縁結びの聖水の丘
ニコラ会長は、イヴァンスとクラリスに村とその周辺を案内してもらっていた。
二人に導かれて訪れたのは、村の北側にある聖水の丘。
丘の上からは、帝都やブルームの街へと続く広大な穀倉地帯が、一望のもとに広がっていた。
丘のそばでは、レックがちょこちょこと尻尾を揺らして遊んでいる。
小さな羽をぱたぱたさせながらイヴァンスの足元にじゃれつく姿に、クラリスは思わず笑みをこぼした。
「レック……今日はご機嫌ね」
クラリスがそっと手を差し伸べると、レックは軽く鼻先を押し付けて甘えてくる。
ニコラ会長は目を輝かせながら言った。
「これは……よろしい景色でんな。ここは名所になりまっせ。
女神さまの加護のある場所やから、ちゃんと女神像を作って、みんなに参拝してもらわなあきません。
あと、聖水や。この聖水を現地で飲めるように、何か入れ物を作って……。
場所の名前は『聖水の丘』。これ、めっちゃよろしいでんな。
女神さまも見てくれてはるんやから、『縁結び!』のご利益があるって、しっかり宣伝しましょ」
クラリスは驚いた顔で言った。
「縁結びなんて、聞いたことないよ……。いいの? 勝手にそんなこと言って」
その横でレックが彼女のスカートの裾にじゃれついてくる。
「こら、レック……」
思わず身体をよけながら、クラリスは小さく声を上げた。
ニコラ会長はにっこり笑って答える。
「そやったら、二人がここで初めて縁を結んだカップルにしたらよろしいがな」
イヴァンスは目を輝かせた。
「え、クラリスと……ここの名所の初めての縁組カップル、めっちゃいい!」
クラリスは顔を真っ赤にして俯いたが、
その瞬間、レックが小さな鼻先で彼女の手をつつくように触れてきた。
「ぴい」
まるで「いい提案だよね」と言うかのように、もう一度鳴きながら、
今度は甘えるように腕へとすり寄ってくる。
「も、もう……やめてよ、レック……」
思わず肩をすくめたクラリスだったが、
その仕草がおかしくて、心の中では赤面しながらも、
くすりと小さな笑いがこぼれた。
さらにニコラ会長は続ける。
「お二人さん。付き合っとんでしょ?
ほな嘘ちゃいまへんやろ。
一組でも縁が結ばれとったら、それはもう本物でんな」
クラリスは顔を赤らめながら言った。
「ニコラさん、それって宣伝に使われるんですか?
さすがに帝都で、カップルの縁結び『聖水の丘』とかで、
私とイヴァンスが出されるのは恥ずかしいです」
ニコラ会長は笑って答えた。
「大丈夫でおます。名前は出しません。
若い男女が将来を誓った、いう話を宣伝するだけでおます。
二人の思い出の場所でもあるんやから、ええんちゃいます?」
イヴァンスは目を輝かせて応じた。
「俺は大賛成! ニコラさん、よろしくね」
イヴァンスは大喜びだった。
レックもその隣で小さく「ふんふん」と鼻を鳴らし、
二人を見守るように尻尾を揺らしている。
後日、ニコラ会長は『聖水の丘』を名所とし、
縁結びの丘として宣伝することになる。
その話を聞いた村長とイヴァンスの母親は、苦笑いするしかなかった。
次に訪れたのは、アルナミンの果実の群生地である。
村を挟んだ街道の南側に広がっており、
大陸でもここでしか取れない、希少で価値のある果実だった。
しかし、レックはその果実を見るなり、クラリスの後ろに隠れてしまった。
以前、熟していないアルナミンをかじって酷い目に遭ったことがあるためだ。
クラリスは驚きながらも、そっと手を差し伸べる。
「大丈夫よ、レック」
ニコラ会長は一口かぶりつくと、目を見開きながら言った。
「これは……最初は酸っぱいけど、噛めば噛むほど甘なる。
めっちゃ癖になりそうやな。こんな果実、初めてや」
うなりながら、さらに続ける。
「いろんな果実、食べてきたけど、これは格別や。
陛下に献上できるレベルでっせ」
目を輝かせ、提案する。
「せっかくや、スイーツ店『ミュー』の店長に、
この果実使ったスイーツ作ってもらいまひょ」
クラリスも目を輝かせ、にこにこと言った。
「スイーツ! 楽しみ~。
ねえ、ニコラさん、村でもスイーツ食べられるようにしてほし~よ~」
ニコラ会長は笑顔で応じる。
「ええでおます。せっかくやし、村の人も楽しめるようにしまひょ」
少し考え込むようにして、さらに付け加えた。
「せっかくやから、これ栽培できたら村の産業になるんでっけどな。
何でこの地帯にしかできんもんか、調べなあきまへんな」
クラリスはレックを抱き上げて優しくあやしながら、
「今度は大丈夫よ」と微笑んだ。
レックも少し安心した様子で、クラリスの腕の中で小さく鼻を鳴らした。




