッグ将軍の目が、一気に見開かれる。

「な、なに、姫が!?」


驚愕のあまり、椅子につまずき、机の上の書類を豪快にぶちまける。

前のめりに倒れ込む将軍。


慌てて立ち上がろうとするも、今度は書架に肘をぶつける。

ガシャン――整理された書類が一斉に床に散乱する。

備品が一つ、無残に犠牲になり、落ちてきた書類の山に埋まるグレッグ将軍。


カムシスは軽く顔をしかめ、手を腰に当てる。

「なにやってんすか、将軍。落ち着けって。

 マルティアさんは被告じゃねーっつーの!」


それでも将軍はなおも書類の山から這い出そうともがき、

顔には焦燥が浮かぶ。

グレッグ将軍はようやく顔を上げ、

散乱した書類を押さえながら、

まだ少し肩を張ったまま声を震わせる。

「そ、そうだが……姫が……裁判にかかるだなんて……!」


威厳を失わぬよう背筋は伸ばしているものの、顔は真っ青。

足元の書類や倒れた椅子を前に、

完全に戦場での武勇伝のように振る舞える余裕はなく、

大混乱のぽんこつ将軍そのものである。


カムシスは肩を揺らして小さく笑いながら、軽く突っ込む。


「だからって、書類撒き散らすなよ。

 近衛騎士団の書類、下手すりゃ全部台無しだぜ」


少し間を置いて、カムシスは再び命令口調でなく、

普段通りのフランクな口調で続ける。

「さっさと司法省行くぞ、将軍。俺についてこい」


グレッグ将軍はようやく顔を上げ、

散乱した書類を押さえながら、

どこか諦めた表情を見せる。

「わ、わかった……」


意を決したグレッグ将軍の行動は、カムシスの予想を軽く超えていた。

(え、将軍!?)

なんと、カムシスよりも先に扉の外へ駆け出していたのだ。


先行する将軍が、振り返りざまに声を張り上げる。

「カムシス、もっと早く走れんのか!」


カムシスは息を整えつつも必死に追いかける。

「か、勘弁してよ、将軍。俺、今日ずっと走りっぱなしなんだぜ……」


街道を駆け抜けるその姿は、まるで戦場の先陣のようだ。

道行く者たちが目を丸くする。


だが、将軍はまだ完全には冷静さを取り戻せず、

途中で足を滑らせそうになったり、

腕に掛けた鞄を落としそうになったりする。


司法省の重厚な門が目前に迫る。

息を整える間もなく扉を押し開き、

廊下を駆け抜ける二人。

職員たちが驚きの声を上げる中、

グレッグとカムシスは一目散に裁判室の扉へ視線を送る。


裁判室の扉を開けたグレッグとカムシス。

壇上では司法卿の声が響き、

イヴァンスとレックの姿、

リーパルと取り巻きの貴族、

傍聴席のマルティア王女たちの姿が見えた。


――裁判は、すでに始まっていたのだ。

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