帝国学園の入試②
イヴァンスの魔力測定でも、実は試験官は少し困惑していた。
表示された数字は――「??80」。
これまでの測定では見たことのない、不可解な数値だったのだ。
試験官はイヴァンスに尋ねる。
「これまで魔力強化の訓練などをしたことはありますか?」
しかし、魔力に触れること自体が初めてのイヴァンスにとって、答えはただ一つ。
「ありません」
イヴァンスは魔力測定でもう一つ、気になることがあった。
後ろに座っている女の子――
「え~~~! は~やっぱりか……。
私、魔力に適性ないだろうって昔から思ってたけど、
突きつけられると結構きついよ~」
プラーサという名の女の子だった。
イヴァンスが声をかけると、プラーサはため息交じりに答えた。
「40って数字が出てね……。
もともと家で魔法の勉強をしていた時も、ほとんど使いこなせなかったから仕方ないんだけど。
現実を突きつけられると、ちょっときついのよ~」
なんだか、見ていてほっとするような和む印象を受けたイヴァンスだった。
その後、イヴァンスはセーニャと別れ、剣技の試験会場に向かった。
すると、そこには見覚えのある顔があった――シルフィスとドキである。
「あれ? イヴァンスちゃんじゃない。元気してた?」
相変わらずの調子で、シルフィスが声をかけてきた。
会場では、近衛騎士団の面々が模擬戦の試験官を務めていた。
「え……シルフィスさんにドキさんが試験官なの?
近衛騎士団の方相手で、模擬試験を通る人なんているの?
このメンバー、シャレにならないでしょう……」
イヴァンスは呆れつつも、胸の奥では少しドキドキしていた。
あのドキが試験官として立っている姿を思い浮かべるだけで、自然と緊張が走る。
「ハハハ、イヴァンス君、さすがに本気にはならないよ。
貴族の子息も大勢いるからね。ケガさせない程度に、実力を見るだけさ」
ドキと一度模擬戦を経験しているイヴァンスは、あの一度火が付くと止まらない性格をよく知っていた。
試験中に本気モードになられたら……そう考えると、思わず肩に力が入る。
「……本当? 討伐隊の野営地での模擬戦の時は、本気モードだったくせに……」
「え! えっと……そんなこともあったかな。ははは……」
イヴァンスは周囲を見渡し、他の受験者たちも次第に緊張しているのを感じた。
その視線の先で、ドキは軽く剣を振り、正確な立ち位置を確認している。
普段の軽い調子とは違う、試験官としての鋭い空気が漂っていた。
「イヴァンスちゃん、そろそろ試験始めるわよ。
ほかの受験者のところに集まってね」
イヴァンスは深呼吸をひとつして、心を落ち着けた。
剣技の試験が、ついに始まろうとしていた。
何人かの模擬戦が終了し、いよいよイヴァンスの番となった。
目の前に立っているのは、シルフィスだった。
「ちょ、ちょっと、シルフィスさん?
近衛騎士団の部隊長でしょ。
そんな方が試験官なんて、ありえないでしょ!」
さすがにイヴァンスは抗議してしまった。
「何言ってるの、イヴァンスちゃん。
この3年であなたがどれだけ成長したか確認するためには、
ドキなんかより私の方が適任でしょ~」
「いや、ただ強い人とやりたいだけでしょ……」
イヴァンスがシルフィスを睨むと、彼はいたずらっぽく目線を外した。
「さあ、イヴァンスちゃん。試験始めるわよ!」
その瞬間、シルフィスの瞳が鋭く光り、本気モードに変わった。
会場の空気がピリリと張り詰める。
「行くわよ!」
シルフィスは軽やかなステップで距離を詰め、剣を構える。
普段の軽やかなおどけた雰囲気は消え、戦士としての厳しい眼差しだけが残っていた。
イヴァンスは深呼吸をし、剣を握り直す。
胸の奥がドキドキと高鳴るが、ここで緊張に飲まれるわけにはいかない。
シルフィスが一気に踏み込み、横斬りを放つ。
イヴァンスは剣を合わせて受け止めるが、力を入れすぎると跳ね飛ばされそうになる。
必死で身をひねり、斬撃をかわす。
突き、縦斬り、回転しながらの連続攻撃。
イヴァンスは何度も剣を弾き、身をかわし、ぎりぎりで攻撃を避ける。
一瞬でも間合いを誤れば、剣先が自分に届く――全身の神経が研ぎ澄まされる。
「くっ……!」
息を荒げながらも、攻撃には手を出さず、防御と回避に集中するイヴァンス。
シルフィスの動きは速く、無駄がない。
「やっぱり部隊長なだけある……!」
頭の中で何度も呟きながら、次の瞬間に備える。
シルフィスは軽く笑みを浮かべ、剣の角度を変えて再び攻撃を仕掛ける。
イヴァンスは体をひねり、剣をかすめさせながら何とかかわす。
全く隙のない攻撃に、全神経を集中する。
戦いが続く中、イヴァンスは少しずつ呼吸と動きを整え、防御のリズムを掴み始めた。
部隊長の本気を前にしても、何とか食らいつき、攻撃をかわし続けられる――
その事実だけで、胸が熱くなるのを感じた。
あまりの激闘に、傍で見ていたドキたちも思わず見惚れていた。
試験時間を大幅に過ぎても、止めるのを忘れていたのだ。
ふと我に返ったドキが声を上げた。
「そ、そこまで!!」
その声で戦いはようやく止まる。
シルフィスもイヴァンスも、剣を握ったまま、息も絶え絶えの状態だった。
「はあ……はあ……イヴァンスちゃん、頑張ってたのね。
まさか、一撃も与えられないなんて……はあ……はあ……感動しちゃった~」
「はあ……はあ……いや、シルフィスさん、さすがに鬼でしょ。
はあ……はあ……俺まだ、学生ですらないんですよ……」
二人とも完全にその場に座り込み、剣を前に置いたまま動けない。
周囲の受験者の中には、思わず涙を流す者もいた。
それほどまでに、緊迫感と迫力に満ちた戦いだったのだ。
その戦いを目の当たりにしたイヴァンス以降の受験者の中では、模擬戦を辞退する者が続出した。
こうして、試験は無事?終了したのだった。




