表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染と婚約したけど聖女も好きになったので頑張って爵位を取り、二人の女の子と結婚したい件  作者: ふくみどり
帝国学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/136

魔約の塔の戯れ

魔約の塔の前。


重厚な石造りの門の前に、ディハン軍務卿とカムシスの姿があった。


周囲には人影はない。


いや――正確には、近づかない。


避けている。


無意識に。


「……ここか」


カムシスが小さく呟く。


視線が、塔の上へと吸い寄せられる。


見上げているだけで、胸の奥がざわつく。


理由は分からない。


だが――本能が拒絶している。


「行くぞ」


ディハンは迷いなく足を踏み出した。


門が、音もなく開く。


歓迎でも、拒絶でもない。


ただ――通す。


その事実だけが、不気味だった。


「……マジかよ」


カムシスが苦笑する。


「帰りてぇんだけど」


返答はない。


二人はそのまま塔の内部へと足を踏み入れた。


階段を上る。


ひたすらに。


音が、やけに響く。


自分たちの足音だけが、この空間に残る。


誰もいないはずなのに。


見られている気がする。


視線の正体は分からない。


だが、確実に“何か”がいる。


「……気のせいだよな」


「気のせいだ」


即答。


だが、その声に確信はない。


最上階。


扉が、開かれる。


そこにあったのは――


“六つの気配”


視線が、一斉に向けられる。


重い。


空気が、沈む。


息をするだけで、肺が軋むような圧。


「おや」


静かな声。


「これは珍しい」


ボルックスが、わずかに口元を緩めた。


「軍務卿自らお越しとは」


「久しいな、ボルックス」


ディハンは一切の躊躇なく踏み込む。


その後ろで、カムシスの足が一瞬止まる。


だが――遅れて続いた。


逃げ場は、もうない。


「用件は分かっている」


ボルックスの言葉。


「ナピドラ連邦絡み、なのでしょう?」


「感知したのか」


ディハンは短く答える。


その時だった。


「え、なになに?ディハン、何しに来たの?」


軽い声。


場の空気にそぐわない声色。


セラフィスだった。


いつの間にか、そこにいる。


最初からいたかのように。


「依頼だ」


即答。


「ファーリン街道の野盗。

 生け捕りでの確保が必要だ」


「え~……」


セラフィスの表情が、わずかに歪む。


露骨な嫌悪。


だが、それは“面倒”とは少し違う。


「それで、わざわざ来たの?」


確認するように問い返す。


「生け捕り?」


一拍。


視線が、ほんのわずかだけ逸れる。


考えているようで――違う。


触れたくない何かを、無意識に避けるような間。


「……なんか、やだ」


短く、切る。


先ほどまでの軽さが、ほんの少しだけ消えていた。


「面倒くさいし」


付け足すように言う。


だが、それは理由ではない。


ごまかしに近い。


「そういうの、今回は関わりたくない」


はっきりとした拒絶。


珍しく、曖昧さがない。


余地もない。


「どうあっても受けないのかね?」


ディハンの声は変わらない。


試すようでも、強制するでもない。


ただ事実を置く。


「う~ん……」


セラフィスは少し考える素振りを見せた。


本当に考えているのかは分からない。


だが――


「じゃ、イヴァンス君にさせたら?」


あっさりと言った。


「……何?」


カムシスが思わず反応する。


「気配消しの練習してたんだし。ちょうどいいんじゃない?」


軽い。


あまりにも軽い判断。


「レッドシャドウからは――」


指を折るように数える。


「スリープ使えるスランザと、気配消しの達人のジャック出してあげる」


その瞬間。


「まじまじまじまじまじ!」


ジャックが飛び上がった。


「ぼくちゃん外出できるの!?まじで~!?」


目が輝く。


狂気と喜びが混ざる。


「やるやる!絶対やる!」


「うるさい」


セラフィスが軽く言う。


「でも、人殺しちゃだめなんだからね?」


空気が、一瞬だけ変わる。


見えない圧が、静かに沈む。


「でもさぁ~」


間延びした声。


ジャックが肩をすくめながら口を挟んだ。


「ナイフが心臓に刺さって、うげ~っとかさ。

 そういうの、偶然ってのもあるじゃん?」


くつくつと笑う。


悪びれる様子は一切ない。


まるで、本当に“よくあること”でも語るように。


――その瞬間。


「……ジャック」


セラフィスの声が落ちた。


先ほどまでの軽さが、消える。


「従わないなら――消すわよ」


平坦な声音。


感情はない。


だが、冗談でもない。


空気が、凍りつく。


逃げ場は、ない。


ほんの一瞬前までの軽さが、完全に消えた。


「……は、はは」


ジャックが乾いた笑いを漏らす。


視線がわずかに泳ぐ。


「いやいや、冗談だってセラっち~」


両手を軽く上げる。


いつもの調子。


――の、はずだった。


「ちゃんとやるって。うん。

 殺さない殺さない。ぼくちゃん、優しいからさ?」


言葉が、少しだけ早い。


「ほら、ちゃんと加減するし?

 心臓とか絶対狙わないし?」


笑っている。


だが、その笑みは引きつっている。


「命令、ちゃんと守るって。マジで」


最後は、はっきりと言い切った。


冗談ではない。


誤魔化しでもない。


――従う、という意思表示。


それを確認して、


「ならいいわ」


セラフィスは何事もなかったかのように言った。


さっきまでの空気など、最初から存在しなかったかのように。


「スランザもいい?」


視線が向く。


「……命令なら仕方ねぇな」


面倒そうに肩をすくめる。


「やりゃいいんだろ。ったくよ」


低く吐き捨てる。


だが、拒否はしない。


沈黙。


ディハンは一歩、前に出た。


「それで構わん」


迷いはない。


「イヴァンスにはこちらから通達する」


「よろしく~」


セラフィスは軽く手を振った。


まるで、どうでもいいことのように。


その場にいる誰もが理解していた。


これは“任務”ではない。


――遊びだ。


だが。


その遊びが、どれほどの影響を及ぼすか。


まだ、誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ