合格発表
合格発表の日の朝。
試験日と同様、イヴァンスの体は緊張でガチガチだった。
だが、今回は一人ではない。小さなドラゴンのレックが、
イヴァンスの肩のあたりでパタパタと羽を震わせている。
試験とは違い、今日はそばにいてくれる――その存在だけで、少し気持ちが和らいだ。
ニコラ会長とリクシアは、そんな様子を微笑ましく見守る。
「ほれ、もうそろそろ発表の時間だ。イヴァンスよ、行ってこい」
「う、うん……行ってきます」
レックは小さく歓声のような鳴き声をあげ、イヴァンスの横で羽をパタパタさせていた。
帝国学園の門の前までやってくると、
見覚えのある顔が立っていた。
「あら、イヴァンス君。おはようございます。とうとう今日、発表ですね。ちょっと緊張します」
セーニャは少し緊張した様子だった。
そのセーニャに、レックがパタパタと飛んで寄っていく。
「ぴ、ぴ、ぴぃ」
「あら、かわい~」
「レックって言うんだ。レッドドラゴンの赤ちゃんなんだよ」
「レック、はじめまして」
セーニャが手を差し出すと、レックはすりすりと甘える。
「レックは本当に女の子好きだな~。女の子を見つけると、すぐ甘えるんだから」
そう言うイヴァンスの言葉をよそに、
レックは首だけ振り返り、勝ち誇ったような目線をイヴァンスに返した。
「ぴぃ~」
「く、な、なんだよ、レック……」
レックとにらみ合っているイヴァンスに、背後から声がかかった。
「……あ」
振り返ると、そこに立っていたのはプラーサだった。
だが、その横にいる人物を目にした瞬間、イヴァンスは完全に硬直する。
――軍務卿。
「ぐ、軍務卿さん……でした、よね……」
あのマルティアが直立不動で報告していた光景が、脳裏によみがえる。
「……イヴァンス君だね。おはよう。結果は、もう見てきたのかね?」
「い、いえ。ま、まだです……」
すると、プラーサが横からずいっと割り込んできた。
「パパ!ちょっと怖すぎでしょ。
もう少し表情、柔らかくしないと」
軍務卿――ディハンは、わずかに咳払いをしてから言い直す。
「……おはよう、イヴァンス君。
そちらの方は?」
「お、おはようございます。
今回、帝国学園を受験しました、セーニャと申します」
「セーニャさんね。
私はプラーサ。こっちが私のパパで、ディハンって言うの」
そう言って、肩をすくめる。
「一応、軍務卿なんだけどね。
普段はめっちゃ怖そうに見えるでしょ?
でも、そんなことないから」
そして、ぱんっと手を叩いた。
「さあ、みんな。
合格発表、見に行きましょ」
学園の校庭に、合格者の名前が記された垂れ幕が掲示されていた。
イヴァンスは胸の前で思わず手を合わせ、どきどきしながら覗き込む。
――あった。
『イヴァンス』
合格者の欄に、間違いなく自分の名前があった。
「あった~~!!
セーニャ、プラーサ、合格した! やった~~!!」
振り返って叫ぶと、セーニャとプラーサも垂れ幕を見上げたまま声をあげる。
どうやら二人とも、自分の名前を見つけたらしい。
「……ありました! 本当に……!」
セーニャは両手を胸に当て、ほっとしたように笑った。
「やった! ね、ほら見て! 私もちゃんとあったでしょ!」
プラーサは満面の笑みで、ぴょんぴょんと跳ねる。
「セーニャ、プラーサ。
これからは学園の同級生だな。よろしく!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。イヴァンス君」
セーニャは少し照れたように、でもはっきりと頷いた。
「うんうん!
同級生ってことは、これから毎日顔合わせるんだからね」
プラーサはにっと笑い、楽しそうに言う。
「さあ、入学手続きがあります。
三人とも、まずはこちらを済ませましょう」
ディハンはそう言って、イヴァンスたち三人を連れ、学園の事務所へと入っていった。
当然のことながら、対応に出た事務職員は、目の前の人物を認識した瞬間、卒倒しかける。
――軍務卿が、直々に現れたのだ。
その様子を見て、ディハンは静かに言った。
「今日は公務ではない。
堅苦しい挨拶は必要ない」
その一言に、事務所の空気がわずかに緩む。
こうしてディハンは、何事もなかったかのように三人分の入学手続きを進めていった。
事務職員が呆然としているのも、無理はない。
なぜなら――ディハンは最初から、すべてを把握していたのだからだ。
受験の結果。
受験番号。
身元。
推薦状の有無。
保証人。
必要書類はもちろん、記入内容に至るまで、すでに頭の中に収まっている。
そもそも彼は、偶然ここに来たわけではない。
自分の娘であるプラーサ。
そしてイヴァンス。
さらに、聖教会から直接「頼まれている」セーニャ。
この三人を、学園に入るところまで見届ける――
そのつもりで、娘と共にここへ来ていたのだ。
仮に今日、この場で顔を合わせることがなかったとしても、
ディハンは一人ひとりを探し出し、同じように手続きを済ませていただろう。
それができるだけの権限と情報、
そして一度見た顔を決して忘れない記憶力を、彼は持ち合わせている。
「……え、あの……」
事務職員は、恐る恐る差し出された書類を受け取る。
あまりの手際のよさに、ただ呆然としていた。
「書類に、何か不備でもあるかね?」
「い、いえ。問題ありません。
本日は、合格おめでとうございます」
こうして――
イヴァンスたちの学園生活が、静かに始まるのだった。




