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幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり


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13/16

村でのひと時

翌日、マルティアはシルフィスを呼び、

イヴァンスとレックを村長の家に招くよう命じた。


レックというドラゴンを飼うということは、

もはや個人の裁量で済む話ではなく、

帝国として正式な判断と管理を要する案件である。


加えて、村の討伐隊に対する正式な報酬授与の件も残されていた。


この件については、

近く帝都より村長とイヴァンスに対し、

正式な招集がかかる可能性が高い。


それであれば、討伐隊の任期中の帰還に同行してもらった方が、

手続きや時間の面で効率が良い

――そう判断したのだ。


出発は二日後と定めた。

それまでの間、村とその周辺の状況を調査し、

この地で新たな産業を興すことができないかも、

併せて検討することとした。


村長が出発の準備を進めている間、

クラリスとイヴァンスが、村の周辺も含めて案内役を務めることとなった。


最初に向かったのは――聖水の丘である。

そこは教会が管理する聖地であり、

村では成人の儀が執り行われる場所としても知られていた。


マルティア、イヴァンス、クラリスの三人とレックは、

連れ立ってその丘を訪れている。


道すがら、クラリスがマルティアに、

聖水の丘にまつわる由来を語り始めた。


「この丘は……昔、女神が

“地上に最も近づかれた場所”だと

伝えられているんです。


遥か昔、魔物の侵攻で村々が滅びかけた時代、

女神は地上に降り立たれることはなく、

ただ一滴の“祈りの雫”を

この地にお落としになったと

言い伝えられています。」


「その雫が大地に染み込み、

やがて清らかな水となって湧き出した――

それが、聖水の丘の始まりだそうです。


病を癒す、あるいは魔を祓う水だと

語られることもありますが……

本来は、“覚悟を示す場所”なのだと

教会では伝えられているんですよ」


成人の儀がここで執り行われるのも、

新たな人生の節目に、

女神へと祈りを捧げるためだそうです。


そう語るクラリスの声には、

王女を前にしてなお揺るがぬ、

村で育った者としての静かな誇りが滲んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

――天界――


水晶の奥に、小さな丘が映っていた。


「……あら。

まだ、あそこは残っていたのね」


女神ミロネは、水晶の中に映る丘を懐かしむように見つめていた。

それ以上は何もせず、

水晶からそっと視線を外した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


マルティアは、ふと湧き水を見つめてクラリスに尋ねた。

「この水……触れても大丈夫なの?」


「はい、マルティアさん。大丈夫ですよ。

聖水って呼ばれてはいますけど、

ただの湧き水ですから」


そう言って、クラリスは丘の下方を指さす。


「ここから流れ出た水は、

そのまま村に引かれて、

みんなの飲み水になっているんです」


話を聞いていたのか、

レックも興味深そうに湧き水へ顔を近づけ、

ためらうことなく口をつけて水を飲み始めた。


「こら、レック。もう……」


クラリスは、勝手に水を飲むレックを見て、

呆れたように肩をすくめた。


マルティアは思わず、くすりと笑った。

レックは意味が分からないとでも言いたげに、

小さく首を傾げている。


「証明してくれなくていいのよ、レック」


そう言って、マルティアは柔らかく微笑んだ。


「いつ来ても、ここは見晴らしがいいよな。

マルティアさん、ここは俺のお気に入りなんだ」


イヴァンスはそう言いながら、

気持ちよさそうに両手を上へと伸ばした。


気持ちのいい風が、丘を吹き抜ける。

マルティア、クラリス、イヴァンスは、

しばしの間、何も言わずに景色を眺めていた。


ふと、クラリスが口を開く。

「マルティアさん、このまま丘を下って、

少し街道の方へ行ってみませんか?

天然のアルナミンっていう果実が、

実っている場所があるんですよ」


「少し酸っぱいんですが、

これが癖になるんです」


クラリスの言葉に、マルティアは微笑んだ。

「いいわね。行ってみましょう」


そうして一行は、

丘を下り、街道へと続く道の途中にある

アルナミンの群生地へと足を延ばした。


群生地には、紫色のアルナミンが実っていた。

あたり一面に広がるその光景は、

思わず足を止めたくなるほどだった。


クラリスは程よく熟れた実を選び取り、

ひとつマルティアへと差し出す。

大きさは、ちょうどスモモほどである。


「本当だわ。表面は少し酸っぱいけれど、

中はとても甘いのね」


「村の子どもたちのおやつだからな」

イヴァンスが、どこか誇らしげに答えた。


そのとき、

まだ熟れていない実に口をつけたらしいレックが、

「ぴぃ……」と情けない声を上げ、

涙目になっている。


「大丈夫、レック」


クラリスはそう言って、

心配そうにレックの背中をそっと撫でた。


その様子に、

マルティアも、イヴァンスも、

思わず笑みをこぼす。


穏やかな笑い声が、

丘の下の静かな森へと、

ゆっくりと溶けていった。

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