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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
少年期

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19/74

イヴァンス、皇帝に宣言

イヴァンスとヘルミス村長は、アルフォース城の謁見の間へと召し出された。

そこで皇帝より、ドラゴン討伐隊への協力に対する正式な褒賞が告げられる。


内容は二つ。

一つは、討伐に協力した村への報酬の下賜。

もう一つは、討伐後に保護されたドラゴンに関する件であった。


その管理および研究を目的とし、研究員としてイヴァンスを指名するという勅命である。

これによりイヴァンスは、レックを皇帝の所有物として預かる立場となった。

すなわちそれは、皇帝の保護を受けると同時に、

その監督下に置かれたことを意味していた。


これらはすべて、皇帝の名のもとに恩赦として正式に与えられるものであり、

以後、いかなる咎も問われることはない――

その旨が、謁見の間にて明確に宣言された。


ヘルミス村長は、固くなった喉を鳴らしながら一歩前に出る。

片膝をつき、深く頭を垂れた。

震えを抑えるようにして、口を開く。


「は、ははっ……このたびは、辺境の小さな村にまでお心をお配りいただき、

 誠に、誠に恐れ入ります」


言葉を探しながら、必死に続けた。


「我らはただ、討伐隊の皆様にできる限りの協力をしたにすぎませぬ。

 それにもかかわらず、このような過分なるお取り計らいを賜り……

 村の者一同、身に余る光栄と存じております」


そう述べると、再び深々と頭を下げた。


「折角できた縁だ。今後ともよろしく頼む」


その言葉は、単なる挨拶ではない。

マルティアを介し、ニコラ商会にストーン村の件を任せていたことも、

すでに把握したうえでの発言であった。


イヴァンスも村長にならい、片膝をついて頭を垂れる。

しかし――事前に教えられていたはずの言葉が、すっかり頭から抜け落ちていた。


「この度は……えっと、なんだっけ。

 この度は、レックの……けん……」


言葉に詰まり、沈黙が落ちる。


「ええい、もういいや!」


顔を上げ、イヴァンスはまっすぐ皇帝を見た。


「皇帝様、レックを俺に預けてくれてありがとう。

 俺、レックのこと、大切に育てるから」


さらに続ける。


「それに、レックのお母さんのお葬式もしてくれるって、

 ちゃんとお墓も作ってくれるって聞いた。

 レックも、きっと喜んでると思う」


一度、息を吸い込んでから――


「皇帝様には、感謝しきれないよ。

 だから俺、成人したら騎士団に入って、

 ちゃんと皇帝様に恩返ししようと思う」


その場の空気が、凍りついた。


ヘルミス村長をはじめ、周囲の文官たちは顔色を変え、

グレッグ将軍も思わず額に手をやる。


――謁見の間で、これは完全に規格外だ。


宰相はわずかに眉をひそめ、低く息を吐いた。

形式を重んじる彼にとって、今の発言は看過しがたい。


外務卿に至っては、ついに堪えきれず声を荒げる。


「不敬であるぞ! たとえ子供とはいえ、許されぬ行為である!

 衛兵、ひっとらえよ!」


イヴァンスを指さし、取り押さえるよう命じる。

衛兵たちは、わずかにためらいながらも一歩踏み出した。


だが――


ただ一人、マルティアだけが、

袖口で口元を隠しながら、くすくすと笑っていた。


その様子に、皇帝は面食らったように目を瞬かせ、

しばし沈黙する。


そして次の瞬間――

膝を叩き、大きく笑い出した。


「はーっははは!! これは愉快だ!

 は、は、は……!」


皇帝の笑い声が、謁見の間いっぱいに響き渡る。

やがて笑いが収まり、静寂が戻ったところで、皇帝は口を開いた。


「外務卿よ。――まあ、抑えよ。

 まだ十二歳の少年だ。礼儀は、今からでも身につく」


視線を巡らせ、衛兵に告げる。


「衛兵も下がっておれ」


そして、再びイヴァンスを見る。


「イヴァンスよ。

儂に、恩返しをしてくれるとな」


「ああ、皇帝様!」


弾むように、イヴァンスは顔を上げた。


「俺、グレッグ将軍みたいになりたいんだ。

 騎士団で強くなって、――好きな子を守りたいんだ」


その言葉に、再び場が静まり返る。


「ほう、好きな子とな」


「うん。クラリスって子なんだ。

 村長さんの娘なんだ」


その名を聞いた瞬間、話を振られたヘルミス村長は、

さらに血の気が引いた。


「村長よ。娘の良い伴侶が見つかったではないか」


「は、はは……ありがたきお言葉にございます」


皇帝は内心、ふっと苦笑する。


(グレッグも、これくらい積極的であればな……)


ちらりとグレッグ将軍へ視線を向けると、

当の本人は、わずかに咳払いをして視線を逸らした。


「イヴァンスよ。そなたは、まだ十二歳か。

 ならば、あと五年だな」


皇帝は穏やかに、しかしはっきりと告げる。


「楽しみに待っておるぞ。――精進せよ」


その言葉には、叱責でも試す色でもなく、

純粋な期待だけが滲んでいた。


皇帝にとって、今回の討伐隊は、

イヴァンスを帝国へ引き入れるための布石でもあった。

ゆえに、この申し出は――願ってもない展開である。


皇帝はふと視線を巡らせ、

この席でただ一人、くすくすと笑っていたマルティア王女を見た。


「マルティアよ。……予想しておったのだろう。まったく」


軽く肩をすくめるその仕草に、

謁見の間に張り詰めていた緊張は、ようやくほどけていく。


こうして、皇帝による謁見は――

何事もなく、無事に終了したのだった。

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